サンスターストロボレポート
進化が止まらないデジタルカメラの機能の中で、特に驚くのが加速しつづける高感度性能です。
『Nikon D5』の常用感度 ISO 102400 を知ってしまったら、
室内撮影はもちろん、夜間撮影でもストロボの出番が無くなってしまうのではという声も聞こえてきます。
そんな矢先に大型ストロボメーカー「サンスターストロボ」から商品説明会のオファーをいただきましたので
業務用ストロボならではの用途と使いかたを学びに、名古屋にある本社工場へ伺ってきました。
まずはディレクターの冨岡さんから、大型ストロボについて説明をいただきました。
ストロボの性能を図る上でよく聞くのが「ガイドナンバー」という光量の大きさですが、
業務用ストロボはリフレクターと呼ばれるお椀型の反射板やアンブレラで光量が変わるのでガイドナンバーという概念が無いそうです。
では、大型ストロボにはどのような種類があるのでしょうか?
まずはヘッドと呼ばれる発光部。
お椀の中の発光管が左のモデルはUの形をしているのに対し、右側はCの形をしているのに気付かれましたか?
コンパクトでモデリングライトの交換もし易いCタイプが今の主流だそうですが、
U型の方がリフレクターに多く光が当たるので光のアレンジがしやすい特徴があるようです。
次は「ジェネレーター」と呼ばれる電源部です。
強力な光を得るために、この中で最高700Vの電気を充電し発光部に電気を送り込みます。
光の強さの調整もこのジェネレーターで行い、最大3灯まで接続することができます。
光の強さをコントロールする調光方式には、「電圧調光」「コンデンサー調光」「シリーズカット調光」と3種類あって、
ジェネレーターも調光方式によってモデルが異なります。
電圧調光:ジェネレーター内に貯める電圧を変化させ調光します。
構造がシンプルなので低価格なのですが、出力によって色温度の変化が大きいというクセがあります。
コンデンサー調光:電気を貯めるコンデンサーに容量の異なるものを多く搭載し、これらを組み合わせて出力を変化させます。
これにより電圧が安定し、色温度もほぼ一定になるという長所がありますが、その分大型で高価です。
シリーズカット調光:大容量のコンデンサーに貯めた電気を発光させ、その閃光を途中で遮断することで調整します。
閃光を遮断するので高速閃光も可能で、一般的なクリップオンストロボもこの調光方式を採用しています。
ストロボの発光は一瞬のように感じますが、実はそれほど早くなく1/500秒~1/125秒程度。
撮影に向くカメラのシャッタスピードは1/125秒〜1/60秒程度と言われています。
基本的な部分ですが、シャッター幕のシンクロ同調速度(カメラによって、1/180秒~1/320秒など)を上回るシャッタスピードに
カメラ側を設定していると、閃光中にシャッターが閉じてしまい、露出アンダーやシャッター幕の写り込みが発生します。
使用できるシャッタスピードに制限がある部分もストロボを扱う上で理解しておきたい部分です。
シャッタースピード1/60秒(左)では、ストロボの光を全て利用したのに対し
シャッタースピード1/500秒(右)では後幕が影を落としました。
大型ストロボに限らずストロボ使用する際は、カメラのブレを気にする場合はシャッタースピード1/125秒以下、
発光したストロボ光を全て利用するには1/60秒が最適ということが分かりました。
ストロボの種類と特徴を学んだ後は、業務用ストロボならではの活用方法を見学です。
本社1階はスタジオになっており、たくさんの機材が並んでいます。
道路からスロープでつながっているスタジオは自動車を運び込んで撮影することもできるとか。
さすが世界最大手の自動車メーカーを有する街です。
確かに自動車など大きなものは業務用大型ストロボでなければ撮れません。
接続はヘッドとジェネレーターを専用ケーブルで繋ぐだけ。
カメラのホットシューにつけるワイヤレス送信機があると便利です。受信機はジェネレーターに取り付けます。
ディフューザーと呼ばれる光を拡散させる傘を必要に応じて取り付けます。これにより広い範囲の光をコントロールすることができます。
右写真の超大型ディフューザーは近日発表される新製品。サンスターストロボで販売されている中では最大サイズとのこと。
組み立てが終わったらモデリングライトを発光させ、光の当たり方や影の出方を確認しながら向きや強さを調整して準備完了。
では早速プロの作品をご覧いただきましょう。
焦点距離:35mm / 絞り:F4.5 / シャッタースピード:1/80秒 / ISO:100撮影機材:Canon EOS 5D Mark III +EF16-35mm F2.8L II USM
焦点距離:35mm / 絞り:F5 / シャッタースピード:1/80秒 / ISO:100撮影機材:Canon EOS 5D Mark III +EF16-35mm F2.8L II USM
スロトボを使うことの利点としては、光が不足する際に光を補うことができる点だけでなく、
太陽光に比較的近い色温度をもつストロボ光をあてることで被写体のもつ色合いをきちんと発色させられることは
多くの方がご存知と思います。
大型ストロボならではの利点としては、大きな電源部を活かした高速チャージだけではなく、
二枚目の作例のような「陰影」を作り出すことが容易である点が特に重要な部分です。
もともとの光量が大きいからこそ、照明を落として色被りを避けつつも主要な被写体には充分な光を回すことができますし、
光の回る部分と回らない分の強弱をとことん付けることで、いわゆるコマーシャルフォトのような非日常的な写真を作り出せます。
もっと一般的なシーンで言えば、陰影を意識して衣服の質感を浮かび上がらせたり、
食器や瓶など曲面で構成された被写体の影の部分のトーンが立体感を生んだり…と写真がより奥深くなります。
カメラメーカーの販売しているクリップオンストロボを使い込まれた方にはよくご理解頂けていると思いますが、
ディフューザーなどで拡散させ柔らかい光質にしたうえで充分な光量を主要被写体にあてることは難しく
どうしてもカメラ側での増感が必要です。
拡散させずに直射で固い光を当てればスポットライト的に適正露出は得られるでしょうが、
いわゆるフラッシュをあてました、というような生々しさが気になりますよね。
先ほどの説明の通り、屋内でのストロボ光をメインとした撮影ではシャッタースピードは決め打ちになりますので、
明るさはストロボ光、レンズの絞りでコントロールしていきます。
その際にクリップオンストロボのフル発光でも足りない場合や、ストロボの負担を軽減したい、
チャージ時間を短縮したい場合など、割とカメラ側の増感設定で補う機会は多いです。
極端な言い方をすればより光量の大きな大型ストロボに置き換えるだけで、被写界深度を絞りで決めた後はカメラの設定はそのまま。
明るさや光の回り方はすべてストロボの調整だけに専念できます。
続いてスタジオ上の修理や点検を行なっている作業スペースを見せていただきました。
正面グレーの箱の中には発光管が入っており、左のオシロスコープで光の強弱を時間軸で確認することができるそうです。
ストロボ発光直後の光がもっとも強く、だんだんと弱くなっていく様子がわかります。
ゼロになるまでの時間が、先ほどの調光説明時の総閃光時間にあたります。
発光量はケーブルの長さによって低下するそうです。
延長ケーブルを使用した時(左)の波形と延長ケーブルを使用しない時(右)の波形からも光量の低下が見てとれました。
ケーブルにもサンスターストロボのこだわりがあります。ズラリと並ぶカラフルなケーブルは圧巻です。
柔らかく抵抗をすくなくするため、様々な種類を使い分けているとのことです。
発光の瞬間、発光部は6000℃の熱を持つとのことで、ケーブルも熱に強いものを使用しています。
一般的なケーブル(左)は、はんだごてにあてるとすぐに煙が発生するのに対し、ストロボ用ケーブルは、
長時間あてていても溶ける気配がまったくありません。
こちらはジェネレーターの内部を動作確認用に広げたもの。
修理で預かった商品の部品と付け替えて故障の原因を究明するのに使用するそうです。
国内メーカーだからこそのスピーディーな対応と高い信頼性は心強い限りです。
有名テーマパークのアトラクション撮影にも使用されているサンスターストロボは
年間で約36万回発光しても壊れない実績があるとのこと。
コードに引っかけて倒さない限りは、まず壊れない安心の国内ブランドです。
最後に「CP+2016」でも発表されたばかりの新製品も見せていただきました。
「C4」という名称の新モデルは、発光部と電源が一緒になった「モノブロック型」
本機の大きな特徴はBluetooth機能搭載で、iPadのアプリから複数台同時に光量コントロールが可能になったとの事。
モノブロック型は、光量の設定の都度各ライトの側まで行き調整する必要があったものが
カメラから離れず調整できるようになったため、よりスムーズな撮影が可能になりました。
もちろん故障の最大要因でもあるケーブルでつまづくなどの事故を減らすことにもなります。
ACコードを差し込むだけで使えるモノブロック型はとても手軽なので、省スペースでの物撮りにも重宝します。
業務用ストロボデビューには最適な1台となりそうです。
単に撮影用に明かりを足すのではなく、作品の質感をコントロールするのに重要なアイテムであることがお伝えできれば幸いです。