【極私的カメラうんちく】第36回:ライブビューが見通す未来
最近のデジタル一眼レフでは、「ライブビュー機能」という言葉をよく耳にする。
今年のオリンパスE-410/510の発売以降、昨年までは殆ど見かけることが無かったライブビュー機能が各社から次々と発表され、年末に発表された新型機ではことごとく搭載されている状態である。
これほどまでデジタル一眼レフにライブビュー機能が搭載されることになった理由とは何なのだろうか。
「ライブビュー機能」とは撮影「前」の映像をカメラ背面の液晶モニターで確認できる機能のことで、一眼レフ以外のデジタルカメラでは当たり前の性能だが、一般的なデジタル一眼レフの場合は撮像素子の前には大きなミラーとシャッター幕が配置されており、ミラーとシャッター幕は撮影の瞬間にしか退避しないため、撮影「前」の映像を背面液晶に表示することは困難である。つまりデジタル一眼レフのライブビューの実現には、撮影前にミラーアップとシャッター開放の状態を維持し、液晶画面に映像を映し出す新たなしくみを作る必要がある。
またデジタル一眼レフの特殊事情として、ライブビュー機能を使用すると普段はシャッター幕によって覆われている撮像素子表面が、長時間にわたってミラーボックス内部の外気にさらされる。そのためライブビュー機能の安定した実現には撮像素子のセルフクリーニング機能の実装が理想的といえる。ライブビュー機能が、概ね撮像素子のセルフクリーニング機能を搭載したカメラに実装されているのは、決して偶然ではないのかも知れない。
ライブビュー機能の搭載は、低価格帯のデジタル一眼レフにとってEVF機(ネオ一眼)やコンパクトデジタル機に対抗する意味合いが多分にあると考えられる。コンパクトデジタルやEVF機の使用経験しか無いビギナーユーザーの多くが、背面の液晶モニタに撮影前の映像が映し出されていないと不便や不安を感じるのは容易に想像がつく。今や背面液晶でプレビューをするのはデジタルカメラのビギナーユーザーにとって当たり前の行為ととなっているのだ。そこで光学ファインダーに加えて背面液晶によるライブビュー機能を搭載することにより、ビギナーユーザーの一眼レフへの「参入障壁」を大幅に緩和する目論見は多分にあるだろう。
また、ライブビュー機能は中級機以上のデジタル一眼レフにも積極的に導入されているが、こちらはむしろ光学ファインダーよりもさらに自由度の高い撮影アングルの獲得や、拡大機能を利用した超精密なピント合わせ、また光学ファインダーには無いカラーバランスや露出のシミュレーション機能などを駆使することによって撮影領域の拡大や確実性の向上に貢献することをアピールしているといえる。
しかし以前にこのコラムでも指摘したとおり、一眼レフの光学式ファインダーが「光速で」表示が可能である以上、たとえ僅かといえども時間が掛かる電気的な処理を介したプレビュー機能がどんなに便利に進化しても、光学式ファインダーがそれにとって代わられることは無い。
過去を振り返ってみると、世界初のライブビュー機能を搭載した一眼レフは(筆者が知る限り)オリンパスE-10(2000年)ではなかっただろうか。オリンパスE-10は35-140mm相当のズームレンズを固定式としながら当時のデジタル一眼レフとしてプロ仕様のスペックを備え、オリンパス唯一のデジタル一眼レフとしてラインナップの頂点に位置していた。E-10が比較的容易にライブビュー機能を実現できた理由は、一眼レフでありながら可動式のミラーを持たず、撮像素子の前にはミラーの変わりに「ビームスプリッタ」と呼ばれるハーフミラーを内蔵した光学ブロックが配置され、撮影レンズから入った光線をファインダー側と撮像素子側にそれぞれ振り分けていたためである。ビームスプリッタは、ちょうどキヤノンがEOS RTやEOS-1N RSに搭載した「ペリクルミラー」のような役割を果たしていた。そのため撮像素子はいつでも撮影レンズから入った光を受け取れる状態にあり、ライブビューが可能だったというわけである。
また、可動式ミラーを持つ一眼レフで最初にライブビュー機能が搭載されたのは(これも筆者の知る限りだが)キヤノンEOS 20Daだったと記憶している。EOS 20DaはEOS 20Dをベースに天文写真に特化した受注生産カメラボディで、赤外フィルターの透過特性が一般のカメラと異なっていたほか、当時としては異例のライブビューモードを搭載し、撮影前の映像を背面の液晶モニターに拡大表示することによって、天体撮影に不可欠な手動による超精密なピント合わせが可能となっていた。(EOS 20Daの受注は既に終了しています)
かつて黎明期の一眼レフは、フォーカシングスクリーンに投影された画像を上から覗き込む「ウェストレベルファインダー」が主流だった。しかしウェストレベルファインダーは投影された映像の左右が逆になってしまうため、当時カメラを眼の高さで構えられて、しかも上下左右が整ったファインダー像が得られていたレンジファインダー機に比べると、当時の一眼レフは機動性の面において明らかに見劣りしていた。しかし、その後一眼レフはペンタプリズムを内蔵したアイレベルファインダーを獲得することにより、左右上下が整ったファインダー像を手に入れ現在へと続く繁栄を築いてきたのである。その点まさに一眼レフとアイレベルファインダーは常に一体化して進化を続けてきたといえる。そして今、デジタル化という大きな荒波の中で一眼レフはライブビューという新たなプレビュー機能を獲得した。既に幾つかの機種ではフリーアングルでも撮影が可能になっている。その機動性の向上は黎明期の一眼レフのアイレベルファインダーに匹敵するといっても過言ではないだろう。
もしかすると、ライブビュー機能には一眼レフに新たな繁栄をもたらす力が秘めてられているのかも知れない。