棚から ローライ その1
ある日、棚を開けたらローライの二眼レフカメラが出てきたとします。
・・・んなもの、都合良く出てくるか?! なんて、言わないでください。
どんな家にもエアポケット的な空間があって、この前まであったものが突然姿を消してしまったり、
失くしたと思っていたものが、一度は探したはずの所から出てきたり…
まぁ、そんなわけで棚からローライが出てきたとします。
さて、どうしましょう? 選択肢は3つ。
①マップカメラに売る。
(「高額で買い取らせていただきます。」→宣伝です。)
②マップカメラで下取交換して、最新のカメラを買う。
(「お買い求めいただくお品物の額により、査定額の10%アップも可能です。」→宣伝です。)
③いずれはマップカメラに売るかもだけど、とりあえず撮影を楽しんでみる。
①②も大変魅力的ですが(→宣伝です。)今回は③にしましょう。
ローライの二眼レフフィルムカメラ、ローライフレックス。
一度眼にしたら忘れられない、なんとも気品漂うそのフォルム。
「これぞ、クラシックカメラ!」と言いたくなるようないで立ちです。
どこかのアンティークショップに飾りとして置いてある物しか見たことがない、なんて方もいらっしゃるでしょう。
こんなんで本当に写真が撮れるの?
ええ、撮れますとも。 一見工芸品を思わせる佇まいですが、構造はいたってシンプル。
一眼レフカメラは、ファインダーでピントを合わせ、その光景をフィルム(デジタルカメラではセンサー)に届けるために、
高速でミラーを上下させる必要があります。
しかし、二眼レフの場合、2つ並んだレンズが、それぞれ異なる役目を持っています。
下のレンズが撮影レンズで、シャッターが組み込まれていて、適切な量の光をフィルムに届けます。
上のレンズはフォーカスレンズ。 撮影者は、ミラーを介してボディの真上からファインダーを覗き、ピントを合わせます。
ミラーがパタパタしないので、撮影はいたって静か。
カショッという小さなシャッター音のみで、ショックもほとんどありません。
同じ中判カメラの雄で一眼レフ構造のハッセルブラッドが、バコッという大きな音とミラーショックで
存在をアピールする?のと、まさに対極をなしています。
1929年にローライフレックス オリジナルとして世に登場して以来、ローライの二眼レフは様々な改良を重ねながら、
しかし基本的なフォルムは変わらないまま、時を歩んできました。
(そのへんの歴史的な話は、また後日ということで…)
使用するフィルムは、120(ブローニー)フィルムという、中判カメラ用のものです。
フィルム1本で、6×6センチの正方形の写真が12枚撮れます。
……たったの12枚?!
そう、12枚です。
メディア1枚で1000枚以上も撮影可能な今のデジタルカメラから見れば、なんとも効率の悪い話ですね。
でも、それがまたフィルムカメラの味でもあります。
1本で12枚しか撮れないのだから、撮影するときはかなり真剣にカメラを構えます。
露出は勿論、構図もしっかり練って、手ブレに気をつけながらカショッ…
1枚1枚に思いが込められていきます。
さて、今回使用するローライは、ローライフレックス 3.5F(プラナー)
ローライフレックスの、ひいては、二眼レフカメラのひとつの完成形ともいえるローライフレックス Fシリーズ。
3.5F(1958-1976)と2.8F(1960-1981)の2機種があります。
外装や機構は全く同じ。
違いは撮影レンズ。 3.5Fには75mmF3.5のレンズ、2.8Fには80mmF2.8のレンズが搭載されています。
さらに、それぞれのカメラのレンズとして、
カールツァイス社製のプラナーとシュナイダー社製のクセノタールのレンズが用意されていました。
つまり、Fシリーズとして4種のカメラが存在していたのです。
当時日本では、より明るいレンズを搭載した2.8F、それもツァイス製のプラナーが圧倒的人気でした。
ただ、3.5Fの方がレンズが小さい分、ボディバランスが良く、シャッターレリーズのトルクも軽かったので、
プロ好みのカメラとされていました。
そんな通好みのカメラが今回の撮影のお伴です。
ところで、そろそろ撮影の話に移りましょうか。
こんなクラシカルないで立ちのカメラが似合う所は… と考えを巡らせ撮影に向かったのは、
東京小金井の「江戸東京たてもの園」
江戸から明治・戦前の歴史的な建造物を移築・保存している野外博物館です。
撮影日は、ゴールデンウィーク直前の平日……って、かなり前の話です。
ここで予めお断りしておきますが、このブログには「今が旬」というものは存在しません。
筆者は「雨ニモマケテ 風ニモマケテ 雪ニモ 夏の暑サニモ負ケル」怠け者です。
休日の活動が簡単に休止状態(スリープモード)に陥るタイプです。
(仕事はします。 一生懸命します。 ええ、しますとも…)
たまにスイッチが入ると撮影に勤しみ、歩き回ったりしますが、その後は気が向いた時にスキャンをし、
気が向いた時に文章をつらつらと綴るスタイルです。
……なので、ゴールデンウィーク前の平日です。
皆様も「そういえば、ゴールデンウィークの頃、どこそこに行ったなぁ…」とか、
「あんなことや、こんなことしたっけ…」と
ご自分のその時を思い出しながら見ていただければ幸いです。
そう、写真は過ぎ去った「あの時」に思いを馳せるためのものでもあるのです。
(うん、いいこと言った…)
だからこその、ゴールデンウィーク前の平日です…
「江戸東京たてもの園」は、広大な都立小金井公園の一角にあります。
桜の名所としても有名な公園ですが、行った時は既にフジの花も咲き始めていました。
ローライフレックス 3.5F(プラナー) フジフィルム ベルビア100F
空は青く晴れ渡り、陽射しはこの時期としては少し強めでしたが、
新緑の瑞々しい若葉が作り出す木陰は、吹く風も心地よく爽やか・・・
そんな中をクラシカルなカメラを下げ、歴史ある家々を散策している自分・・・
なんて絵になるんでしょう・・・ と自己陶酔に浸ってしまいます。
そう、ローライの二眼レフは、撮影自体も楽しいですが、持ち歩いているだけで幸せな気分に浸れるカメラなのです。
写真は、日本を代表する建築家のひとり、前田國男氏の自邸のリビング。
ル・コルビュジェの弟子でもある氏が、1942年に手がけた傑作です。
二層吹き抜けの高い空間、南側の壁が上から下まで窓になっていて、陽射しがたっぷり注ぎます。
その格子状の窓に映える、イサム・ノグチ氏デザインの照明・・・
う~ん、素敵。 これでテーブルにさりげなくローライが置いてあったら、
もうベストマッチじゃないですか・・・
よし、そ~っと置いて、記念写真でも撮るかな、なんて思っていたら、
若い女性の二人連れが入ってきて、「わぁ~、いいね、素敵!」なんて写真を撮り始めた・・・
・・・なかなか出ていってくれない・・・
・・・まだいる・・・
・・・・・・やめときましょう・・・(このおじさんは、結構シャイです・・・)
園内西ゾーンの山の手通りと名付けられた一帯には、洋風・和風それぞれの趣ある家々が並んでいます。
外観も素敵ですが、中の調度品がこれまた素晴らしい。
壁や棚などにしつらえられたレリーフや電灯など、こんな調度に囲まれながら優雅に暮らせたら・・・
なんて思ってしまうものばかり。
・・・で、パチリ。
感度100のフィルムで手持ち撮影では、これが限界・・・
シャッター速度 1/8秒、絞り開放で呼吸を止めて撮りましたが、ちょっとブレちゃったか・・・
今のデジタルカメラなら、労もなく撮れるシーンですが、まぁ、そこはそれ。
二眼レフでの撮影では、撮れないことを惜しむにしても、否定的になってはいけません。
正方形のファインダーに映し出された像を、自分だけに与えられた一幅の絵画として愛でてください。
デ・ラランデ邸という洋館の喫茶で一服。
西ゾーンの奥には農家が並びます。
「お、いいカメラ持ってるね! 年代物だねぇ…」
そのうちの一棟でスタッフの方に声をかけられました。 やはり、ローライは目を引きます。
(はい、50年くらい前のカメラです。 新宿のマップカメラで売ってますよ!)
「……えぇ、まぁ…」
店を離れると、途端に内向的な性格です… 一応、心の中で店の宣伝をしておきました。
昔の商店などが並ぶ東ゾーンへと移動。
手前の広場には、懐かしい都電の車体が・・・ 7500形というそうです。
鮮やかな黄色の塗装が、青空になんとも映えます。
そこから映画のセットのような下町の通りを、1軒1軒ひやかしながら進みます。
中判カメラはフィルムサイズが大きい分、35mm判に比べ同じF値にしても被写界深度が浅く、
ボケが大きくなりますが、この日は快晴、F11まで絞り込んだ結果、奥まではっきり写っています。
店内は暗いので、逆に絞りを開け気味にして撮影。
ポートレート撮影向きといわれていたプラナーですが、実はあまりボケはきれいではありません。
通りの奥、真正面にどんと構えているのは、子宝湯という銭湯。
昔の銭湯らしい立派な外観で、このたてもの園の顔ともいえる存在です。
中も懐かしさ漂う造り。 うちの近所にあった銭湯もこんなカゴだったような・・・
すると、あとから入ってきた20代と思しき女性グループが、「わぁ、懐かしい・・・」って、いや、違うでしょう!
君らの頃にはもうこんな設備なかったんじゃない?! 私だってギリギリだよ・・・
はたして、子どもの頃の実際の記憶か、映画などで観た記憶か・・・
えぇ、そんな微妙なお年頃です・・・
隣は鍵屋という居酒屋さん。 わーい!
いいですよね、なんとも風情があります。
もし、旅先でふらっと入ったところがこんな感じだったら、もう最高なんですけど・・・
そろそろ閉館の5時半が近くなってきました。
いいお天気とはいえ、ゴールデンウィーク直前(です!)
日もだいぶ傾いてきました。 このへんで帰宅の途につくとしますか。
今日の晩酌は、もちろん日本酒です!
続く・・・
(文責・イット)
棚からローライが出てこなかった方は、こちらでお買い求めいただけます。
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