【FUJIFILM】X-T4 インタビュー Vol.2
『X-T4』に手振れ補正が搭載されたことにより、他のラインアップにも手振れ補正採用の期待が高まると思いますが、その点はどのようにお考えでしょうか?
上野 氏: 『X-Pro3』を出したときにも、手振れ補正がなぜ無いんだというご意見をいただいていました。でも私達からすると、主にストリートスナップやルポルタージュ写真を撮るためのカメラに手振れ補正の必然性は低いだろう、という考えがありました。手振れ補正は当たり前ですが手振れしか抑えてくれませんから、被写体振れを起こすような撮影では感度を上げてシャッタースピードで調整するべきです。そして、被写体振れしないシャッタースピードなら手振れは基本的に心配ありませんから、Proシリーズを大きく重くしてまで手振れ補正機構を入れる必要はない、という考えでした。この考えにはPro3でスナップや人物を撮っている多くのプロ写真家の方から賛同の声をいただいています。便利機能を何でも付ければいいという訳ではなくて、そのカメラの用途とコンセプトを考えて、「余計なものは足さない」というのも魅力ある道具作りのポイントの一つだと思うのです。なので、現状手振れ補正機構や最高の動画機能を求めるのであれば『X-T4』を選んでいただきたいと思います。
もちろん、時代が手振れ補正機構搭載が当然のような流れになっているのは認識しています。今後の手振れ補正機構の搭載有無については、カメラのコンセプト、大きさ、重さ、価格などの要素をよく考えて判断していくことになると思います。
やはりそこは、カメラとしてのバランスと、機種ごとにコンセプトを明確化させているXシリーズの特徴なのですね。
そうですね。私達にとってX-Tシングルナンバーは何でも出来るカメラじゃないといけないんです。ある意味、一番の優等生だと思っています。静止画も動画も何でも出来る超万能機ですから、この機種には手振れ補正が要るよねということだと思いますよ。
以前お話を伺った際に、レンズの光軸上に液晶があるのが望ましいという理由でチルト式の背面液晶を採用したと記憶しています。『X-T3』にはかなり凝った機構のチルト液晶が採用されていましたが、今回バリアングル式へ変更した理由はなぜなのでしょう?
上野 氏: 一番の理由はやはりビデオグラファー対応ということになります。また、実はバリアングルの方がカメラを軽くできるというメリットもありました。『X-T3』の3軸チルト液晶を見ていただくと分かるのですが、ベースとなる大きな金属のプレートが必要になります。しかも『X-T3』の場合は横位置だけでなく縦位置でも可動しますから、かなり凝った作りの金属プレートが採用されています。重量だけで言ったら、もうこれだけで数十グラム重くなってしまうのです。
元々は私たちもチルト式のほうが良いと考えて製品づくりをしてきました。機能面でもそうですし、見た目もスマートにすることができるのでこちらの方が良いと。それの使い易さを考えて3軸にまで進化をさせたのですが、やっぱり可動域の限界があったのも事実でした。例えば縦位置のローアングルとハイアングルでチルト液晶を使う場合、片方の向きにしか液晶は傾かないので、同じ持ち方で液晶を見るのは不可能でした。「ハイアングルの場合はカメラを180°ひっくり返して構えてください」とお願いをするしかなかったのです。そして何より背面液晶を自分に向けて撮影する、という動画ユーザーニーズには応えられなかった。
そういったニーズや利便性など色々検討した結果、今までのチルト液晶にあった「出来ること・出来ないこと」が全部出来るのが結局バリアングルということになってしまうのです。確かに横位置では光軸から液晶がズレたり、開くまで2ステップ必要にはなりますが、屋外の撮影時に液晶が反射してよく見えないなどという時も、ほんの少し角度を変えれば見えやすくなったり、どのポジションからでも液晶を確認しながら撮影が出来たりします。何でも出来なくてはならない『X-T4』にとってはバリアングルの採用が結局不可欠だったと言えばいいかもしれません。
今のご説明だと、バリアングル液晶の恩恵を一番感じるのは、動画を撮られる方達なのかもしれないと感じました。
やっぱりそこは大きいですよね。もしこれが動画撮影の出来ないカメラだったら、そこまでやらなかったと思うんですよ。もちろん静止画でもバリアングルは有効なのですが、ビデオグラファーからはバリアングルじゃ無いから「使えない」とストレートに言われていたので。ビデオグラファーの多くは「X-T3の性能は全部良いんだ」と言ってくれるんです、ETERNA(エテルナ)も10bitも最高だって。「でも、これでYouTubeは撮れないんだよね」と。その理由はやっぱり液晶が撮っている側に向かないという一点に尽きます。
今YouTubeを含む動画のニーズがどんどん高くなってきていて、それを仕事にしている方も増えてきて、一つの仕事に対する納期もとても短くなってきています。実は今回の『X-T4』はそこが得意だと思っています。通常RAWやLogで撮った場合だと、そこからカラーコレクションやカラーグレーディングをして最終的な色を作って行くのですが、一定以上のクオリティにするには知識も時間も必要です。それをメニューでフィルムシミュレーション「ETERNA(エテルナ)」を選択するだけで、ほぼ撮って出しで使える映像が撮れる。これはETERNAを初めて搭載した『X-H1』を出した時の話なのですが、とある著名な撮影監督から「今まで自分達が何時間もかけて作っていたあの作業って何だったんだろうって思うくらいいいね」と言っていただきました。ETERNAで撮れば、あとはコントラストをちょっと好みに調整するだけで、それで良いって。でも『X-H1』のときは4K 30p・8bitで、ハイエンド動画用途にはまだまだということも言われていました。そして『X-T3』が登場して、ようやく4K60p 10bitになったのですが、今度は『X-H1』にあったはずの手振れ補正が無いとご意見をいただきました。それらを踏まえ、今回登場した『X-T4』は、まさに全部載せのカメラと言ってもいいくらい気合いが入っています。
マウントアダプターを介して他社製レンズ、オールドレンズを使用した場合、『X-T4』の手振れ補正は効くのでしょうか?
上野 氏: それは効きます。しかし何段分とは明確にはお答えできないですね。手振れ補正の段数は通常「最大〇〇段」と表記しますが、それはレンズによって効果が違うからなんです。純正レンズは主にレンズのイメージサークルの大きさや焦点距離等によって補正段数を変えています。XFレンズならばレンズを装着するとカメラがどのレンズかを自動認識するわけですが、そのときにこのレンズのイメージサークルの広さはこのくらい、ズームならこのミリ数で画質の許容範囲はこのくらいということが分かります。そして、焦点距離も認識するので、手振れを補正する際にどのくらいセンサーを振るべきかも分かります。なので、装着するレンズによって5.5段であったり、6.5段であったりする訳なのです。
それが他社製レンズやオールドレンズになった場合、レンズ情報が伝わりませんから、リミッターの無い状態で補正をかけることになります。しかし画質が担保できる範囲内に収まるとは限らないので、やってみないと分からないというのが正直なところです。ただ、当社のカメラには「マウントアダプター設定」というメニューがあって、そこに焦点距離を登録することが出来ます。これを活用していただくと少しは補正精度が上がると思います。とはいえ、『X-T4』のセンサーサイズはAPS-Cなので、35mm判用のオールドレンズで楽しむのであればイメージサークルは十分広いので少なくとも画面がケラれることはないでしょう。いずれにしても、手振れ補正効果はレンズのあらゆる要素によって変わってきますので、私達としてはボディ内手振れ補正はちゃんと動作します、とだけしか言いようがないですね。