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【極私的カメラうんちく】第22回:カメラの生命維持装置

水中にスチルカメラを持ち込むには二種類の方法がある。

一つは水中専用カメラを使用する方法、もう一つは水中ハウジングと呼ばれる、防水ケースに地上用カメラを格納して使用する方法である。前者は水中専用設計ならではの信頼性や耐久性があり、極限の環境で使用される撮影分野では重宝している。しかし一方で、地上用では当たり前となっているオートフォーカスやズームレンズといった機能が使えないなどの問題があり、一般的な撮影には不向きな面が多い。かつてニコンから発売されていたニコノスRS(1992年~1996年)という水中用AF一眼レフが唯一の例外だが、優に当時の高級一眼レフの数台分の重さと値段だった。そこでもう少し手軽に、しかも使い勝手のよいAF一眼レフカメラを水中に持ち込む方法として、ハウジングに入れて使用する方法が今では一般的になっている。しかし一眼レフ用のハウジングはカメラメーカーからは発売されていない。そこでハウジングメーカーが製作したものを使用する訳だが、ハウジングにはケースの外からでも殆どの操作が出来る様に、カメラの本体操作部へ達するノブやプッシュボタンが沢山取り付けられている。そのためハウジングは一機種専用で設計され、ハウジングメーカーは出来るだけ人気のあるカメラに合わせたハウジングを製作する。その多少の量産効果のおかげで、ハウジングはニコノスRSに比べるとリーズナブルな値段で買えるが、それでも中級デジタル一眼レフと同等から数倍の値段であり、小さめのカレー鍋ほどもあるハウジングの大きさともあいまって、一眼レフを水中に持ち込むことはやはりおおごとである。

ところがコンパクトデジタルカメラの分野では大きく事情が異なる。コンパクトデジタルカメラではカメラメーカーが純正のハウジングを積極的にラインナップしている。そしてその量産効果を見込んだ販売価格は格納するカメラ本体の半分程度であり、大きさも小さめの弁当箱ほどである。コンパクトといえども10メガクラスの画質を獲得したいま、コンパクトデジタルカメラと純正ハウジングの組み合わせは入門用から本格派まで水中カメラのスタンダードとなりつつある。

ところで以前に撮影環境におけるデジタルカメラとフィルムカメラの革命的な相違点として、液晶モニターの存在を挙げたことがあったが、実は水中写真の分野ではデジタル化に伴ってさらに大きな革命が起こっている。

一度に撮影できるカット数が飛躍的に伸びたことである。

当然のことだが、いったん水中に持ち込んだカメラは、一度に出来るだけ沢山の撮影ができることが望ましい。撮影する深度や条件にもよるが、水上に戻るためには相応の時間とコスト、さらに撮影者の体力が必要なためである。しかしフィルムカメラの場合、水中ではフィルムの交換が出来ないことが共通の仕様であり、地上用に設計された35mm判カメラをハウジング等で水中に持ち込む場合も、フィルムの給装機構によほど特殊な改造を施さない限り連続撮影は36~38カットが限界である。また大抵の水中専用カメラも基本的な構造は地上用カメラと全く同じものなので、フィルム交換に関する事情は地上用のカメラとなんら変わることは無い。そのため、もしそれ以上の撮影をその場で続行するならば、複数台数の水中カメラを同時に水中へ持ち込む必要がある。

しかし現在のデジタルカメラは、メディアの大容量化にともなって数百カットの撮影が十分に可能である。このことはとりもなおさずフィルムカメラでは原理的に横たわっていた水中写真の障害が、いまや大幅に取り除かれたことを意味する。

実はこれと似たような問題は、かつて水中とは全く正反対の宇宙空間でも起こっていた。

地上探査衛星はいわば宇宙空間に持ち出されたカメラとも言える存在だが、何かの理由で衛星自体を回収することは再度の衛星打ち上げを意味し、そのたびに莫大なリスクとコストが発生する。そこで地上探査衛星の黎明期において、記録メディアがフィルムだった時代には、撮影済みのフィルムを予め衛星に積み込んだ回収用ポッドに入れて地上へ投下していた。通常の人工衛星ならば、その軌道を修正するために積み込まれた推進剤が枯渇した時点で寿命となるが、これらの人工衛星の場合は撮影用のフィルムか回収用ポッドのどちらかが無くなった時点でその使命が尽きていたのである。撮影可能な枚数や何度の回収ができたかは不明だが、開発から含めると一機に数百億円のコストを掛けて軌道に投入される人工衛星が、有限のフィルムとポッドを使用して投下する画像のコストがどれほど莫大で、貴重なものであったか。もちろん現在の地上探査衛星は、電子的に記録された画像情報を電波によって地上局に伝送しており、撮影された画像はその衛星の電力と転送機能が途切れない限り、何枚でも入手可能である。

そこへ容易に到達することが出来ない物理的な障害が存在すること、さらにいったん撮影装置に密封内蔵された性能が、その環境において利用可能な全てであること。水中と宇宙空間には意外な共通点があった。一見全く異なる環境に進出した撮影装置にとっての革命的な延命装置が、どちらもデジタル技術だったことは決して偶然ではなかったのである。

[ Category:etc. | 掲載日時:06年10月20日 00時00分 ]

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