【マップカメラ情報】ハービー・山口氏、マップカメラでライカを語る!
ハービー・山口氏とマップカメラのコラボレーションは、ますます快調!
LEICAフェアに合わせて、店頭にハービー氏のオリジナルプリントを展示させていただいてからというもの、若い方のご来店が飛躍的に増えました。 プリントとともに並べられたハービー氏愛用のライカを見て、「自分もライカでハービーさんのような素敵な写真が撮りたい!」とデモ機のライカに手を伸ばし、その感触に思わずウットリ… 気がついたらマップカメラの紙袋をぶら下げて家路についていた…、なんて方もいらっしゃるのでは?!ライカの良さを1人でも多くの方に知っていただきたい!というスタッフの想いが実を結びつつあることをひしひしと感じている今日この頃です。
…でも、これで終わりではありません!! もっともっとライカに興味・関心、そして愛を感じていただこうと、当B1スタッフはハービー氏にロングインタビューを敢行! ご多忙にもかかわらず、快く承諾してくださったハービー氏、ライカについて、そして写真について熱く語ってくださいました。
☆ライカへの思い入れ
——-ライカを使われてどのくらいになりますか?
ハービー氏(以下、H):僕が最初にライカを買ったのは1982、3年なんですよ。 26年前ぐらい、30歳をちょっと過ぎた頃ですね。 それまではずっとニコン一辺倒でした。 イギリス時代の話ですけど、その頃の写真仲間が全員ライカを使ってました。 果たして何がいいんだろうと初めはわからなかったんですよ。 レンジファインダーの手軽さや明瞭なファインダー、シャッター音の小ささなどの良さはニコンSPを持っていたので知っていたんだけど、ライカを借りて使ってみたら質感描写が素晴らしかった。 ただシャープなだけでなく、物が物らしく写る。 その描写力にびっくりした。 それからライカが欲しくなったんだけど、持ってるニコンを全部売ってもライカ1台買えないような値段だったんですよ。 5、6年経ってやっと、最初はM4ブラッククロームにズミクロン35mmF2を買いました。 それから標準レンズを使うならM3がいいってM3を買って… そのうち日本でもいいものが手に入るようになったので、1台1台と増えていきました。
今までいろいろなカメラを使ってきたけど、ライカだと「ライカだからいい写真を撮るぞ!」というモチベーションが出てくる。 傑作写真で一生残るものなら、どうせならライカで撮りたいっていうライカオタクというかマニア的なところがあって、それがいい勇気につながるんですよね。
——-今回、マップカメラではライカフェア開催にあたり、これからライカを始めようという方に勧めるボディとしてM6とM3を考えています。 この2機種に関してはハービーさんも愛用されてきたと思いますが、いかがですか?
H:M6は、僕は1984年リリースされた一番初期のものをすぐ手に入れました。 その良さとして、まず露出計が入っていることでスナップの時などパッと微調整が出来ることかな… 後ろの光を拾ってしまって被写体がアンダーになってしまうこともあるので、そんな時は1段オーバーにするとか露出計の癖を読んで使いこなす必要はありますけどね。 16年間作られていたこともあって、中古の価格もこなれているし、使われているものでも調整すればすごく音も静かになるし… 露出計があって、M4と同じフィルム装填でクランク巻き戻しというM6は、ライカの入門機として素晴らしいと思いますね。
H:M3に関しては、最高級レンジファインダーとしてライカが1954年に満を持して発表した、すべてにおいて作りの凝ったものですよね。 僕は初期の2回巻き上げが結構好きで700~800万番台のものを2台持っているけど、シャッターの構造が後期のものと違って音が静かになりやすいんですよ。 実際、調整してもらって本当に音の静かなものを使っています。 これは標準レンズを使う時には最高ですね。 今回店頭に展示させてもらう写真も標準レンズを使ったものが多いですが、標準レンズをもう一度勉強する意味で、ライカの歴史上最高峰のM3の良さを味わってほしいというのも皆さんに伝えたいことですよね。
——-標準レンズといえば、今回出してくださった写真の中でM3に赤エルマー50mmF3.5の組み合わせがありました。(「夏、一瞬の風」/写真集『HOPE 空、青くなる』) 今の人は、どちらかというと明るいレンズを好まれる方が多いのですが、この組み合わせには何かこだわりがあるのですか?
H:ライカの標準レンズはたくさんありますが、全部使ってみてそれぞれの特色を知りたいという好奇心がライカを使っているうちに湧いてくるわけですよ。 赤エルマーもそんな1本。 こういう昔のものを使うことで1930年、40年、50年代のガラスを通して現代を見るというロマンを感じるんです。 何かタイムスリップした感じ。 そういった遊びの気分があるんですよね。 実用的にいえば、ズミクロンF2とかズミルックスF1.4を付けておけば一番いいと思うけど、はるか昔のガラスを通して今を見るという組み合わせにロマンがあるんですよね。
——-他にお好きなレンズはありますか?
H:独特の描写として顕著なのが、ズマール50mmF2かな。 焦点の合ったところはすごくシャープだけど、後ろのボケが他のレンズと全然違って、そういうボケ味の違いも楽しめますよね。
エルマーのF3.5はMマウントのものも持っていますが、赤エルマーと同じ設計で素晴らしいと思いますね。 T-MAX100なんかで撮ったら、F5.6まで絞ると髪の毛1本1本まですごく細かく写りますよ。 もうこうなると欲しいレンズがどんどん広がって… まぁ、それぞれのレンズに設計者の思い入れがあって、それを楽しむというのも非常に高度な趣味だと思いますね。
☆撮影にあたって
——-写真展や写真集を拝見させていただいた時まず感じるのが、ハービーさんが撮られた一般の方たちの表情があまりにも自然なことです。 何か撮影のコツのようなものがあるのですか?
H:秘密みたいなものかな?(笑) 本能的なものかもしれないけど、相手に緊張感を与えないような接し方をしているとは思います。 ニコニコして、まず相手の良いところを褒めてあげて… 相手がカップルだったら、「すごく素敵なカップルなんで、是非1枚。 いい写真が撮れると思うので、撮らせていただけませんか?」という感じで。 そのあとは、ちょっと注文もあるわけだけど… たとえば、目線をもらうか、外してもらうか。 目線を外してもらうと自然になるし、目線をもらう時は「カメラを見てください」ではなく、「レンズの奥を見てください」って言うと、「ん?!」って感じで眼力が違ってくるんですよ。 また、笑顔が出ない時には「笑ってください」とは言わないで、「歯を見せてください」って言い方をすると自然に笑ってくれたりとか… ちょっとしたテクニックはあるんですよ。 そういったことの複合で、しゃべりながら撮っていくうちに相手もカメラの存在を忘れたり、初対面なのに「このおじさん、いい人…」みたいな気持ちになってくれて、自然な表情になってくれるんですよ。
そして、これは今自然な表情だという一瞬にシャッターを切っているんだけど、その観察眼は…どうなんだろう? 天性のものなのか、訓練したものなのか、永年の経験がそうさせているのか… 寺山修二さんという劇作家がいましたが、僕は彼の生前ロンドンでよくお世話になっていました。 劇団を主宰していた彼が僕に「役者を使って芝居をやる。 稽古をやる。 稽古中は真に迫った表情を出すけど、いざお客さんが入って幕が上がると、どこかに『オレは本当はもっといい役が出来るいい男なんだ』っていう雑念が入って、稽古の時より芝居が冷めてしまう… どんないい役者でもそうだ、それが演劇の限界だ」って言ったんですよ。 多分、顔の筋肉1本、2本の差なんだろうけど、稽古中の真に迫った顔の方がいいんだって… 「そんな筋肉1本2本の差なんて、僕には見分ける力はありません」って、寺山さんに言ったら、「いや、君の写真にはその1本2本の差がちゃんと出ているから、いい写真なんだよ」って言われたんですよ。 その時、僕はそんな差なんて全然意識してなかったけど… でも、どこかで被写体の一番いい表情を、筋肉1本2本の差や眼の力を敏感に感じて、その都度シャッターを切っているのかもしれない…
——-作品から、ハービーさんの繊細さがとても伝わってくるような気がします。 ちょっと失礼な言い方かもしれませんが、何か遠慮しているような感じにも見えるんですが…
H:うん、それはズケズケ入り込んですごく醜い写真を撮るのが嫌だというか、撮られた相手も、あるいはその写真を見た人も、誰でもいい気持ちになってほしいから、ズカズカ土足で踏み込むようなことはしませんね。 それが遠慮しているように見えるのかもしれませんね。
——-人を撮るカメラマンって、被写体にどんどん迫っていくようなイメージがあったのですが、ハービーさんの場合は1枚1枚写真を撮る時に相手のことを想って撮っているのが伝わってきます。
H:大事なところなんですが、撮らせてもらっているという感謝の気持ちは絶対忘れてはいないですね。 撮らせていただく限りは、本当にいい写真撮りますっていう覚悟は断固としてあります。 それプラス、相手が女性の時は一瞬彼女に恋をすること、相手が男性の時は憧れとか共感を持つということ、そうするとすごく善意にあふれた写真が撮れる。 相手が小学生であってもその人の人格があるわけで、相手が10歳で僕が50歳であるとしても、10歳の彼の人格を尊重して憧れるくらいの謙虚な気持ちがあってもいいと思う。 そういう謙虚な気持ちや、撮らせてもらっているという感謝の気持ちの総体が優しい写真になると思います。
——-他にも一番驚かされたのが、国内のミュージシャンを撮られた写真がとても普通なんですよね。 ミュージシャンの顔でないというか… よほどの信頼関係がないと出来ないと思うのですが。
H:信頼関係とか、相手が撮られていて心地よいとか、この人の前では変に作ったりするのはやめようって思ったりすること… 素でいようという気持ちになってくれてる、させている、それもやはり僕がそのミュージシャンの才能に憧れているとか、尊敬している気持ちが強いからでしょうね。
——-逆に、ライカ以前のロンドン時代はとてものびのびと写真を撮られている印象が強いのですが。相手を思うままに撮られているというか…
H:その年代年代で僕自身の気持ちも違うということが大きく左右していると思うんですよね。 今は年齢を重ねてきて、若い人に暖かい眼差しを、という気持ちがありますが、ロンドン時代は、さぁ写真家になるぞって一生懸命走っていた。 周りのミュージシャンもオレはパンクだって、自分の人生作ろうと走っていた。 そんな共感しあう連帯感みたいなところがあったと思います。 自分も一生懸命ニコン持ってガチャガチャやってて、うまい写真というよりか当たって砕けろみたいなところがあったと思いますね。 20代30代くらいで全く無名の頃だからね。 自分の信じるものに向けてシャッター切っていただけなんですよ。
☆これからフィルムカメラ・ライカを始める人に
H:最初にライカを買った32歳の時に、このカメラだったら人生が撮れるという気持ちになった。 人生を撮ってやるぞという思いを新たに、僕の32からの写真活動、人生にはライカが必須なアイテムだったですね。 アマチュアの方にも作りの良さを楽しんでもらったり、ライカだからいい写真を撮るんだと自分を鼓舞してもらいたいですね。
デジタルはすごく便利なものである一方、やはり人間というのは便利なものに走ってしまうとどこかに甘えが出て、それが裏目に出てしまうことがある。 便利なものほど要注意というところがあります。 フィルムカメラで丁寧に撮る、1枚1枚感謝して一写入魂で撮ることで、そこに本当に魂が入ったカットが生まれる可能性が出てくる。 それこそが写真の、作品としての力を持つ根本だと思うんですね。 また、丁寧に作られた銀粒子のプリントはとても美しいものとなるから、ライカの描写力とともに銀粒子によって作られた映像の美しさを今一度見直してほしいと思います。
——-今日はありがとうございました。 是非またお店のほうにも遊びに来てください。 ここ最近、若い方を中心にライカの人気が再燃していますし、マイクロフォーサーズのカメラにアダプターを付けてライカレンズを楽しまれる方も増えています。 そのため、中古レンズに対する皆さんの関心が非常に高くなっています。 もし欲しいレンズがおありでしたら、今のうちに手に入れておかないと、今後見つけにくくなるかもしれませんよ…
H:へぇ、そうなんだ…
と、ここからさらにライカ談義・カメラ談義が続きました…
実は、インタビューの間も、店頭に出しているM3やM6、初期のMP(!)などを手にしていただいて、それぞれに的確な感想をいただきました。 特にオーバーホールされたM6の感触の良さには、「う~ん、いいねぇ。 どこにメンテナンス出しているの?」なんて、話がどんどんマニアックな方向に… そんな時のハービーさんの表情は、ご自身の撮られた写真集に出てくる方たちに負けないくらい自然で素敵な笑顔でした。