スパイス14
初夏が過ぎ、雨の合間に滴った雫が青々とした葉を飾る7月。
もうしばらくすれば、むせ返るような緑樹の香りが広がる夏本番です。
生命力のあふれるこの季節は、相応に撮影する写真にも力強さを与えてくれる気がします。
レンズの数、カメラの数だけ被写体へのアプローチの仕方が存在していますが、
敢えて、望遠レンズでフレーミングしてみる、というのも面白い切り口かもしれません。
本日ご紹介するのは、そんな望遠気分にうってつけなレンズ、Nikon AF-S 80-400mm F4.5-5.6G ED VR です。
・写真は引き算
写真撮影を続ける中で、一度は耳にする言葉、「写真は引き算」。
曰く、汲み取る構図の中で、いかに無駄な情報を排斥し整えるか、ということが、魅力ある写真を仕上げるポイントのひとつとなる
私なりに、そういった考え方だと解釈しています。
D700 + AF-S 80-400mm F4.5-5.6G ED VR
(SS:1/160, F22, ISO500, 400mm)
勿論、雑多な情報量を含有する写真というのも、魅力を持っているかと思いますし、
写真表現には、ある程度の善し悪しの方向性はあるにせよ、正解があると断言できるものでもないので、
「写真は引き算」という考え方も、数ある表現のいろはの一つに過ぎないと、私は思います。
ただ、飽くまでその引き算を是とし、画角が狭ければ狭いほど、情報を整えることが容易になる、と考えたとき。
超望遠と呼ばれる領域をも撮影可能な本 AF-S 80-400mm F4.5-5.6G ED VRのレンズは、まさに最高の選択肢の一つとなります。
D700 + AF-S 80-400mm F4.5-5.6G ED VR
(SS:1/2500, F5.3, ISO500, 230mm)
単に望遠レンズと言っても、様々な種類があります。
例えば、マクロ撮影に特化したようなものであったり、大口径で浅い被写界深度を楽しめるもの、あるいは、焦点距離だけを第一に考え、F値の暗い、ミラーレンズのようなものまで…。
当レンズを当てはめるとしたら、上記のレンズのそれぞれの良い所を順番にくみ取って、使い勝手の良いものに仕上げた、といった塩梅でしょうか。
D700 + AF-S 80-400mm F4.5-5.6G ED VR
(SS:1/2000, F9, ISO640, 400mm)
まず上記で掲げた3枚の通り、このレンズのメインターゲットの一つに間違いなく動体撮影を数えることができます。
昨今のデジタルカメラに搭載された高水準なAFアルゴリズムもさることながら、このレンズのAFは高速で、正確です。
また、フルサイズ対応400mmクラスの望遠レンズとしては、比較的軽量であるということも、見逃せないポイントのひとつです。(三脚座使用時 約1,570g)
D700 + AF-S 80-400mm F4.5-5.6G ED VR
(SS:1/2000, F9, ISO640, 400mm)
D750 + AF-S 80-400mm F4.5-5.6G ED VR
(SS:1/500, F8, ISO640, 400mm)
不意に発生した近接撮影のチャンス。
近接撮影でこのような中空で停滞する被写体は、ともすればAFが迷うことも必至な状況ですが、
その点、当レンズは迷うことなく精確に合焦しました。
最短撮影距離はズーム全域でAF時1.75mという数値ですが、400mmの焦点距離が手伝って迫力ある写真を演出します。
D750 + AF-S 80-400mm F4.5-5.6G ED VR
(SS:1/3200, F8, ISO3200, 400mm)
逆に、急に無限遠の撮影に対応しなければならない場合にもご安心を。
今まさに飛び立とうとしている鳥の群れを狙った瞬間をしっかりと記録することができました。
400mm付近で撮影すると不安なのは手振れですが、CIPA規格準拠 4.0段分の手振れ補正が搭載されており、暗所でも果敢に攻め込むことができます。
D750 + AF-S 80-400mm F4.5-5.6G ED VR
(SS:1/10, F8, ISO400, 105mm)
打って変わって、こちらは早朝から湾内を通過する貨物船を狙った写真。
三脚に据えてじっくりと撮影のタイミングを待ち、レリーズしました。
レンズの優れた色表現能力だからこそ、この絶妙な空模様を描写することができます。
D700 + AF-S 80-400mm F4.5-5.6G ED VR
(SS:1/800, F6.3, ISO400 380mm)
離れたところからのポートレートで人物を際立たせることもできます。
4.5-5.6というF値は、このようなシチュエーションにおいてディスアドバンテージだと捉えられることも多いかもしれません。
無論、AF-S 70-200mm F2.8G ED VR II等と比較した際に、200mmまでの焦点距離では被写界深度の薄さなどで差が出るということもありますが、
ご覧の通り、望遠特有の圧縮効果と、硬すぎないボケ具合が相まって、フォトジェニックに仕上がりました。
扱いやすいレンズであるということがお分かりいただけるかと思います。
D700 + AF-S 80-400mm F4.5-5.6G ED VR
(SS:1/125, F5.6, ISO640, 102mm)
古紙再生工場で山積みされたブロックをクローズアップすると、無数の文字が圧縮されているようでした。
このようにディテールを最優先にしたい場合でも、信頼を寄せて表現に打ち込むことができます。
旧タイプのレンズである AF VR Zoom-Nikkor 80-400mm F4.5-5.6D EDと比較すると、AF性能等の進化はもちろんですが、こと描写性能においても、ここは大きく性能が向上しています。
D700 + AF-S 80-400mm F4.5-5.6G ED VR
(SS:1/400, F5.6, ISO640, 340mm, トリミング済み)
こちらの写真は40%程トリミングを行ったものですが、レンズの描写性能に助けられてお気に入りの一枚に仕上がりました。
それにしても、レンズの描写性能だけでなく、10年以上前の機種であるD700も、こうして見るとまだまだ第一線で活躍できそうです。
・ワンランク上の万能望遠ズーム
ニコンFマウントで選択肢となる純正望遠ズームレンズといえば、70-200mm F2.8、70-200mm F4、70-300mm F4.5-5.6、200-500mm F5.6などがありますが、
AF-S 80-400mm F4.5-5.6G ED VRはそのいずれとも違う優秀な選択肢の一つです。
70-200、70-300系統よりも少し太い鏡筒の代わりに、さらに遠くも狙っていくことが出来、また200-500よりも軽量でコンパクト。
比較的高級が故、なかなか第一の選択肢として候補に挙がることがすくないレンズではありますが、
前述した性能と相まって、個人的に好んで、しばしば持ち出したお気に入りのレンズのひとつです。
もちろん、プロフェッショナルレンズの象徴であるナノクリスタルコートと、輝かしい金リングもその身に宿しています。
所有欲も満たし、性能も折り紙付きのこの一本。貴方のレンズラインナップに加えてみるのはいかがでしょうか。