【新旧共存】ハロー、平成元年。EF85mm F1.2L II USMについて
「新旧共存」
この言葉を聞くたび、カメラとはいいものだと感じます。
今回ご紹介するCanon (キヤノン) EF85mm F1.2L II USMの原型は、1989年(平成1年)9月に登場したⅠ型(EF85mm F1.2L USM)です。
2006年にⅡ型へとモデルチェンジしましたが、その時の変化は鉛フリーレンズへの変更、コーティングのデジタル対応化、高速CPUの搭載とAFアルゴリズムの最適化などなど…。マイナーチェンジと言って差し支えない小変更に留められています。
そんなレンズが、2020年9月18日現在新品で購入でき、2017年に発売した現行機のCanon (キヤノン) EOS 6D Mark IIにマウントして使用できるなんて、カメラ以外では考えられません。
例えば平成元年の車といえば、マツダのサルーンはアテンザではなくペルソナというエレガントな車でした。
オーディオはカセットテープが全盛期で、まだMDすら出ていません。
コンピュータの記録メディアはフロッピーディスクですし、ゲーム機はやっと「ゲームボーイ」が発売となった頃です。
その頃発売されたレンズとほとんど同じものを、今のボディで使える。
これぞまさしく「新旧共存」です。
まずは絞り開放で一枚。飛行機の周りがやさしく滲みました。
さて、その写りを表現するのであれば、
「とても、やさしい。」
という言葉に落ち着きます。絞り開放から中央部の解像力は見事なものの、画面中心部を1/3程超えたあたりからシャープネスが低下し始めます。
被写体の周囲に少しでも光があれば、たちまちそれは軸上色収差となり、画面を賑やかに彩ってくれます。
最新レンズとは全く違うその個性をどう生かすか。
非常に使い出があります。
こちらは飛び回る蝶を絞り開放のAI SERVOで追いかけていた際に撮れた一枚で、蝶がどこにいるのかわからないくらいのフレアが出ています。
動画などで使用すると、ファンタジックな絵が撮れそうです。
因みに元来コンティニュアスAFで使用するレンズではないので、AF時の挙動はゆったりなものの、オートエリアAFはしっかりと蝶を認識し追尾しようとしていました。
しかし最短撮影距離を割るほど蝶が近づくと、「ドコドコドコ…」という振動と共にカメラが揺れます。
それは「もうこれ以上近寄れない」というレンズ側からのサイン。「一生懸命ピントを合わせようとしているけれど、構造上これ以上はクローズ出来ない」という状態です。
全群繰り出し式のAFは、時に微笑ましいほどクラシカルです。
強い光源が無ければ、比較的素直な描写で大きな癖はありません。
どちらかというと湿度を感じるような写りですが、ツアイスレンズの様な湿度感とはまた違います。
周辺減光はありますが、f1.2というスペックから想像されるより強烈でないのは、大きな前玉のおかげでしょうか。
至近距離では柔らかい描写ですが、被写体までの距離が5m~10mかつf1.8~2.8の時は筆舌に尽くしがたい程良い画を吐きます。
十分以上のシャープネス、たぐいまれなる立体感。
このコツをつかむと、一気に使いこなしが進みます。
遠景をf1.2で撮影すると、あまり見たことのない写真になります。
当然のようにパープルフリンジは出ますが、そこはご愛敬。
まるでミニチュアの様な写り方ですが、デジタルフィルターでミニチュア風にするのと違って「加工しました」写真になりません。
これはこのEF85mm F1.2L II USMだけの特権です。
どのような条件下でも圧倒的なシャープネスを誇る現行レンズと比べれば、強い癖のおかげで振り回されることも少なくありません。
それでもついつい防湿庫から持ち出してしまうのは、「決まった」時の描写が忘れられないから。
画面の四隅まで高解像な写真が当たり前の時代に、「とても、やさしい」一本は如何でしょうか。