1931年、Leitz(現在のライカ)が、後世に語り継がれる銘玉を生み出しました。
その名はHektor(ヘクトール) 73mm f1.9。
1930年にHektor 50mm f2が誕生したその翌年のことでした。
開放F値が2を超えるレンズを作ることが難しかった当時としては、凄まじいまでのスペックを誇る望遠レンズでした。
絞り開放付近で見られる水墨画の様な写りは、登場から90年を経た今でもオールドレンズ愛好家の心をつかんで離しません。
ちなみにこの「ヘクトール」というのは、レンズ設計者であるマックス・ベレーク博士の愛犬の名です。
このレンズが産声を上げてから数年の間に、立て続けに同名の広角(Hektor 28mm f6.3)・望遠(Hektor 135mm f4.5)レンズが誕生します。
今回は73mmと135mmの二本をカメラバッグに詰め、撮影に行ってまいりました。
この2匹に命を吹き込むボディは、SONY (ソニー) α7C ボディ ILCE-7C。
齢90歳となる愛犬たちは、どのような写りを見せてくれるのでしょうか。
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まずはHektor 73mm f1.9の作例を何枚かご覧ください。
クリエイティブスタイルはスタンダードかつ、ホワイトバランスはAWBです。(今回のブログの写真は全てこの設定です)
さすが“滲みレンズ”。
評判通りのファンタジックな写りを見せてくれました。
絞りは開放ですが、柔らかな中にもしっかりと線があります。しかもその線が、面相筆で水彩画を描いた時の様な質感。周辺部も思ったより暴れず、非常に上品です。
それでいながら妖しさを伴う描写は、α7Cと相まった結果でしょうか。
こちらも絞り開放です。
ひとたび透過光の中に繰り出せば、たちまちに現れ出でたる絹の様なフレア。
当日はあいにくの曇天でしたが、こんな世界を描き出してくれるなら喜んで受け入れます。
注目すべきは軸上色収差の少なさ。
全体にソフト効果が出ているために目立たないのもありますが、なかなかのものでは無いでしょうか!
これも開放。
ただ単に描写の“アマイ”レンズは沢山ありますが、芳醇という意味での“甘さ”を持ったレンズはそう多くはありません。
撮れども、撮れども出てくるのは感動のため息ばかり。筆者はこのレンズの復刻を強く願ってやみません。
しかしながらf4程度まで絞ると、中々のシャープネスをみせてくれるのです。
笑顔の老夫婦に寄り添うように歩みを進める穏やかな様子からは一変して
それはまるで愛犬が時に見せる精悍な横顔の様です。
2つ前のカットとほぼ同じ場所での撮影なのに、光のヴェールは一気に消えてしまいました。
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さて、次はHektor 135mm f4.5です。
絞り開放のカット。
全体としては73mmの方と比べると、特段の癖は無い様に見えます。
ところが最周辺部には、まるでケラレの様な周辺光量低下が出ています。
レンジファインダー用望遠レンズと言うものは、当時は少々特殊なレンズであったため、もしかしたらイメージサークルが少しだけ足りていないのかもしれません。
あまり深くは考えずに、密やかなトンネル効果を愉しむとしましょう。
飛び去る飛行機に手を振る方を、後ろから写しました。
スッキリと抜けたフェンスに、優しさを纏う雰囲気の中にもしっかりと感じられる描写の立体感。
これもやはり絞り開放ですが、現代でも十分通用するレベルの写りだと思います。
いかがでしたでしょうか。
現代のボディと90年前のレンズのコラボレーション。
フルサイズセンサーのボディであれば、オールドレンズを目一杯楽しみ尽くす事が出来ます。
かつては大きく重いイメージのあったフルサイズ機も片手で持てる時代になりました。
今回使用したa7cはそれを象徴するかのようなカメラでした。
SONYユーザーの皆様も思い切ってライカレンズにチャレンジしてみてはいかがでしょうか!
それでは、お付き合いいただきありがとうございました。