「ポケッタブル・フルフレーム」
良い響きですね。見たことがなくても、触れたことがなくても気になる存在。買いたくなったらどうしよう、不安を好奇心が上回り試しに、しかも『Leica・Summilux』を付けて。ズミルックスといえばF1.4の明るさを持つレンズに与えられた名前、繊細な写りが特徴的で世代・個体によって異なるクセが魅力の魔物です。
今回は贅沢にも3本の『Leica・Summilux』をマウントしてそれぞれの写りを愉しむこととしました。35・50・75ミリ、どれも素晴らしい描写性能と個性に富んだレンズたち。それぞれのクセがよくわかるよう心掛けながらのスナップ撮影、個性を最大限活かすため絞りは開放、比率は21:9に固定しカラーモードを変更しながら撮影しました。
こちらが本日のお供たち、ライカの長い歴史の中で深く強く愛されてきたレンズたち。35ミリと75ミリにある「CANADA」の文字、経営難に苦しむライカが製造コストを削減するために工場をカナダに移して製造していた頃の表記です。『LEITZ』(ライツ)の文字は1990年に社名を現在の『Leica』に変更するまで刻まれていたもの、50ミリにある『LEITZ WETZLAR』はドイツで製造されていたことを表しています。と、蘊蓄はここまでにしてそれぞれの写りをご確認ください。
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(1)「クセ玉とみる白日夢」Leica Summilux M35mm F1.4 2nd
伝説の1stと非球面レンズを初めて使用した3rdに挟まれた2nd、一本一本写りの違うクセ玉はオールドレンズファンの心を掴んで離しません。M型ライカで試したこともありますが、fpに搭載され人気の『カラーモード』で試してみたかったレンズの一つです。上の写真は『ティールアンドオレンジ』で撮影したのですが、開放撮影ということもありハイライトが滲み放題。見たことはありませんが白日夢ってこんな感じでしょうか、ちなみに英語で「daydream」と訳すそう。素敵ですね。
なんでもない景色もこのレンズを通すと途端に幻想的に写るのだから不思議。21:9という比率は映画で使用されていることもあり「シネマスコープ」と呼ばれています。
真逆行で撮影するとこのように盛大なフレアが生まれます。驚くことにピント面が滲みながらもしっかりと解像しています、大きなサイズでご確認下さい。レンズの個性がどのように写真に写るのか、液晶モニターで確認しながら撮影を進めることができるので本当に助かります。
35ミリでのベストショット。これぞクセ玉と言わんばかりのフレア・ゴースト・滲み、でも嫌な感じが全くしない。長い歴史のなかで多くのライカユーザーに愛されてきた理由が少しわかった気がします。しかしまだまだわからないことだらけ、もっと沢山のシャッターチャンスをこのレンズとともに捉えていく必要がありそうです。
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(2)「時を超える解像力」Leica Summilux M50mm F1.4 後期型
以前試した時から一目置いていた本レンズ。『貴婦人』の異名を持つ前期型、いわゆる1stモデルとデザインに大きな違いはなくシリアルナンバーで区別することができます。レンズを貼り合わせずあえて空気を入れた「空気レンズ」という光学設計を採用したことで解像力が向上。1960年代から90年代にかけて製造されていましたが、年代を感じさせない美しい写りが魅力です。
これが本当に30年以上前に作られたレンズの開放描写なのかと言わんばかりの解像力。後ボケも美しく文句のつけようがありません。クラシカルなデザインは実用性にも優れ凹凸のあるローレットはピント合わせをアシスト、映像制作にも活躍しそうな一本です。
撮影日にfpデビューしたこともあり『ティールアンドオレンジ』ばかりになってしまいましたが、この一枚はfpで撮れてよかったと感じる一枚。レンズの色乗りの良さも相まって一層鮮やかな印象になりました。
中央にいるのはオナガガモ、拡大するとわかりますが本当に良く写っています。これで開放、思わずモニターを二度見、いやはや当時の製造技術の高さには驚かされてばかり。
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(3)「透明感と臨場感」Leica Summilux M75mm F1.4 前期型
M型ライカで使おうとするとブライトフレームの小ささゆえにピント合わせが困難な75ミリ。透明感と品のある滲みが特徴的ですが、現行モデルにズミルックスM75ミリは存在せず中古流通量もそう多くはありません。フードが外付けの前期型は組み込み式となった後期型より数が少なく当店でも目にする機会は稀な一本。
欄干にとまるユリカモメ、端に虹を架けてみましたがいかがでしょう。解像力もさることながら自然なボケや抜けの良さも好印象。
咲き始めたカンザクラ、滲んだハイライトが白とピンクをより一層引き立てます。
一斉に飛び立つ鳥たちとそれを眺める親子、咄嗟にマニュアルフォーカスしたためピントは少し甘いですが記憶の断片のようで気に入っています。スナップ撮影はまさに一期一会、二重像を厳密に合わせようとレンジファインダーで逃していた瞬間もfpとなら捉えることができるのかもしれないと強く感じた瞬間でした。
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いかがでしたでしょうか。気になっていたfpはやはり間違いのない選択肢だったようです。あのサイズ、あの形、あのカラー、他のカメラにはない魅力で溢れた一台。手に入れるのも時間の問題でしょう。そしてズミルックス、その魔力は想像を絶するものでした。既に筆者の検索履歴を埋め尽くしています。購入ボタンをポチっと押す前に今回はお別れです。fpに付けてみたい銘玉、まだまだあります。続編があればお楽しみに。
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この小さなボディから幾つもの美しい瞬間が生まれます、筆者の個人的欲しいものリスト第一位。
いきなりライカは…という方にはこちら、万能な45ミリとの組み合わせは軽快かつ愉快な撮影のお供にピッタリ。
最短撮影距離が0.7メートルから1メートルであることがほとんどのライカMレンズ、ヘリコイド付きアダプターで新たな領域に踏み込むことが可能です。
通常のスナップ撮影であればこれで十分、真鍮とアルミで作られた高品質なアダプター。