StockShot

  • タグ一覧
  • 検索
【Canon】Lレンズが買える価格で、あえて非Lレンズを選んだ私の素敵な結末

【Canon】Lレンズが買える価格で、あえて非Lレンズを選んだ私の素敵な結末

6月下旬、いつも通り23度を示すエアコン。
通りにあふれる夏の日差しとは裏腹に、窓が一つしかない賃貸には光が入らず薄暗いまま。
東京に越してから当たり前のように繰り返された日常の一コマですが、その日は突然それを変えようと思い立ちました。
頭の中に思い浮かぶのは懐かしい潮の香りと、ビビッドブルーの海、そして火山が生み出した玄武岩質の黒い砂浜・・・。
大好きな離島、伊豆大島へ行きたい!

 

ちょうど3連休があったこともあり、島と本土を結ぶプロペラ飛行機のチケットを予約し、民宿を抑えたのち荷造りをはじめました。
ペンギンの顔のようなかわいらしい機首をしたプロペラ飛行機は、ジェット機と違い荷物の重量制限があるので、あまり大きな機材は持っていけません。
どうしようかしらと考えながら相棒のEOS R6 Mark II(バッテリーグリップBG-R20付き)を取り出し、いつも通りAD-E1とGPSユニットのGP-E2を装着。
おしゃれなデザインが気に入っているpeak designのエブリデイ トートパック 20L ボーンにカメラを入れて、レンズはどうしようと悩み始めます。
その数分後に、そもそもまずは着替えなどの必要なものから詰めるべきだと反省、着替え1セットに財布や傘を含めて一通り詰め終わり、あとはカメラを入れるだけ・・・だったのですが全く入りません。

BG-R20とGPSユニット諸々を外してみましたが、それでも空いているスペースはあとわずか。
本当はLレンズの単焦点を2~3本持っていこうと考えていたのですが、とてもそんな空間はありません。
仕方なくズーム1本で・・・となるわけですが、そもそもズームレンズを所持していない私、急遽導入することにしたのでした。
バッグの隙間にメジャーを差し込んで隙間を図ってみると、10cmあるかないかくらいのスペースです。
RF24-105mm F4L IS USMではぎりぎりファスナーが閉まらずアウトになる可能性を考え、消去法で選んだのがRF28-70mm F2.8 IS STMでした。
全長約9.2cmと小型なおかげで何とか収まり、ホッと胸をなでおろしたことを覚えています。

 

夏本番には少しばかり早い平日だった事もあり、島の中は静かで、まだセミの音も聞こえません。
それでもやはり日差しは強く、上陸地の東京大島かめりあ空港から少し歩いただけで服が絞れそうなほど汗をかきました。
―これは軽い機材で正解だったかもしれない。
早くもそんなことを思い始めます。
目の前にあるリゾートホテルのプールにダイブしたいところをグッとこらえ、代わりにカメラを構えました。
もともとこのレンズは絞り解放でもよく写るのですが、それでも四隅まで解像させたかったのでf7.1まで絞って撮影しています。
焦点距離は39mmをチョイス。構図のためという事もあるのですが、ネイティブで歪曲収差が少ない焦点距離という事で選んでいます(自動補正の量が少な目で済む)。
デジタルレンズオプティマイザもかけているので満足のいく写りを得ることができました。

 

遠浅の続く本州の海を見慣れているせいか、わずかな大陸棚から突然深くなる大島の海は何度見ても新鮮に感じます。
度重なる噴火によって大小さまざまな岩が重なった海岸や、勢いを保ったままぶつかってくる力強い波とともに“特別感”を感じさせてくれる大好きな被写体です。
願わくばもう少しだけ太陽が顔を出せば、深い深い本当の青に出会えるのですが、もともと雨予報だったことを考えればよく頑張った方でしょう。
Lレンズのようにコッテリした色乗りではありませんが、褪せることなくしっかり発色してくれました。

 

島内での移動手段はバスを考えていたのですが、気づけば旅路の大半を歩いていました。
「少しでもこの場所の自然や光を感じていたい」という思いがそうさせたのかもしれません。
その気持ちを支えたのは紛れもなく機材の軽さで、仮に普段の重装備であれば確実に音を上げていたでしょう。
島の北、海沿いに伸びるサンセットパームラインを民宿のある元町港までたどる途中に何度も「軽いってありがたいなぁ」と独り言を言ってしまいました。
ただ軽いだけでなく、しっかりと奥行きが感じられる画を出力してくれるのも好印象です。

 

空に特徴的な雲が浮かんでいました。
なんとなく宇宙っぽさがあるシルエットというか、知性を持った存在のような独特な形をしています。
じっと見ていたら、なんだか頭がぼーっとしてきました。
まさか本当に謎の生命体が・・・というわけではなく、脱水症状の前触れだと気づいたので直ちに自動販売機を探すことに。

 

無事水分補給が済み、しばし暑さから逃れるために大島町郷土資料館に入りました。
展示室に入るのでカメラをしまおうとしたところ、エントランスに置かれていた何かの実が気になったのでパシャリ。
こちらのカットは絞り解放かつ至近距離の撮影という「ズームレンズ泣かせ」の要素がてんこ盛りなのですが、ソフトになりすぎる事なくギリギリで耐えてくれました。
傾きかけた午後の光とCanonならではの温かみのある発色は、自然物にピッタリです。

 

しかし天気が良かったのもここまで。
そのあとは予報通りの曇天へと変わってしまい、海岸線を染める夕焼けを見ることはかないませんでした。
海と空がグレーに変わっていくのと同時にピクチャースタイルを高コントラストなものに切り替え、少しでもドラマティックに切り取れるよう構図も工夫してみましたが・・・。
旅行の天気は光線状況も含めて一期一会、次にこの場所を訪れる時を楽しみに待つことにします。

この日はここで撮影を切り上げ、島の定食屋さんでスタミナソテーをほおばりました。
長い距離を歩いて汗だくになった体を、大蒜タレがかかった分厚い豚肉が癒して修復!これで明日も頑張れます。
(※食後の散歩の際にポテトチップスを四角く畳んで販売している自販機を見つけてしまい、こちらも我慢できず食べてしまったことは内緒です)

~ちょっとbreak~
民宿に戻ったのちにレンズの前玉を確認すると、ぽつぽつと「塩」が付いていました。
風速10m超えの海沿いを何時間も歩き続けたのでさもありなんという感じですが、フッ素コーティングが施されていないレンズにプロテクトフィルターを付けていなかったのは失敗だったかもしれません。
しかし軽くブロアーで吹いた後に蔵Curaのクリーナー&ペーパーセットで拭き掃除すると見違えるような綺麗さに‼
超極細繊維のペーパーはレンズに傷をつけず、それでいてしっかりと清掃できる優れものです。

・・・

旅行2日目はレンタカーでの移動となりました。
親切な受付の方に見送られ、スマートフォンのプレイリストをかけながら大島一周道路を走り始めるとどんどん天気が良くなってきました。

島の北側、岡田港のほど近くにある七間沢トンネルを過ぎると、数台の車が停められる小さな駐車場があります。
ここは「ヨウゴシ岬展望台」。初めて伊豆大島へ旅行した11年前からたびたび立ち寄っているお気に入りの場所です。
普段スポーツタイプのセダンに乗っている筆者は、早くも背の高いワンボックス車に酔いそうになったのでここで休憩をはさむことに。

のびのびと葉を広げる木、少し年季を感じるアスファルト、パステルカラーのタイルと様々な被写体が混在していますが、ホワイトバランスを補正せずとも理想的な色合いで仕上げてくれました。

さあ、三半規管を休ませたら裏砂漠めがけて出発です!

 

裏砂漠に行ったのはかれこれ10年近く前が最後だったので、今回の旅のメインに据えていました。
しかし駐車場を誤って通り過ぎ、「こんなに遠かったかな?」と考えているうちに遥か島の南側に位置する筆島見晴台までノンストップで来てしまいました。
引き返そうかとも思いましたが、朝の光に照らされた筆島と大きく弧を描く黒々とした大地を見ていると、こんな寄り道も素敵だと思えてきたのでゆっくり散策することに。

 

筆島を望む高台で振り返れば、白い大きな十字架が空へとそびえています。
この十字架は「ジュリアおたあの碑」。
ジュリアおたあとは安土桃山時代を生きたキリスト教の女性で、禁教令にも負けずに信仰を貫いた罰として伊豆大島に流刑されてしまいました。
(美しい景観を誇る観光地として栄えている伊豆大島ですが、悲しい歴史もあったのです。)
「そうまでして守りたいほど大切なものがあるのは、幸せなのだろうか」と考え始めてしばし。
また前玉に塩が付き始めたのでそそくさと車へ乗り込みました。

 

さて、筆島から車ですぐの場所に波浮港という港があります。
映画「伊豆の踊子」の舞台となったこの地には、
①往年の賑わいを今に伝える「踊子の里資料館」
②与謝野晶子や大町桂月など、数々の文人が訪れ作品を作ったことを記念し作られた「文学の散歩道」
など見どころがたくさんあります。
この階段は踊子の里資料館の前を丘の上へと延びており、登りきると波浮港が一望できる私の一番好きな場所です。
記事1枚目の写真と同じ39㎜で撮影しているのは全くの偶然か、それとも少しでも歪みなく四隅までシャープに写して欲しいという気持ちの表れか・・・。
いずれにせよこの写真を見る限り、心から満足できる写りを披露してくれたことは間違いありません。

 

夏至をすぎたばかりの波浮港には光があふれ、見渡す限りの全てが煌めいていました。
「汗でびしょびしょになるから、大島旅行は秋冬に」だなんて、今までなんともったいないことをしてきたのでしょうか。
この場所に来れてよかった。今、ここに立ててよかった。
ずっとずっと、好きでいてよかった。

 

十分に上がってきた気温とは裏腹に、頬を打つ風は秋のように澄んでいて過ごしやすく、開けた場所から海が見えるたびに車を止めました。
大島一周道路を回りきるころには海の色が水色へと変わり、高かった波も落ち着いてより一層透明度を増していきます。
最終目的地である三原山、その登山道路まであとすこし。

 

朝の出発地点だった元町を抜け、曲がりくねった登山道路を20分ほど走れば、ほどなくして三原山山頂に到着。
お土産屋さんに併設された食堂の明日葉ざるそばで栄養補給をしたそのあとで、表砂漠へとやってきました。
有名な裏砂漠と違い、地図には“ルートとしてのみ”存在する表砂漠。
ソリ遊びができるほどの傾斜や、三原山の噴火により飛来したであろう大岩を横目に奥へ奥へと歩を進めれば、いつの間にか額には汗がにじんでいました。
夢中になっていたので気付かなかったのですが、やわらかい砂地に足を取られており一歩進むだけでもなかなか大変だったのです。
噴火口までたどり着きたいという思いはあれど、少しばかり悩んだ末引き返すことにしました。

上の写真は帰り道の道中、車に戻る少し前の場所で撮影したものです。
ズームレンズで植物を僅かにぼかすとボケが騒がしくなりがちですが、そういったものは見られません。
思ったよりも良い感じの写りに「iPadに転送して大画面でボケの調子を見てみよう!」と準備を始めると、ふと壁紙の時計が目に入りました。
いつの間にか良い時間になっており、そろそろ帰り支度をする頃合いです。
名残惜しさに三原山を振り向きつつ、車を走らせ山を下りました。

 

レンタカーを返却し飛行機の搭乗受付を済ませた後、「もう一度だけ海が見たい」との思いを抑えられず、空港近くの野田浜へ歩いていきました。
フライトが刻一刻と迫っているので早歩きで向かいましたが、2日間歩き続けた足が痛みます。
機材の軽さに心から感謝しながらたどり着いた最後の場所では、バディーズ・ベルと呼ばれる鐘が待っていました。
これはダイビングに欠かせない“パートナーへの信頼”をテーマとしたモニュメントで、ここを訪れた人は大切な相棒や友達との絆を思いながら鐘を鳴らすのだそうです。

思えば今回の旅は、最後までRF28-70mm F2.8 IS STMの高い描写力や軽さに支えられていました。
大口径の単焦点レンズにGPSユニット、そしてバッテリーグリップといういつもの装備では疲れ果ててしまい、旅の終わりにもう一度海を見ることは叶わなかったでしょう。
11年前に初めてこの場所に立った時、もうあの頃のように若くはありません。
それでもあこがれを諦めず、行きたいところへと足を向け、好きという気持ちだけで旅ができた。
出発前には少しだけ頼りなく感じたこのレンズが、とても大きな存在になったような気がしました。

 

もうそろそろタイムリミット、あと1時間もすれば、私は本土の空の下に居るのでしょう。
次に伊豆大島の大地を踏めるのはいつになるだろう。1年後か、5年後か、それとも・・・。

寂しさは思いの奔流となり、さまざまな考えが頭の中を矢継ぎ早に巡ります。
次来た時にはどんな景色に出会えるだろう。
雨の大島を見てみたいけれど、やっぱり来るなら晴れが良いよね。
また裏砂漠を通り過ぎたらわらっちゃうなあ。

ああ、本当に、たのしかったなぁ…。

 

瞳の下にだけ器用に溜まった海水をしょっぱいと感じるその前に。

相模灘を抜ける強い風に鐘を鳴らすのを任せて、空港へと続く道を歩き始めました。
このレンズなら、バディ(相棒)と呼んでもいいかもしれない。
そんなことを思いながら。



[ Category:Canon | 掲載日時:25年07月03日 18時20分 ]

新規会員登録
マップカメラのおすすめイベント

新品お買い替え買取額18%UP 中古ポイント最大10倍

RECOMMEND

PAGE TOP