
冬の足音を感じる季節、FUJIFILM X-T5にXF 35mm F1.4Rを装着し、散歩に出かけました。
ボディは2022年にFUJIFILMから発売された「X-T5」。写真機としていわば原点回帰を果たした、第5世代のX-Tシリーズです。
そして装着したレンズ「XF 35mm F1.4 R」は2012年の発売以後、Xマウント随一の「神レンズ」と呼ばれ続ける代表的なレンズです。
Xシリーズ最新世代のボディにXマウント最初期のレンズを装着した、発売年でいえば10年の時を隔てた組み合わせ。どのような写りをしてくれるのでしょうか。

フィルムシミュレーション:ノスタルジックネガ
秋の被写体の代表格と言えば紅葉。ですがまだ都心まで紅葉前線は下りてきていないようで、一足先に燃えるような赤に染まっているハナミズキは街中でよく目立ちます。
今回使用したフィルムシミュレーションはノスタルジックネガで、これは元々ラージフォーマットのGFXシリーズのみに搭載されていましたが、X-S20やX-H2、そして今回ご紹介するX-T5など一部新しい世代のXシリーズにも搭載されています。コントラストは低いものの彩度は比較的高く出てくるフィルムシミュレーションモードで、1970年代のカラーフィルムを再現した写りだそうです。
似たようなフィルムシミュレーションに「クラシックネガ」がありますが、クラシックネガがかなりフィルム調であることを強く感じさせる一方で、このノスタルジックネガは彩度が高い分、鮮やかな被写体を鮮鋭に写すことに適しています。

フィルムシミュレーション:ノスタルジックネガ
続いてはレンズについて。使用したレンズ「XF 35mm F1.4 R」は、言わずと知れたフジフイルムXマウントの「神レンズ」。
最新のレンズでは開放から高性能を追い求めたものが多いのですが、このレンズはいわばその対極で、解像度よりも撮影画像の雰囲気を追い求めたレンズです。特に近接域では球面収差によってかなり柔らかな写りになります。
一般には各収差を抑え込むために各メーカーが技術の粋をつぎ込むのですが、その分レンズ枚数は増え、前玉はより大型になっていく傾向にあります。
その点このXF 35mm F1.4Rは6群8枚というシンプルな構成となっています。しかしただレトロなレンズ構成にするのではなく、うち1枚には非球面レンズを使用したりと、FUJIFILMならではの写りを追求したレンズ設計と言えます。

フィルムシミュレーション:ノスタルジックネガ

フィルムシミュレーション:ノスタルジックネガ
F1.4で使うのがとても楽しいレンズです。
一般に解像度を追い求めたレンズはボケ質が悪くなってしまうことが多く、近年は解像度とボケ味の両立がレンズ設計における一つのテーマとなっていると思います。このレンズは解像度を無理に上げていないためボケ味は非常に自然で、解像面からボケへなだらかに写る非常に自然な写りです。解像面が自然に浮き立つ写りは、被写体に自然と視線が行く写真に繋がります。

フィルムシミュレーション:ノスタルジックネガ
さてこのレンズはよく「オートフォーカスが遅いこと」が欠点として挙げられます。画質を優先するために近年のAF対応レンズでは稀な全群繰り出し方式を採用しているため、駆動群の重量の重さからAFは遅めになっています。新しいレンズ、例えばこのレンズの新型にあたる「XF 33mm F1.4 R LM WR」はリニアモーターを採用し高速かつ静粛なAFを実現しています。
ですが最新世代の「X-T5」との組み合わせでは、ボディ側のオートフォーカス性能が向上していることによりオートフォーカス速度も不満ない程度まで速くなりました。スナップ撮影では写真を撮りたいと思った瞬間にピントが合っていると撮影のテンポが上がります。動きものを撮らなくても、オートフォーカスが高速になる事の恩恵は大きいです。

フィルムシミュレーション:ACROS
続いてはフィルムシミュレーションを搭載するFUJIFILMのカメラに入っている「ACROS」に設定しました。モノクロ撮影と一口に言っても、諧調や硬軟など、その表現は様々です。その中でも豊かなシャドウディテールと高精細なシャープネスが得られるACROSは、世界最高の粒状性と言われた同名のフィルムをベースとしています。
このカットは屋外で撮影するためにシャッタースピードを1/1000に設定していたところ不意に目に留まった高架下の風景を撮ったもので、ISO感度をオートにしていたので露出はカメラ任せで合いましたがISO感度は3200まで上がってしまいました。本来であればISO3200はかなりノイズが乗って敬遠しがちですが、ACROSは高感度時のノイズを粒状感として処理するため、これがかえってフィルムカメラで撮影したかのような質感を生み出してくれます。日中でも敢えてISO感度を上げて撮影したくなるようなフィルムシミュレーションです。

フィルムシミュレーション:ACROS
とはいえ低感度での写りも見事です。
前ボケに金網を入れてみましたがレンズの自然なボケ味のおかげで、激しく主張することなくそれでいて写真のアクセントとして確かにそこに在ってくれます。
モノクロ撮影では光の濃淡がより強調され、このボディとレンズの組み合わせの相性の良さに改めて気づくこととなりました。
今回最新世代のボディにマウント創始直後のレンズをマウントしてみましたが、思った以上の相性の良さに驚きました。
実は今回使用したXF 35mm F1.4Rは、FUJIFILMから4000万画素センサーが登場した際に公表されている「対応リスト」からは外れてしまっています。そのこともあり撮影前はどうなることかという思いでしたがそれはあまりにも杞憂で、いざ撮影に出ればレンズの写りの良さを引き出すセンサーやAFの駆動方式をカバーするボディのAF性能、そして装着した際のサイズ感まで、まるでこのレンズはX-T5のためのオーダーメイドかのよう。
確かに解像度という点で見れば等倍鑑賞の際に少し甘いかと感じる瞬間はありますが、写真全体を見た際の作品としての魅力の前では些細な問題です。
ボディとレンズ、それぞれが互いの良さを引き出し合う名コンビと、改めて写真に向き合ってみてはいかがでしょうか。
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