
【Carl Zeiss】むしろマニュアルフォーカスだからこそ知る魅力。Otus ML 50mmという選択肢。
世界最高を目指し一切の妥協無く生まれたレンズには、手にした瞬間に背筋が伸びるような独特の「重み」があります。
Carl Zeiss Otus ML 50mm F1.4。
「世界最高の標準レンズ」とも謳われるその硝子(ガラス)の塊は、利便性や軽快さといった現代の潮流とは真逆の場所に佇む銘玉。

今回組み合わせるボディは、SONY α1。
鮮烈な登場から月日は経ち、後継機の躍進が目覚ましいSONY初代フラッグシップですが、そのポテンシャルは未だ底が知れません。むしろ、このOtusという「狂気」に近い解像力を持つレンズを受け止めるには、α1ほどの器が必要だったのだと、マウントを合わせた瞬間に確信しました。そしてスペックもそうですが存在感、バランス感、フラッグシップの気品と覚悟を持って迎えられたレンズは輝きを放つかのような風格。

春の柔らかな光がこぼれ落ちる午後。
オートフォーカスという文明の利器をあえて手放し、シルクのように滑らかなフォーカスリングを指先で繰る。
それは単なる「撮影」ではなく、目の前の光を丁寧に掬い取り、センサーへと刻み込む「彫刻」のような時間でした。
使用したクリエイティブルックは「FL」。
最新機種には「FL2」「FL3」も登場し、色のバリエーションを増やしたい方にはそちらも勿論オススメ。
ですが私は個人的にこの無印「FL」が最もシチュエーションを選ばずに使用できる印象があります。
ぜひご覧ください。

大前提として撮影者である私自身はMF(マニュアルフォーカスレンズ)の扱いにはある程度慣れています。オールドレンズを使ったり、MFマクロレンズを愛用した経験もあることから。とはいえAF(オートフォーカス)には当然敵わぬスピード感と、超高精度と言われるSONYのAFを活用しない勿体なさを感じないかと言われると嘘になります。
しかしこの前提をひっくり返す写真が撮れるなら、あるいは。




50mm F1.4、まずこのスペックのレンズからおよそ想像されるボケ感とピントの立ち上がりを大きく裏切ってきます。たしかにボケ量を見ればF1.4相当の心地良い塩梅なのですが、いざ写真全体の雰囲気を眺めるとそれはF1.2くらいあるような立体感。神格化されるレンズ「Otus」の真髄はここにあるように痛感しました。
とてつもなく写る。嫌味なくボケる。
レンズに求められる単純かつ実現が難しいこれらの特性が合わさった時に初めてこの感覚を知るのでしょう。



引きの画から感じられる独特の雰囲気もまた魅力的。
前ボケも後ボケも極端な個性を持たないからこそ、気づいたら溶けていると思わせる描写は肉眼のイメージと近いのかもしれません。
並のレンズでは到底成し得ない最高クラスの普通。
これ以上ない褒め言葉として。

ご覧ください、と言うまでもありません。
天井の柔らかな解け様を目に置いた後、中心へ目線を移した時の滑らかな立ち上がり。ボケている、写っている。その究極系がここにあり。本当に「良い写り」です。これだけで一杯いけるほど。
私は写真の上三分の二あたりに視線を据えている時が最も楽しめると思います。撮影者本人であるからなおのこと。
あの、ピントを自分で選択する感覚が呼び起こされます。
平面の画面上XY座標でピント位置を選ぶのではありません。この目の前の景色の奥行き、どの層、どの厚みに合焦”面”を選択するか。
経験上、これはMFならではの体験です。
それも電子制御でない、ヘリコイドを手で回し硝子塊を前後させられるレンズにだけ許された体験。





あらゆる被写体を必ず作品に昇華してくれるカメラとレンズの組み合わせであるため、見境なくさまざまな小さな感動にレンズを向けてしまいます。その結果生まれるパッチワークのような作品群は言葉のまま、自分が過ごした時間そのものが綺麗なものとなって残る感動を覚えます。

私がもともと愛用していたレンズはVoigtlander MACRO APO-LANTHAR 65mm F2 Aspherical. です。圧倒的と言っていい解像力と表現力を、長い長いストロークのフォーカスリングで繊細に切り出すあの感覚が堪らない一本。
今回のレンズもそれと似た昂ぶりがありました。
ピーキングなど使わずとも無限遠からスッと迫ってくる合焦面が凪を破る一陣の風のよう。翻って、手前から押しやるピントは磨りガラスが晴れていくかのような解放感。

世界最高峰のMFレンズ「Carl Zeiss Otus ML」シリーズ。
作り手の意思をどこまでも手助けする現代の”便利”に一石を投じる魅惑のレンズたち。今回は50mmのご紹介でした。
間も無く発売となる35mmにも期待感は増すばかり。
ぜひ先発組を防湿庫に入れてお迎えください。
絶対に後悔はさせません。



