【マップカメラコレクション】EBC Fujinon 55mmf1.8 135mmf3.5 FUJICA ST801
■EBC Fujinon 55mmf1.8
■EBC Fujinon 135mmf3.5
■FUJICA ST801
交換レンズに求める第一のこととは何でしょうか。 どなたに訊いても一秒で答えが返ってくるでしょうが、もちろん「写り」です。少しでもよく写るレンズを望んで我々は「交換」をするのであり、時にはより好ましいレンズのある方へ、カメラボディそのものさえ乗り換えてしまうものです。 すっかりデジタルが主流と化した感のある昨今ですが、では、デジタルに乗り換えた皆さんは、果たして「よりよく写る」からという理由でそちらへと乗り換えたのでしょうか……? ……と、かなり挑戦的な冒頭を書いてしまいましたが、デジタルで撮ってひとしきり悩んでみて、再度ジワジワわかってくるのがフィルムの素晴らしさです。 筆者としても、デジタル一眼レフを使用してみて逆にフィルムの消費本数が増えてしまったという、一番お金のかかるパターンを目下経験中ですが、デジタルから写真を始めた方々には、是非一度、フィルムの世界というものも味わっていただきたいと思ってなりません。 撮るたびにちくちくとお小遣いが減る……なんてこともなく、満足いくまで確認しながら撮れるというのはデジタルだけのすごい利点です。パソコンなどのモニターで拡大鑑賞するのが当たり前になった現在では、一般家庭でするようなフィルムスキャンより、デジカメで撮りっぱなしのデジタルデータの方が遥かに見栄えがするというのも事実。 ですが、プリントして手に触れることのできる「写真」という物体に仕上げた時、やはりどこかしらが違います。変換されていない生の光がそこに焼きついているという、その有機的な感触を求めるのであれば、まだまだフィルムカメラを手にとる価値があるはずです。 銀塩写真を始めたばかりの頃は、どうしてもカメラやレンズばかりに気が行ってしまい、フィルムのことは考えません。安いのがいいやと、山積みされているのを買ってきてやってみるのですが、そのうち色々使ってみるようになると、フィルムの種類によって驚くほど出来上がりに差が出ることに気づき始めます。 そんな奥深いフィルムの世界を支え続けてくれているのが我が国が誇るフジフィルムですが、そのフィルムに最高の仕事をさせるためのレンズ開発にも余念がありません。 フィルムメーカーにとっては、いかにフィルムをたくさん消費してもらえるかが重要なはずで、かのコダックもかつて「あなた撮るだけ、撮ったら全て当社におまかせ」的なサービスで大当たりし、現在に至る基盤を築いたということです。 コダックの場合、ツァイスやシュナイダーなど、専門メーカー製レンズをカメラに搭載していました。それらのネームバリューも利用する事ができるし、より効率よく儲かる商売こそが重要であり、成果さえ出るなら何もイチから自分たちで作ることにこだわらなくともいい、ということでしょう。アメリカらしい合理主義精神。 一方で、職人の国・日本のメーカーたちは、写真用フィルムを開発製造する一方で、プライドを持ってレンズも研ぎ澄ましてきました。コニカの場合はヘキサノン、フジの場合ではフジノンがそれにあたります。 今回ご紹介するのはそのフジノン、M42マウントの国産レンズ群の中でも評価の高いEBCフジノンです。 |
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EBC=エレクトロ・ビーム・コーティングです。電子光線被膜? なんだかよくわかりませんが、ハイテクであることには間違いなさそうです。 フジがフジノンレンズにEBCコーティングを施し始めたのは、知る限りでは1970年代の初め頃のようで、世間にカメラが行き届き、より質の高いものが要求されるようになった時代だったと思われます。 | |
もちろんこの新型コーティングを施したフジノンレンズもそんな需要に応えるために開発されたものであることは間違いないのですが、当時、フジはカメラボディの開発ではいささか地味だったと言わざるをえません。 当時のフジの35ミリ一眼レフがSTというシリーズですが、キヤノンやニコンのものに比べると今一歩インパクトに欠けます。あの合体ロボのようなシステム拡張性もない。かと言って庶民派かというと、そこの椅子にはもうペンタックスが座っていたりする。横を見ればミノルタも頑張っている。ヤシカやマミヤやリコーやペトリもいる。 先手を打っていかねばいかないところで、どうしてもそうもいかずという、真面目だけどどこか不器用なイメージです。73年に発売されたST801では、M42というスクリューマウント規格でありながら開放測光を実現。しかし、時すでに「ようやく解放測光? というかまだネジマウント?」……というような感じだったのではなかったのでしょうか。 そのフジカST801。確かにスタイリッシュなカメラではないです。どこか垢抜けない、昭和の匂いがします。 が、実際手にとってみると、安っぽくは感じません。35年を経てなお、フジがこの機に込めた想いのようなものを感じることができます。記録的ヒットの要因にはならなかったものの、新しく導入されて成功した試みも幾つか盛り込まれており、例えば、以降多くの後続が採用したLEDによる露出メーター表示を世界で最初に搭載したのがこのカメラです。受光素子もSPD(シリコン・フォトダイオード)を使用し、他社が指針をユラーリと動かしていた頃のものとは思えない速度で、スパッと瞬時に露出がわかるようになっています。 シャッタ-も2000分の1秒まで切れ、布幕シャッターの音は優しい感じです。また、絞り込みボタンが固定できるので、例えば東ドイツものなど、他社のM42レンズが気になっても大丈夫です。同世代の名機たちの陰に隠れてしまったかもしれませんが、M42マウントを楽しむのであれば、使い勝手のいいカメラだと言うことができます。 そんなST801を手に取った時、おまけでEBCフジノンがついてきました。セット価格でお求めやすい価格。EBCフジノンはスクリュー界では人気のあるレンズ群ですが、広角以外であれば比較的入手しやすいようです。 むろん、こういう手に入りやすい画角を使って写りを楽しみながら、35ミリf1.9や、19ミリf3.5などのレアどころが目の前に現れるのを虎視眈々と狙うわけです。そういう遊び方が…… というのはとりあえず置いておいて(笑)、前に触れた通り、ST801と同世代のEBCフジノンレンズの組み合わせであれば開放測光ができます。バヨネットマウントのカメラからすれば当たり前のことかもしれませんが、これはすごいことです。 スクリューマウントは、単純無比なネジ構造のため、径さえ合えばどんな時代・どんなメーカーのレンズでも搭載でき、それで簡単に写真が撮れてしまいます。「いい加減」さが「良い加減」に化けているところですが、元来いい加減なものなので(笑)、ねじ込み方やネジの切り方によって微妙なずれができてしまいます。被写界深度表示が横っちょを向いてる、なんてのは、他のマウントでは異常事態でしょうが、よくあることで、ネジユーザーは屁とも思いません。 そういう感じなので、レンズからボディへの絞り値の伝達など、追加の機構が盛り込みづらいのです。これを克服するためにメーカーが四苦八苦した形跡が、この時代のM42レンズ各種に見ることができます。EBCフジノンでは、レンズ側の突起によって定位置でネジ込みがストップし、絞り環の動きをボディのピンが拾うように設計されています。 やはり、そのためにこそ作られたものです。ST801の開放測光機構に噛み合うと、EBCフジノンは、ネジマウントレンズでありながら、カチリと実に喜ばしげな音を立てます。事実、実絞りでの測光に慣れてしまった目に、絞っても明るさが変わらない視野というものは感動すらもたらします。やはりこれは便利。スナップの速度も上がるというものです。 その上、何度も言うようにフジノンの写りは高品質。フィルムメーカーはフィルムに対する詳細なデータを持っているため、最適なレンズ作りができるのだ……と、そういう伝説があるほどです。なるほど、例えばニコンやキヤノンがいかに工夫してレンズを作っても、通過した光を受け止めるフィルムを製造しているのはフジフィルムだったりするのですから……逆の観点からすれば、フジノンの写りがしっかりしているというのはごく当たり前の理屈のような気がします。土をよく知っている人こそがいい野菜を作れる、というようなものではないでしょうか。 では、その土も生かしましょう。フジのカメラにフジのレンズを搭載したら、フジのフィルムを詰めるのが大前提です。これでこそ、このシステムは究極的に完成し、持ちうる全ての力を発揮できるというものです。筆者も好んでこの組み合わせを使いますが、35年前のカメラとレンズが、現代最新のフィルムに、実に好ましい写りを実現させてくれます。魂がずっと引き継がれているんだな……と、胸が熱くなります。 デジタル全盛の今ですが、フジのフィルムはよりどりみどり、色々な選択肢を得られます。安めなのに実に良く写るスペリアは普段取り用に、きめ細かい写りと優しい色合いが欲しいならリアラエース、モノクロ派にはもちろんネオパンです。ポジなら高性能スタンダードをうたうプロビアをまず押さえておいて、季節折々に超極彩のベルビアを使ってその発色に驚愕してみるというのも面白そうです。 フジはフィルムを作り続ける一方、デジタル一眼部門ではニコンマウントでカメラを開発していますが、交換レンズとしての新型フジノンのリリースは実現していません。 しかしながら、例えば同社の高級コンパクトカメラ・クラッセW及びSには、さらに進化したフジノン、その名も「SUPER EBCフジノン」が搭載されており、進化続行中であることを教えてくれます。 今後、一眼レフ用交換レンズとしてフジノンが再びリリースされることはあるのでしょうか。もしあるとすれば、国内最強のレンズになる可能性は十分すぎるほどあるのではないかと妄想してしまいます。 それはもちろん、この手元のM42用のEBCフジノンの実力を……長くてブ厚い銀塩写真の歴史の中で、どちらかというと控えめながら、確かな輝きを放った存在を知ったからに他なりません。 ・ご注意・ 汎用性の高いM42マウントですが、EBCフジノンの開放測光機構については、多くの他社製ボディに干渉してしまい、そのままでは使うことができません。たいていの場合、最後までねじ込むことができず、SPを含むペンタックス機でも絞り環が動かせなくなってしまいます。 また、EBCフジノンにはマニュアル絞りに切り替える機構が存在しないので、自動絞り用のピンを押すことのできるアダプタを使用しない限り、開放のまま撮影するしかなくなってしまいます。 無論フジカを使うことが最も好ましいのですが、この他では、フォクトレンダー・ベッサフレックスが開放測光突起に干渉せず、かつ、マニュアルの絞込み測光ができるので、使用可能です。 筆者は時折K10Dで撮影を強行しますが、この場合、ハンザ社のK-M42マウントアダプタ(ピン押しができる)を使用し、任意のところまであらかじめ絞ったままネジ込み、絞り固定で使うことが多いです。絞り値を換えたくなったらまたネジ込みを緩め……という、まさに力技ですが、それでも撮れてしまうのがスクリューの良いところです(今回の作例の一部にも同様の方法でK10Dにて撮影したものがあります)。 なお、これらの特性のため、ネットオークションなどには、この開放測光用の突起を削り落として「デジタルで使用可能」などとうたったものも出回ることがあります。もちろん改造品になりますので、オリジナルをお求めの方は注意が必要です。 |
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