
デジタルカメラの進化は、我々に無限の可能性を与えてくれました。高画質、高速連写、手ブレ補正…便利さの追求は、写真撮影のハードルを劇的に下げました。しかし、その一方で、「一枚を撮る」ことの重みや、そこから生まれる偶然の美しさ、そして現像を待つワクワク感を見失いつつあったのではないでしょうか。そんな時代に、FUJIFILMから投げかけられた「挑戦状」があるのです。それが、Xシリーズの新星、ハーフサイズフォーマットのデジタルカメラ「X half(X-HF1)」です。
「写ルンです」で初めて写真を撮った世代にとって、ハーフサイズは懐かしい響きです。かつて、フィルムカメラの主流だった35mmフィルムを縦半分に使うことで、2倍の枚数を撮影できるという合理性が、若い世代の心を捉えました。修学旅行には誰もが「写ルンです」を持っていったものです。そんなカメラがかえって新しいと、今は若い世代があえて使っていますから、「写ルンです」現役の方にも馴染み深いでしょう。しかし「X half」は単なる懐古趣味ではありません。その背後には、現代のフォトグラファーに問いかける、深い哲学が隠されています。
本稿では「X half」の特長を網羅しながら、それがなぜ「フォトグラファーへの挑戦状」であり、「写ルンです」世代に捧げられた「エモいお題」なのかを紐解いていきます。
1. 懐かしさと新鮮さが融合した、唯一無二のボディデザイン
「X half」を手に取ってまず驚くのは、そのサイズ感です。まるでカードケースやパスポートケースのようにコンパクトなボディは、日常に溶け込み、被写体に身構えさせない自然な撮影を可能にします。その重量は、バッテリーとメモリーカードを含めてもわずか約240g。これは、交換レンズを持ち歩く必要のないエブリデイ・キャリーカメラとして、圧倒的なアドバンテージです。「大は小を兼ねる」という言葉が通用しないほど、このサイズと重量感は「X halfじゃないと駄目」と思わせる説得力があるのです。
スマホと比べようと思ったら、むしろカードケースの大きさに近いと気付いたのです
デザインは、クラシックカメラの魅力を抽出・再構成した、高品位で唯一無二の佇まいです。シャッターボタンと同軸に配置された露出補正ダイヤル、絞りリングなど、Xシリーズに共通する高いデザイン性と操作性を両立しています。特にこのカメラの核心とも言えるのが、アナログな操作感です。「フレーム切り替えレバー」は、フィルムカメラの巻き上げレバーを彷彿とさせ、カ次の撮影への期待感を高めます。また、フィルム装填確認窓を思い出させるサブ液晶の佇まいは、所有する喜びとともに懐かしい高揚感をもたらしてくれます。さらに、背面液晶の操作には、スワイプやフリックといった直感的なタッチ操作を採用。もちろんサブ液晶も活躍します。圧倒的なコンパクトボディでありながら、快適な操作性を実現している点も見逃せません。
2. 構図が紡ぐ新たな物語:「2-in-1」と縦構図の哲学
「X half」の最もユニークな特長は、やはり「ハーフサイズフォーマット」の再定義にあるでしょう。従来のデジタルカメラが採用する横長の3:2や4:3とは異なる、横3:縦4のアスペクト比を基本としています。この比率は、近年一般的となったスマホの縦長画面との親和性を持ちつつ、スマホの16:6とも異なる比率です。この比率かつ縦長であることが構図に独自の奥行きを与え、あなたのシャッターをより気軽なものにします。縦構図の撮影に適した3:4アスペクト比の背面液晶と、縦型の光学ファインダーを搭載しており、大きく高精細なモニターがもたらす「良い写真を撮らなければ」というプレッシャーからあなたを解放し、自然とシャッター回数が増えるのを実感できるはずです。
小さなカメラでもしっかり質感の伝わる高画質
そして、このカメラがフォトグラファーへの挑戦状として提示するのが「2in1」機能です。これは、2枚の縦構図写真を組み合わせて1枚の横長写真にするというもの。撮影と撮影の間にフレーム切り替えレバーを引くことで簡単に作成できます。静止画だけでなく、動画同士や静止画と動画を組み合わせることも可能で、組み合わせを変えるだけで、何気ない日常が新しい物語を語り始めます。例えば、何気ない日常の一コマと、その瞬間の感情を切り取った二枚の写真を並べることで、見る人に想像をかき立てさせるアートへと昇華させる作業になるのです。この機能は、我々がデジカメで失いかけていた「偶然の連続性」を呼び覚ます挑戦状なのだと、改めて感じさせられます。なお「2-in-1」で撮影しても、独立した縦長写真が同時に保存されますので、安心してシャッターを切ってください。
上半身と下半身、というイメージで組み合わせる
3. フィルム由来の色と質感:あなたの感性を表現する多彩な機能
「X Half」は、高画質な1インチセンサーと、「写ルンです」と同じ35mm判換算32mmの単焦点レンズを搭載し、クリアでありながら味のある画を生み出します。富士フイルムの強みである写真フィルムをベースにした表現力が、あなたのクリエイティビティを刺激してくれるでしょう。
フィルムシミュレーションは、忠実な色再現性とメリハリのある階調表現を併せ持つ「REALA ACE」など、13種類のモードを搭載。被写体やシーンにあわせて写真フィルムを選ぶ感覚で、多彩な色表現を楽しむことができます。さらに、新規に開発されたフィルター3種「ライトリーク」「ハレーション」「期限切れフィルム」を搭載。フィルムカメラ独特の光の漏れやにじみ、古びた風合いをデジタルで手軽に再現できます。グレイン・エフェクトで粒状感を調整すれば、ノイズでさえも日常の重要なアクセントとなり得ます。これらの機能は、まさに「写真に正解はない。あなたらしい表現を見つけてほしい」という「X half」のメッセージを具現化したものです。
ライトリークの光の位置はランダムなので、あとで見るまでわからない楽しみがあります
4. 不便を楽しむ「フィルムカメラモード」:現像を待つ高揚感
「X half」は、デジタルでありながらフィルム撮影の楽しさを再現する「フィルムカメラモード」を搭載しています。このモードでは、あらかじめ設定した枚数(36枚、54枚、72枚)を撮り切るまで、背面液晶で写真を確認できません! 不便に感じるかもしれませんが、ファインダー越しにクリアな世界を覗き、レバーを引くたびに「どんな写真が撮れているだろう」というワクワク感が込み上げてきます。撮ったら確認、といういつもの作業がなくなるのは、撮影テンポが速くなるとともに、あきらめるという潔さが生まれます。そう、まさに「写ルンです」の世界です。
撮影を終え、専用アプリ「X half」で「デジタル現像」を行うまで写真を確認できない体験は、まるで本物のフィルム現像を待つような高揚感を与えてくれます。現像後には、撮影した写真の繋がりを一覧できるコンタクトシートも同時に保存され、あなたが紡いだストーリーを振り返ることができます。たとえ失敗した写真があっても、それも思い出の一部として受け入れさせてくれるでしょう。このモードは、現代の便利さに慣れ切った我々への、心揺さぶる挑戦状なのです。
コンタクトシートは、最初はネガカラーフィルムのような茶色で、じわじわと像が現れるというギミックつき
5. 撮影から共有、プリントまで広がる楽しみ
「X half」は、日常使いを想定した約880枚という驚異的なバッテリーライフを実現しています。常に持ち歩くカメラに、これほどのバッテリー寿命は必須項目でしょう。撮影したデータはUSB-C端子からPCへ転送できるほか、専用アプリ「X half」を通じてスマートフォンへシームレスに転送可能です。
アプリでは「2-in-1」生成やギャラリー・アルバム機能に加え、スマホプリンター“チェキ”「instax Link」シリーズとの連携によるダイレクトプリントも楽しめます。撮影からプリント、共有まで一貫した楽しみを提供してくれるのです。
バッテリー切れに怯えることなく、目についたものをじゃんじゃん撮れるのが本当に嬉しい
声をかけて撮るときも、小さな「X half」なら威圧感なし。プリントしてプレゼントすればよかった
6. まとめと作例
「X half」は、最新のテクノロジーと懐かしい哲学が融合した、レアなカメラ。それは「写ルンです」世代がかつて感じた、シャッターを切る喜び、現像を待つワクワク感、そして偶然が生み出す美しさを、現代のデジタル技術で再現しています。それは、単なる記録を超えた、クリエイティブな表現の可能性を私たちに示唆しているのです。
「X half」が提示する「2-in-1」や「コンタクトシート」は、私たちフォトグラファーの想像力を刺激し、日々のスナップに新しい視点を与えてくれます。1枚ずつ独立しているのとは違い、“お題”をもらっているような気分になるのです。そういう縛りが写真を撮るという行為をより面白くさせ、他のカメラでは味わえないウキウキした気持ちを得られるのです。
日常の風景をただ切り取るだけでなく、二つのピースを組み合わせることで生まれる、あなただけの物語を紡いでみませんか。忘れかけていた写真の喜びを、「X half」がきっと取り戻させてくれます。
最後に、フォトダンプ! どうぞご覧ください。
緑つながり
ドアの前と、ドアの向こう
魚眼の表現もできます
草むらに突っ込んでフラッシュ撮影も
空の色にありがたさを感じたので、この組み合わせ
撮影後、私が「X half」の中古を購入したのは、言うまでもありません。