
【特別取材】 ライカ修理 ~一生モノへのプロセス~ 前編
Leica Boutique MapCamera Shinjukuは、今年2026年2月に13周年を迎えます。
これもひとえに皆様のご愛顧のおかげ、誠にありがとうございます。
マップカメラでは皆様にもっともっとライカを楽しんでいただこうと、今回様々な企画をご用意しました。
それらの企画に統一するテーマとして掲げるのは、ずばり『継承』。
カメラメーカーとして長い歴史と伝統を持ち、これからもその頂点に立ち続けるであろうライカを語るうえで、まさにピッタリなテーマと自負しています。
『継承』:受け継ぐこと
メーカーとしての伝統や技術の継承という大きなテーマとは別に、ここではもっとミニマムな観点から。
M型フィルムライカの祖であり、同時に最高峰とも称されるM3。
その登場は1954年といいますから、既に70年もの年月が経っています。
それだけの年月が経ったカメラが、今現在も発売当時と変わりなく使用できる、考えてみたら凄いことです。
レンズもまた然り。
銘玉と称されたライカレンズの数々は、今現在も類まれな描写力を発揮し人々を魅了し続けています。
それを可能にしているのは、一つに勿論、ライカの高い技術力。何十年経っても変わらず稼働できるような高度なレベルの技術が、惜しげもなくその製品たちに詰め込まれてきました。
そしてもう一つ、忘れてはならないのは、それらのカメラ・レンズを常に良い状態で稼働させるべくメンテナンスを施す修理人たちの技術力。
どんなに素晴らしい性能を誇るカメラ・レンズであろうとも、使い続けるうちにガタは出ます。部品の摩耗や劣化であったり、ガラス硝材のクモリやカビであったり…
それらを修繕し元の状態に限りなく近づけるためには、製作時と同じくらい、あるいはそれ以上に細心の注意が必要となる場合もあります。
ライカのカメラ・レンズたちが後々までその高い性能を発揮できるように維持すること、それもまた『継承』ではないでしょうか。
今回、マップカメラと長い年月お付き合いがあり、ライカをはじめとする多くのクラシックカメラ・レンズの修理を担ってきていただいた「ウメハラカメラサービス」に取材をさせていただき、その修理工程やデジタルカメラ全盛の現在におけるカメラ修理事情などをうかがってきました。
「ウメハラカメラサービス」
60年にもわたりカメラ修理に携わってきた大ベテラン、梅原さん率いる修理工房で東京都文京区春日の地を拠点とされています。
先に述べたようにマップカメラは梅原さんと大変長くお付き合いさせていただいています。古くはバルナックを含むフィルムライカやローライ二眼レフなど、クラシックカメラ全般にわたり診ていただいていました。
現在はお弟子さんである高橋さんとの二人三脚、少数精鋭での営業となっています。
主に高橋さんがM型フィルムライカ(M3からM6まで)とレンズ、梅原さんがハッセルブラッド500シリーズとC・CFレンズの修理を担当されています。
今回、『M3(2回巻き上げ)』と『ズミルックス M50mm F1.4 初期型 シルバー』の分解過程を拝見させていただきながら、高橋さんに様々なお話を伺いました。
なお、現在ウメハラカメラサービスではM3およびM2はシリアルナンバーが100万番以降のカメラを修理対象とされています。よってM3(2回巻き上げ)は本来修理対象外のものとなるのですが、今回特別にご対応いただきました。
まずは、オーバーホールのための分解工程を。
『Leica M3(2回巻き上げ)』

分解にあたって順序等に絶対の決まりはないとのこと。高橋さんが伝授され長年続けている工程で進めていただきました。
トップカバーを外すため、レンズマウント上部のビスを外すところから。

「トップカバーを外す際、中のファインダーブロックの距離計が当たってしまうので、レンズやボディキャップを付けて押し込んだ状態で外します。」

「これがいわゆるライカ純正の工具です。」 そういって取り出されたのは、巻き上げレバー部のお皿を外すための工具。
ただそれも、「金属部品同士なので傷つけてしまうといけないから、ペーパーをかませたりします。」と、あくまでも慎重に。
「初期のM3の場合は、ファインダーのアイピースレンズも外さないといけません。そのほか、純正の工具がないものは自作の工具で…」 そう言いながら、トップカバー上のパーツが次々と外されていきます。

「そして締め付けているカバーリングを外すのは純正の工具で。M型ライカの修理用に所有している純正工具は、この2点くらいです。あとは自作の工具で行っています。」


そうして、あっさりとトップカバーが外されました。

あれ? と思われた方も。なぜかM4以降の巻き上げレバーが取り付けられました。
「作業中接触などで巻き上げレバーに傷をつけてしまうといけないんで、いらなくなった部品でカバーするようにしています。」長年の経験による細かな配慮が随所に見られました。
次の工程に移ります。
「ファインダーブロックを外すためにまず底部の部品を外すのですが、初期のM3はここにナンバーが入っています。」



あっという間にファインダーブロックも外れました。見慣れたM3が目の前でどんどん分解されていく様は、興味深いかぎり。


「ファインダーの内部、大窓の中の枠のようになっているのがバルサム、少し劣化していますね。なってしまっているものが多いですが、これは当方では修理できないので…」
「ファインダー清掃は、基本的には表面拭いてフレームを外して清掃します。ファインダー分解となると、プリズムを全部一旦取り出して拭けるところを拭いていくっていう感じです。全部外すことは出来るのですが、割れやすいところもあるので注意が必要です。今現在の位置をちょっと印付けておいて、外して、拭いて、また元に戻して、のり入れて、固めるっていう形です。」

ファインダー内部を念入りに確認。今回は特にカビなどなく、状態は良いものだということ。
さらに分解が進みます。いよいよ筐体(ハウジング)からの取り外しに。高橋さんの手の動きも一段と速さを増します。



筐体から外した状態。


左側の部品、カメラのマウント側から見た内部の壁部分。こんな風になっていたんですね。
上下にテレンプ(遮光材)が貼られています。これが剝がれ、巻き込まれてシャッター動作不能になることも多いとのこと。
真ん中はセルフタイマーの動作部。
作業工程を解説してくださりながらも手は止まることなく、あっという間に巻き上げ機構部の取り外しに。

左が今回のM3から取り外したもの。そして、もう一つ出してくださいました。
「左がスプリング式、右がM3の後期から使われるラチェット式の巻き上げブロックで、タイプが全く異なります。これはM6のものですが、基本的にはM3後期から変わりません。」
よく巻き上げの滑らかなスプリング式。ちょっとカリカリした感触があるラチェット式。なんていう表現を使いますが、なるほど全く別物ということが分かります。

ハンダ付けされた部分を外していきます。



ここからはさらに作業の手が加速されていきます。次々と細かなパーツが外され、机に展開されていく様は圧巻でした。
ふと不安になって聞いてしまいます。細かなネジがいくつも使われていますが、どの部分のものか後で分からなくなったりしないのですか?
「一応ブロックごとに分けてはいますから大丈夫。全部ちゃんと元に戻せます。」 そうですよね。失礼なことを聞いてしまいました。

「これがスローブロックです。低速シャッターのジーッてなる部分。ここが油切れしてグリスが固まって動かなくなったり、動作が遅くなったり。低速不良の原因となるところです。」

「これがメインローラーです。」
ついにはシャッター幕も姿を現しました。こんなふうになっているんですね。
「シャッター幕は、交換となると自作します。金具から外して新しい幕を取り付ける工程が必要になります。」
作業中にもいろいろ質問させていただきました。
以前、2回巻き上げの方が1回巻き上げのものより修理がしづらくなっていると伺ったのですが。
「2回巻き上げの機体の方が、交換部品が少なくなってきていますね。共通の部品でない箇所がいくつもあるので。それに手間がかかる部分が多いです。」
例えば、ブレーキ部分。

今回のM3、2回巻き上げのもの。

高橋さんが別のパーツを出してくださいました。
「M3後半からこういうものになります。このブレーキセットを組み込むだけなので楽ですね。」

中間ギアの部分。左が今回のM3のもの、後に右の部品に代わるそうです。
そのほか、M3ユーザーなら見慣れた部分もいくつものパーツが組み合わさって成り立っていることが分かります。

スプール軸の部分。

フィルム巻き戻し部分。
「本当はもう少し分解して調整する部分もあるんですが、だいたいこんな感じですね。」
そう言って、高橋さんが並べてくださったのがこちら。

これが、あのM3…
こんなにも細かなパーツで成り立っているんですね。取材にあたったスタッフ一同、ちょっと言葉が出ませんでした。
しかも、ここまでの所要時間、1時間に満たず。一つ一つ説明してくださったり、途中で撮影のため手を留めていただくこともしばしばあってです。
聞いてみました。
M3を1台オーバーホール修理するのに、どれくらいの時間が必要ですか?
「シャッター幕交換や革の貼り替えが必要なければ、1日から1日半といったところ。
とはいえ、最近はシャッター幕交換が必要なケースがほとんどですので、1日半から2日くらいですかね。」
分解がこれだけあっという間なのですから、そのあとに控えた作業、ファインダー清掃やそれぞれの部品の洗浄、グリス入れ替え、組み立て調整といった工程がいかに大変か…
ただ、それだけの工程を経た機体が、我々を魅了してやまないあのシャッターフィーリングを取り戻して帰ってくるのですから、オーバーホール修理の重要性がうかがえます。
ここまで、『M3(2回巻き上げ)』の分解の様子を見ていただきました。
後編では、あのレンズがバラバラに!
後編はコチラをご覧ください。
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