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【特別取材】 ライカ修理 ~一生モノへのプロセス~ 後編

【特別取材】 ライカ修理 ~一生モノへのプロセス~ 後編

Leica Boutique MapCamera Shinjukuは、今年2026年2月に13周年を迎えます。
これもひとえに皆様のご愛顧のおかげ、誠にありがとうございます。

マップカメラでは皆様にもっともっとライカを楽しんでいただこうと、今回様々な企画をご用意しました。
それらの企画に統一するテーマとして掲げるのは、ずばり『継承』。
カメラメーカーとして長い歴史と伝統を持ち、これからもその頂点に立ち続けるであろうライカを語るうえで、まさにピッタリなテーマと自負しています。

前編は、銘機『M3(2回巻き上げ)』がバラバラになっていく様子をご覧いただきました。
後編では、レンズの分解工程をお楽しみください。

『ズミルックス M50mm F1.4 初期型 シルバー』

「貴婦人」とも称される銘玉。工芸品を思わせる美しいローレット加工が施された鏡胴や繊細な描写が特徴で、マップカメラでも人気の高いレンズです。

ヘリコイド部とレンズ部に簡単に分かれる構造ですが、以前の雑な修理などで糊付けされてしまっていたり、腐食によって癒着してしまっているものも多いとのこと。
今回のものは問題ありませんでした。

普段はヘリコイド部とレンズ部とそれそれ別々に分解し清掃、組み直しをされるそうですが、今回一緒に分解していただきました。
まずはヘリコイドから。



鏡胴のネジを外すと、内部の部品が取れました。
そして、根本の部分とピントリングを分離させることに。

「この時、外れる位置を忘れると、組みなおした時ズレてしまい距離計が合わなくなります。ので、印をつけておきます。
別の位置で合わせてしまうと、無限が出なくなります。
このレンズは単純ですが、上下2段になっているものなどは少し複雑ですね。」

ヘリコイド部の分解はここまで。
あっという間でしたが、内部のカニ目リングが腐食していて外れなくなってしまっているものも多いとか。

続いて、レンズ部の分解です。



レンズ周りの接着を取りながら、次々とレンズを外していきます。

「これが後玉になりますね。」
そう言って、それぞれのレンズの状態を灯りに照らしてチェック。


「このレンズの場合、こんな感じでキズがあります。以前の修理の際の拭きキズか、コーティング劣化によるものか分かりませんが。清掃しても、これは残りますね。
レンズを清掃すると、それまでクモリなどで見えにくかったキズも目立つようになったりします。」
なんと、クリーニングしクリアになることで、逆にそれまでのキズが見えるようになってしまうとは…


続いて前玉側に。ルーペも使いながら、一つ一つ丹念にキズやコーティング劣化の状態を見ていきます。
私もルーペをお借りし見せていただいたのですが、残念ながら老眼が進行中の目では細かいところまで確認できず…

と、ここまで流れるような動きで次々とレンズを外していた高橋さんの手が、にわかに忙しく動くように。
レンズが、抑えている枠とともに内に癒着してしまって、外しにくくなっているようです。
注射器状のレンズサッカーをあてがったり、レンズオープナーをサイズを確かめながらあれこれ替えて使用してみたり…


見ている我々も、ことばを掛けるのを忘れ固唾をのんで見ていました。
取り掛かること8分くらい、それまでの何倍もの時間です。外れた瞬間は、高橋さんより周囲の我々がホ~ッと息を吐くことに。

外れないことなどはよくあるのですか?
「ありますね。コバ(レンズ側面に反射防止のため塗る黒い塗料)が劣化し、浮いてきて癒着してしまったりとか。
無理に外そうとすると、レンズに傷をつけてしまう恐れもあるので。」

「今回は、ここまでですね。手前が前玉側、奥が後玉側です。」 レンズ部の分解が終わりました。

続いて絞りの部分。


「このバネが絞りのクリックになります。ここを調整することで、クリック感を固くしたり緩くしたり。」
何か基準はあるのですか?
「ライカで数値的な基準はあるのかもしれませんが、詳しくは…。私のなかでこのくらいというのはあります。あとは好みになってしまうので、お客様の要望にはできる範囲で応えるようにしています。」

ピントリングの回転のトルクなども?
「そうですね。そちらはグリスの質で変わってきます。重めのグリスとか、軽めのグリスとか。」

そうお話しされながらも分解の手は止まらず、気がつけば絞り羽根が次々と。


「絞り羽根に油がにじんでて汚れがあるので、あとで洗浄します。このレンズの絞り羽根は裏表の区別が分かりやすい形状をしていますが、なかには分かりにくいタイプもあります。」
これが組み合わさって、あの絞りの形になるのですか。本当によくできていますね。


そして、レンズの分解が終了。
こちらも説明をしてくださりながら、30分あまりで完了です。


「レンズを組みなおしたら、この測定機にレンズを置いて、無限が出ているかどうかでピントを点検します。ヘリコイドを無限の位置にして覗いた時、像がはっきり見えればOKです。分解前と修理後に確認します。」

レンズによってはピント調整できないものもあると伺ったことがあるのですが、どんな違いがあるのですか?
「中にワッシャー(間に挟み込む部品)を入れて調節しているものもあるので、そういったものではできるものもあります。ただそのワッシャーが0.0何ミリなんて厚さのものは自作できませんが…
当方で修理対象のライカレンズは、ピント調節の仕組みがないものが多いです。」
そうなんですね。レンズのピントって、修理で直るものとばかり思っていました。

高橋さん的には、ボディとレンズとどちらが修理しやすいとかありますか?
「レンズ修理の方が、より気を使いますね。ちょっとしたことで、キズがついてしまう恐れがありますし。」
確かに今回拝見させていただいて、レンズの扱いの慎重さはとても勉強になりました。

と、このようにカメラボディ・レンズの分解工程を拝見させていただきましたが、今回そのほかにも気になる点をいくつか質問させていただきました。

お客様にもよく聞かれることなのですが、カメラやレンズをオーバーホールに出す周期ってありますか?
「難しいですね。5年から10年に1回なんて言い方をすることもありますが、それぞれの方の使用状況や保管状態によっても変わってきますし。
使っていて支障が出てきたら、というところですかね。」

オーバーホールと部分修理とどちらの依頼が多いですか?
「今はオーバーホールで受けることが多いですね。部分的な修理だと、例えばシャッタースピードの調整をしたら、後で巻き上げの感触が… なんてこともありますし。
ファインダー清掃だけと言われて、シャッタースピードが大きくずれてたらそのままにしておくこともできませんので。」
修理するなら全部まとめて診ていただいたほうが安心だし、ずっと使い続けるなら結果的には安く上がるのかもしれませんね。

ここで、高橋さん個人のお話も伺いました。

修理の仕事に就かれたきっかけとかあるのですか?
「2002年からなので、もう20年以上前のことになります。
もともと自分の両親が梅原と親しくしていたので、仕事を探している時雇ってもらえないか頼み込んだのが始まりです。
でも、その時はまさかこんなに長く続けるとは思っていませんでしたが。」

というと?
「デジタルカメラが主流になりつつある頃だったので、フィルムカメラは今後どんどん廃れてしまうのだろうな、と。
そうしたら、修理の依頼も少なくなってしまうだろうと思っていました。
実際は減るどころか、現在はむしろ増えている感じですが。」

今までで印象に残っている修理とかありますか?
「まだ始めて何年かという頃、M4のブラックペイントをお預かりし光線漏れを診たのですが、その原因がどうしても分からず苦労したことがあります。
考えられるところにあれこれ処置を行ったのですが改善されず… どうしようもなくて梅原に頼んだら、一発で直してしまいました。その時のことがずっと記憶に残っていますね。」
成功した時より、うまくいかなかったことが印象に残っているとは、高橋さんの修理に対する真面目な人柄がうかがえます。

高橋さんは、個人的にライカを所有されているんですか?
「昔はライカ・ハッセル・ローライと持っていたんですが、全部手放してしまいました。撮る側はあんまり得意ではないので。」
本当ですかね。でも、撮るよりもいじっている方が…、というのは私も何となくわかります。

今から14年ほど前にも、マップカメラではウメハラカメラサービスを訪れ、M6のオーバーホールの工程を取材させていただいたことがあります。
「ええ、覚えています。でも、今回その時の記事を見て、ああ、M6だったっけという感じなのですが。」
その頃と修理のやり方などは変わらないのですか?
「そうですね。何も変わっていません。ずっと同じようにやっています。」
そうやって、今まで何台のカメラが梅原さん・高橋さんらの手によって蘇ってきたことでしょう。

ただ、最近クラシックカメラを専門とした修理業者は、高齢化などもあり数を減らしています。

高橋さんは、20年ほど前に梅原さんに弟子入りされたわけですが、ご自身はお弟子さんとか取らないんですか?
「本当に、こんなに修理の需要が続くと思っていなかったんです。自分一人でやっていくのもやっとかな、と。
今は依頼が多くて、後の人に教えるとか難しい状況ですね。」
「少人数ですし、現在はM型ライカとレンズ、あとハッセルブラッドに絞って依頼を受けるようにしています。それでも、ご依頼は多いですね。」

実は、今回取材を担当している私、15年以上前ウメハラカメラサービスに自分のローライフレックス3.5Fを持ち込み、高橋さんにオーバーホールしていただきました。
そのカメラは現在も現役、妻よりも長き相棒として快調に大活躍しています。また高橋さんに診ていただこうかと考えていたのですが…
「ローライ修理の依頼が少なくなってしまったこともあり、修理に必要な専用工具はすべて他に譲ってしまいました…」
なんと… 確かに今回修理の過程を見せていただいたら、専用工具がないと修理できないということはよくわかります。…残念無念、もっと早く相談するんだった!

では、今後ライカの修理はどうなりますか?
「交換部品が少なくなってきていますね。
自作できるものは作りますし、修理不能の中古品から回収し再利用したりもしています。
ほかにも難しい修理が増えてきていますけど、頑張っていきます。」

修理業者がその数を減らしたり、必要な部品が少なくなってきたり。歴史的な銘機・銘玉を使い続けるには厳しい状況となってきています。
ウメハラカメラサービスの梅原さん・高橋さんには、今後ともその匠の技ともいえる技術をいかんなく発揮していただきたい限りです。

Leica Boutique Mapcamera Shinjuku13周年を記念したイベントはコチラから

[ Category:Leica | 掲載日時:26年02月05日 12時31分 ]

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