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【Nikon】NIKKOR Z  MC 105mm F2.8 VR S / MC 50mm F2.8 開発者インタビュー

【Nikon】NIKKOR Z MC 105mm F2.8 VR S / MC 50mm F2.8 開発者インタビュー

Zシリーズ ミラーレスカメラ用の交換レンズとして登場した『NIKKOR Z MC 105mm F2.8 VR S』と『NIKKOR Z MC 50mm F2.8』。Zマウントの大口径化とショートフランジバックによりレンズはどのように進化したのか、今回は実際にレンズを開発した担当者へインタビューを行いました。ミラーレス時代に生まれた革新のマイクロニッコールの開発秘話をぜひご覧ください。
※インタビューは7月上旬に行い、感染対策に配慮して取材を行いました。

 

― 今回はミラーレス専用レンズとして初のマイクロレンズでしたが、今までのFマウントレンズとは開発する際に違う事も多かったのではないかと思います。もし苦労話などありましたら教えてください。

萩原 氏:
『NIKKOR Z MC 105mm F2.8 VR S』に関しては、圧倒的な光学性能と軽量化、そして高いコストパフォーマンスの3つの要素をバランスさせることを目標にしていたため、開発には苦労しました。特に軽量化に関しては、材料に樹脂部品を多用し、マウント部分にはアルミ合金を使用するなど、軽量化しつつも高い強度と耐久性を兼ね備え、高い光学性能を確保するためにシミュレーションや検証を何度も行いました。その結果として、満足のいく製品が出来上がったことは設計を担当したものとして非常に達成感を感じています。

栗林 氏:
本レンズのコンセプトとして「最高峰のマイクロレンズ」を掲げていましたので、Zマウントの特徴を生かした後玉の大口径非球面レンズと3枚のEDレンズを採用することでニコン伝統の中望遠マイクロレンズの特徴を踏襲しつつ、圧倒的に進化した光学性能を実現しています。特に軸上色収差を徹底的に補正して、高評価を得ている『AF-S VR Micro-Nikkor 105mm F2.8G』を超える高解像、質感描写の向上で、空気までも切り取れるような写りを目指して設計しました。

従来製品から約15年ぶりのマイクロ105mmなので、描写性能の進化はもちろんインナーフォーカスの両立で苦労しました。マイクロレンズでは撮影倍率が1.0倍と、他のレンズよりも撮影倍率が高いので、その分ピント合わせに必要なフォーカス群の移動量が長くなり、鏡筒が長く、重量も増える傾向があります。

一般的にはフォーカス群の移動量が長いほど、軽いフォーカス群を採用して撮影距離全体での収差が補正できるのですが、一方で鏡筒を短くすると、フォーカス群で光を大きく曲げる必要もあるので、画面全体での画質の悪化や、収差を補正するために更にレンズの追加を行うことになり、フォーカス群が重たくなってしまうデメリットがあります。 加えて、フォーカス群の重量化というのは、Zマウントシステムが求めるAF速度を達成するための足かせにもなってしまいます。そこで、今回メカ設計に重いレンズ群を動かせるような小径の高トルクSTM(ステッピングモーター)を新開発してもらい、フォーカス群の移動量を短くしつつ最高の光学性能を実現することができました。結果、メカ設計のおかげで見た目以上に軽く、光学性能を保ったままAFの高速化を実現することができました。

 

 

― 後玉に非球面レンズを採用できたのは大口径マウントとショートフランジバックだから配置できたと思いますが、そのメリットは何でしょうか?

栗林 氏:
メリットとしては、像面湾曲補正と軽量化の両立です。通常の球面レンズでは補正に何枚もレンズが必要ですが、非球面レンズの場合は、一枚だけで済ますことが出来ます。後玉に配置することで周辺のピント抜けが改善され、シャープに写るようになりました。 非球面レンズはセンサーに近づけば近づくほどレンズが大きくなり、収差を独立制御する効果が上がるので、まさにZマウントの大口径・ショートフランジバックを活かした「ニコンにしか出来ないレンズの配置」となっています。

 

― 続いて『NIKKOR Z MC 50mm F2.8』についてですが、もともと小型だったレンズをさらに小型化するのは大変だったのではないでしょうか?

小野 氏:
そうですね。『NIKKOR Z MC 50mm F2.8』のコンセプトは小型・軽量を第一優先で開発を進めました。そのために今回は前群繰り出し方式を採用しつつ、さらにショートフランジバックの恩恵もあって後群の光学設計においても手厚くレンズを配置することができました。おかげで光線を急に曲げる事もなく高性能と小型化を両立させることができました。
従来製品の『AF-S Micro NIKKOR 60mm F2.8 G ED』と比べ、全長は約23mm、重さは165g軽くなっています。

 

 

― 過去に200マイクロ(AI AF Micro-Nikkor 200mm f/4D IF-ED )やズームマイクロなどバリエーションがあったと思いますが、今後Zマウントでもそういったレンズが登場する予定はありますか?

萩原 氏:
今後のラインアップについてはお答えできませんが、まずは定番として市場でも需要の高い焦点距離のレンズを優先していきたいと考えております。

― 『AF-S VR Micro-Nikkor 105mm F2.8G』ではテレコンバーターを使用して倍率2倍の接写ができましたが、今回の『NIKKOR Z MC 105mm F2.8 VR S』 はテレコンバーターは使えますか?

萩原 氏:
テレコンバーターを使えるようにするかという議論もありました。しかし今回は、光学性能・フォーカス性能・軽量化のバランスを優先し、その仕様は見送りとしました。

― なるほど、それを割り切って『NIKKOR Z MC 105mm F2.8 VR S』の高性能を実現しているのですね。少し話が変わるのですが、いま『Z fc』がカメラ業界全体で大きな話題となっています。今後APS-Cセンサー専用のDXマイクロレンズは検討されているのでしょうか?

萩原 氏:
申し訳ございませんが、DXレンズのラインアップに関してはお答えできないのが実情です。お客様のご意見やご要望に耳を傾けながら、今後の製品ラインアップは検討を進めております。

 

 

― レンズの“味”を解析することができるニコン独自の収差計測装置「OPTIA(オプティア)」は今回のレンズでも活用されていますか?またどのような場面で有効だったのでしょうか?

栗林 氏:
はい。試作品を測定して設計値の差や実際の写りを確認するために活用しました。 お客様がレンズの描写性を判断するのはピント面だけの解像を示す「MTF」ではなく、ボケも含めた「写り」ですので、設計者の求める描写になるように収差バランスのチューニングに活用しています。

― 今回『NIKKOR Z MC 105mm F2.8 VR S 』と『NIKKOR Z MC 50mm F2.8』で、それぞれのレンズ収差の特徴などの違いはありますか?

栗林 氏:
どちらのレンズにも共通している点としては従来製品にくらべ軸上色収差を抑えた設計になっていることです。マクロ撮影は従来製品なども比較してボケの色付きが気になってしまうところがあったので、パープルフリンジなども含め、目立たないようにしてあります。

『NIKKOR Z MC 105mm F2.8 VR S 』に関してはシャープさの向上はもちろん、EDレンズを3枚使用し無限遠から等倍まで軸上色収差を徹底的に補正しています。特にボケの色付き、例えば白い花や金属を撮影する時に非常に目立つ緑や紫の色付きを抑えているので、ボケのエッジが変に目立たない収差バランスになっています。 ピント面はシャープでボケが固くならないような収差バランスになっており、理想的なレンズに仕上がっています。そのため、遠景や複写といった平面被写体では隅々まで解像した描写になり、ポートレートや花のような奥行きのある被写体では、ピント面は忠実な質感を写しつつ、滑らかなボケとのコントラストを楽しめます。空気までを切り取れるような、実際の感覚が伝わるような写りを目指しました。

小野 氏:
手軽に持ち運んで近接撮影が楽しめるレンズなので、スナップ撮影距離・マクロ撮影距離域で最もパフォーマンスが発揮できるように設計しています。一般的に通常のレンズでは近接距離側になると収差補正不足になり、描写が落ちる傾向がありますが、『NIKKOR Z MC 50mm F2.8』では無限遠から等倍まで高い描写性能を発揮できるようにしました。特に色収差の補正は徹底して抑制しているので、等倍の色付きはほとんど目立ちません。さらに、最適なレンズ配置と非球面レンズによって収差補正を行っていますので、描写に関しては高い解像力を得ることができます。

 

 

― 『NIKKOR Z MC 50mm F 2.8』といえば、当初のロードマップでは60mmを計画していたと記憶しています。今回を合わせて4本目の50mmになりますが、それぞれの特徴を簡単に教えていただいてもよろしいでしょうか?

小野 氏:
おっしゃる通り、弊社は50mmが好きで毎年のように一本出しています(笑) まず、『NIKKOR Z 50mm F1.8 S』は高い解像力と軸上色収差を徹底して抑制しています。『NIKKOR Z 50mm F1.2 S』が目指したのは深く滑らかなボケ味です。『NIKKOR Z 58mm F0.95 S Noct』はそれ(ボケ味)の究極系です。 今回の『NIKKOR Z MC 50mm F2.8』では小型・軽量を第一に開発を行いました。目指したのは「スナップ」と「近接」です。例えば、テーブルフォトなどの撮影シーンでは『NIKKOR Z MC 50mm F2.8』の方がよりバリエーション豊かなので、撮影の幅が広がると思います。

今回のレンズが50mmになった経緯ですが、コンセプトである「小型・軽量」を最優先して開発・検討した結果、小型・軽量で、かつ最も性能が高く出るのが50mmだったため、また、マクロ撮影だけでなくより幅広いシーンで本レンズを楽しんでいただきたいと考え、標準単焦点としても使いやすい焦点距離50mmに変更しました。

さらに軽量の『Z 50』に装着することで、焦点距離75mm相当の中望遠マイクロレンズとしても楽しむことができます。カメラ内にVRの無い『Z 50』ですが、Zボディの高感度性能が高いので、暗い環境においても、高ISOで手持ちでも問題なく撮影が可能です。是非、この小型・軽量のレンズを手軽に持ち運んで、屋内・屋外でマイクロレンズ特有のボケを楽しんで欲しいです。

 

 

― 『AF-S Micro NIKKOR 60mm F2.8 G ED』はインナーフォーカスだったのに対し、今回の『NIKKOR Z MC 50mm F2.8』では前群繰り方式を採用しています。接写時に被写体に当たる恐れがあるなどデメリットもあると思いますが、その点はどのようにお考えでしょうか?

小野 氏:
ご指摘の通り、前群繰り出し方式は被写体にぶつかってしまう恐れもありますが、今回は「小型・軽量かつ高い解像力」を優先としました。懸念のあるシーンでは、フォーカス制限機能を活用していただければと思います。

― なるほど。それにしてもこの『NIKKOR Z MC 50mm F2.8』はAFがものすごく速いですよね。前群繰り出し方式のレンズはAFが遅いイメージだったのですが、本当に驚きました。 フードが小さいのも特徴的ですが、フィルターを重ねてもケラレは大丈夫でしょうか?また見たことのない形状だったので効果は出ているのでしょうか。

小野 氏:
ケラれる事はありません。フードは、小型・軽量を最優先事項として、その制約の中で可能な限りゴーストをケアしています。

 

 

― 『NIKKOR Z MC 105mm F2.8 VR S』に関してですが、描写性能以外で前モデルとはここが大きく違うというのはどこでしょうか?

栗林 氏:
まずは高い逆光性能です。ナノクリスタルコートとアルネオコートを採用し、逆光や多灯のライティングでも気にせず撮影に集中できます。またこれらの高性能反射防止コーティングにより、レンズ面で反射する光の絶対量が従来より圧倒的に軽減し、より一層クリアな画質が得られます。

また、見た目ではよくわからないのですが、従来製品の重量と比べて実に420gも軽量化しています。実際に手に取っていただくと、思った以上に軽いと実感していただけると思います。

― 確かにこれは驚きました。見た目と重量のギャップが凄いなと。そして見た目も既存のZレンズから変わりましたよね。Sラインのロゴなどとてもカッコイイと思いました。

萩原 氏:
ありがとうございます。お客様のご意見を反映したマイナーチェンジになります。NIKKOR Zレンズを発売してから、お客様より外観デザインについてのご指摘、ご要望を頂きまして、新しいデザイン案を検討して参りました。

今回の開発のタイミングと合わせて、新しいデザイン案を採用することを決定し、この度発売しました。NIKKORロゴについては、お客様から見て、よく見える位置に表示することで、より身近にブランドを感じて頂けることを目指しています。

S-Lineのエンブレムについては、上位モデルであるS-Lineをより認知して頂くためにサイズ調整を行いました。また金属素材で抜き文字タイプを採用し、高い精度で鏡筒にはめ込んでおり、従来よりも高品位なデザインを感じて頂けると思います。

― そうなると、今後のレンズもこのデザインに合わせてくる予定でしょうか?

萩原 氏:
そうですね。基本的には統一性をもって訴求して行きます。

 

 

― ニコンのレンズ設計者である原田壮基氏(光学設計)はたびたび「良いレンズはレンズ断面図が美しい」と話されていますが、今回のMCレンズの断面図について思うことはありますか?

栗林 氏:
断面図は美しいと思います(笑)

美しい断面図を説明します。レンズ一枚の形状にはそれぞれ役割があり、光を無理に曲げずに構成している様を我々光学設計者は“美しい”と表現しています。それは、新幹線の先頭車両や飛行機の翼などの様な物理学的に意味のある滑らかな曲線形状を人間が本能的に美しいと感じることと同じだと思います。レンズ枚数が多すぎると、役割の無い無駄なレンズが増えるのは勿論、ガラスの反射面が増え、ゴーストの原因になります。一方で、レンズ枚数が少なすぎると収差が補正しきれず、描写性能が悪くなる事や、無理に補正しようとして光線を極端に曲げすぎてしまい、美しくないボケに繋がります。 良いレンズは役割を持った形状のレンズのみで構成されているため断面図が美しいのです。

私たち設計者は断面図の美しさの重要性を叩き込まれているので、本レンズに限らずNIKKORレンズ全製品で美しい断面図を心がけています。その結果が、高い描写性能を実現し、お客様から高い評価をいただいている理由だと思います。

― 最後に、ニコンのレンズを使用すると「本当によく写る」と感じているのですが、何かポリシーのようなものはあるのでしょうか?

栗林 氏:
単にMTFを上げた、いわゆるピント面の解像を上げただけでは、写真全体が固くなりすぎてしまいます。なので、ボケ味も見つつ解像も見つつ、カリカリとした写りではなく、解像とボケ味のつながりを重視しています。特に色収差に関しては徹底的にこだわり、ピント面で質感を忠実に再現しつつ、ボケの色付きを軽減させ、滑らかなボケとなる設計を心がけています。

 


 

この度は貴重なお話をお聞かせいただき誠にありがとうございました。
今後もマップカメラでは各メーカーの新製品やこだわりなどに注目し、独自の取材を続けていきます。新しいニコンのマイクロレンズ『NIKKOR Z MC 105mm F2.8 VR S』と『NIKKOR Z MC 50mm F2.8』を含め、マップカメラ・StockShotをよろしくお願いいたします。

 

[ Category:Nikon | 掲載日時:21年08月12日 17時02分 ]

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