【オールドレンズの沼地】Steinheil Culminar 85mm F2.8 (L39)
オールドレンズ沼にハマり出すと、今まで知らなかったような海外メーカーやレンズ名に自然と詳しくなるのですが、その中でも西独レンズを漁り始めるとSteinheilという普段あまり聞きなれないメーカーに出会うはずです。
「Steinheil」、マップカメラ表記だと「スタインハイル」としていますが、この場では「シュタインハイル」と呼ばせてください。
このドイツらしい響きのメーカー名シュタインハイルの歴史はとても古く、18世紀中頃からレンズや顕微鏡の製造を行なっていたと言われています。
そんな歴史と伝統の光学メーカーが戦後に35mm判フィルムカメラ『Casca(カスカ) I』と『Casca(カスカ) II』という超マニアックなレンジファインダー機を発売します。この2台、同じ名前のカメラなのにマウント形状が異なるというヘンテコ仕様なのですが『Casca(カスカ) II』にはライカM3より6年も先にバヨネットマウントと3種のブライトフレームを採用している前衛的な設計がされていました。そしてマウント左側に広がる独特の間。本体写真をお見せできないのが残念ですが、なんとも言えない魔訶不思議なデザインをしているのです。たまにコーヒーを飲みながら「もしかしたらカスカの“あの間”は日本の侘び寂びと共通する美があるのではないか」としみじみ考えたりしています。我ながらなかなかの変態ですね。
少し話がそれましたが、その『Casca(カスカ) II』用のレンズとしてラインアップしていたのが、今回ご紹介する『Culminar(クルミナー) 85mm F2.8』になります。カスカ用バヨネットマウントの他にもL39、M42、エキザクタ用が発売され、一定数は出回ったのでしょう、中古でたまに見かけるくらいの数はあるレンズです。
さて、この『Culminar(クルミナー) 85mm F2.8』、当時としてはF2.8の明るい中望遠レンズだったのでしょうが、今となっては特筆すべきスペックではありません。ではなぜ今回取り上げたかというと、レンズ構成に注目です。
シンプルなレンズ構成は一見するとテッサー?と思うのですが、いやいやテッサーは3群目が貼り合わせの1-1-2です。それに対してクルミナーは2−1-1。原型は古典レンズの中でも有名なペッツバール型を祖として改良されたアンチプラネット型と呼ばれる独特な構成をしているのです。
その描写は、透明感と柔らかさの中に繊細なピントの芯を持つ美しい写り味。もともとの思想はポートレートレンズとして設計されたペッツバール型の発展型ですので、この描写にも納得です。
参考に少し作例を撮影をしてきましたので、ご覧いただければと思います。絞りは開放F2.8とF4、光の拾い方に注目です。
この優しい描写と空気感がクルミナーっぽいな〜と感じる写りです。少しでも強い光がレンズ内に入るとフレアやゴーストが発生しますが、それがまた魅力的。周辺部は古典レンズの設計を匂わせる少し怪しいボケ味もたまらなく良いのです。
オールドレンズの中でも中望遠の焦点距離は設計に無理が掛からないためか、描写の美しさと個性を両方した銘玉が数多く存在します。この『Steinheil Culminar(クルミナー) 85mm F2.8』も珍しい古典レンズの設計を取り入れていながら、絞り開放から安定感のある描写が楽しめる逸品。レンズの明るさやスペックだけでは語れない美学がオールドレンズ達にはあるのです。
それでは、次回もオールドレンズの沼地でお会いしましょう。