
【Leica】完璧な写りに飽きた人へ ② 6000万画素 SL3で味わう90年前の「滲み」

『Leica Hektor L73mm F1.9』
1931年から1942年まで製造された中望遠レンズ。ライカの歴史の中で極めて初期に製造されたにもかかわらず、開放F値1.9の大口径を誇ります。
「滲みレンズの元祖」とも称され、絞り開放時の柔らかな描写はファンも多く、大変人気の高いレンズです。

「ヘクトール」の名称は、レンズ設計者であるマックス・ベレーク博士の愛犬の名前に由来していると言われています。
L73mm F1.9の他に、L28mm F6.3・L50mm F2.5・L135mm F4.5、またビゾ用のL125mm F2.5などにその名が冠せられています。
今回取り上げたL73mm F1.9には、様々なバリエーションが存在。
外観デザインの違いだけでも、「シルバー×ブラック」「ブラック×シルバー」「ブラック×ニッケル」「ブラック×ブラック」などなど…

外観の他に、フォーカシングでレンズが回転するタイプや直進のタイプ、レンズ上下がネジで止まっていて回転させると分離するタイプなど、仕様の異なるものもあります。
様々なバリエーションがあるのですが、レンズ構成は3群6枚と変わらず。そのため、バリエーションの違いで写りが異なるというより、オールドレンズゆえ1本1本、個々の個体で描写が異なるとか。 なんとも奥深い…

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1. ヘクトールで季節の花々を

F1.9 1/2000秒 ISO100 STD
さっそく絞り開放F1.9で。
ピントを合わせた中央の花は、オールドレンズらしい優しく柔らかな輪郭を持ちながらもしっかりとディテールを保っています。
背景の木漏れ日に注目すると、光が丸く滲むような独特の玉ボケが現れており、背景の緑と相まって主役の紫陽花を美しく浮き立たせています。
SL3の豊かなダイナミックレンジのおかげで、ハイライトからシャドウまで破綻なく滑らかにつなぎとめられています。
レンズの最短撮影距離である1.5mで撮影しました。
中望遠レンズとはいえ、さすがに1.5mという撮影距離では花などの撮影には物足りなさを感じてしまいます。
今回、SL3にはSHOTENのヘリコイド付きマウントアダプターを介してヘクトールを装着していたので、そちらを活用。 より近接撮影を楽しみました。

F2.8 1/2500秒 ISO100 STD
少し前方にせり出した一輪にフォーカス。1段ほど絞りましたが被写界深度は非常に浅く、ピント合焦面から背景へ向かって滑らかにボケていきます。
どこか潤いを感じさせる質感描写は、現代のカリカリに解像するレンズではなかなか出せないヘクトールならではの描写と言えます。

F1.9 1/1250秒 ISO100 STD
手前のガク(装飾花)にピントを合わせ、背景を大きくぼかしました。
油絵の筆遣いを思わせるようなボケの中、合焦面が柔らかく浮かび上がりました。
オールドレンズゆえ、マニュアルフォーカスでのピント合わせは難しそうですが、SL3の高精細な電子ビューファインダーはピントの芯を明確に表示してくれます。 拡大表示機能、そしてピーキング機能のおかげで、F1.9というシビアなフォーカスも非常に快適でした。

F1.9 1/640秒 ISO100 STD
背景に広がる穏やかなさざ波のグラデーションが幻想的に表現できました。
右上の木漏れ日が輪郭の強調された玉ボケとして重なり合い、泡立つよう感じに。
先ほど油絵のようと言いましたが、こちらは花が背景から浮き上がり過ぎず、日本画のような平面性を感じさせます。

F2.8 1/4000秒 ISO100 STD
一見紅葉のように見えますが、こちらは元から葉の赤い品種です。
逆光によるフレアと玉ボケが盛大に出ました。 また周辺部に渦を巻くような収差も。
オールドレンズらしい描写ですが、ピント合焦面の葉が滲みながらもしっかり細部まで輪郭を表しています。
グラデーション豊かな色味と合わせ、およそ90年前のレンズ設計とは思えない表現力です。
2. 白昼夢のような情景を
ヘクトール L73mm F1.9レンズの描写の特徴でもある「滲み」。
特にこの時期の強い日差しの下ではそれが如実に現れました。

F2.8 1/1250秒 ISO100 STD
白い日傘や服だけでなく画面全体に滲みが感じられ、何かミニチュアのような描写に。
まるで白昼夢の世界にいるような錯覚を起こさせます。

F1.9 1/2000秒 ISO100 ETN
こちらは、Leica Looksの「Leica Eternal」を選択。
青空と緑のコントラストが強調され、舞台のセットのような雰囲気に。
その中、中央に佇むサギの白が滲み、非現実的な世界をより強く感じさせます。

F1.9 1/1250秒 ISO100 BLE
ところ変わって東京駅周辺の写真。
ヘクトール特有のソフトフォーカスのような優しい空気感が画面全体を包み込んでいます。
「Leica Bleach」で彩度を抑えたこともあり、少年の帽子の赤も強調されすぎず、ノスタルジックな夏の1コマとなりました。

F4 1/400秒 ISO100 CLS
柔らかな緑のグラデーションと落ち着いた木肌のトーンが画面全体を優しい雰囲気に包みました。
見慣れたはずの日常の風景が、ヘクトールを通すことで柔らかな空気感に包まれた夢のような空間へと変わっていくのが分かります。
3. Leica Looksを駆使して、オールドレンズの新たな一面を

F5.6 1/320秒 ISO100 ETN
標準的なLookでは、これまでのような滲みが画面を覆っていただろうシーン。
「Leica Eternal」を選択することでコントラストが上がり、エッジが効いた写真になりました。
SL3の持つ優れたダイナミックレンジが、深い青から黒に近いシャドウ部までを潰すことなく、滑らかに描き切っています。

F8 1/320秒 ISO100 CLS
先のカエデの写真とは全く異なる印象に。
「Leica Classic」の選択でコントラストが上がり、目に刺さるような鮮やかさが加わりました。
絞りを絞ったことで、オールドレンズとは思えないくらい、葉の1枚1枚がシャープに再現されています。
それでも前景の黄色から中景の赤、遠景の緑は混ざることなく表現され、奥行き感を出してくれています。

F1.9 1/160秒 ISO100 BRS
「Leica Brass」により温かみのあるトーンに仕上がりました。
背景の眩しい木漏れ日はすべて丸い玉ボケになっていますが、色温度が変化したことで光の強さが薄れ、ノスタルジックな柔らかさを感じます。

F1.9 1/1000秒 ISO100 BW+NAT
最後はモノクロで。
ハイライトの滲みはカラーの時より自然な感じに抑えられています。
また色彩を排したことで、オールドレンズならではの階調の豊かさが強調され、石畳の有機的な質感がよりダイレクトに伝わってきます。
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最新の超高画素機にオールドレンズを合わせると、レンズの粗ばかりが目立つのではないかと思われるかもしれません。
確かにLeica SL3はヘクトールの持つ「収差」や「滲み」といった、現代のレンズから見たら欠点となる部分を忠実に再現します。
それが中途半端なものであれば、やはり粗として感じられてしまうことでしょう。
が、SL3の正確な再現性は、その欠点をレンズの個性として美しく魅力的に表してくれます。
また、SL3の多彩なLeica Looksを駆使すれば、これまでとは違ったヘクトールの表現性能を引き出すことも可能です。
今回の撮影で、ヘクトールが持つオールドレンズならではのポテンシャルを、最新のデジタル技術が完璧に支えていることを強く感じ取ることができました。
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