
マウントアダプターは他マウントのボディとレンズの仲介役を果たすモノですが、レンズの最短撮影距離をより短くすることのできるヘリコイド機構が付いているタイプもあります。 今回ご紹介するのはレンズ自体にピントを合わせる機能がないため、アダプターのヘリコイド機構を用いてピント合わせを行う、クローズフォーカスアダプター専用の特殊なVMマウントレンズになります。沈胴式のスタイルも相まって非常にコンパクト。しかしながら3群5枚の伝統的なレンズ構成を最新の光学技術で発展させたことで、描写の柔らかい心地よい写りが持ち味です。 少し風変わりなレンズ『Voigtlander HELIAR 40mm F2.8 VM』に『Voigtlander マウントアダプター ライカMレンズ/フジXボディ用』を装着し、『FUJIFILM X-Pro3』でスナップ撮影を行って参りました。その写真をご覧ください。


一身に陽を浴びているサボテンを見つけました。しっかりと光が当たっている部分は立体感が強調され、ピント部は棘の一本一本まで感じ取ることが出来ます。影になっている鉢など、シャドウ部も粘りを見せています。

ふと見つけたスリッパの群生地に「Velvia」のフィルムシミュレーションをあてることでビビットな描写に。鮮やかで深みのある青と雑多な被写体とのアンバランスさが面白く感じます。

「Velvia」に相応しい食べ物を考えた時、ハンバーガーはこの上ない選択に思えました。トマトの赤、チーズの黄色、レタスとアボカドの緑。それぞれの色味が引き出され、眼に美味しい写真となりました。もちろん、口でも満足です。


「Classic Chrome」のフィルムシミュレーションで覗く世界は、客観的感覚が強く感じます。いうなれば、本で読んでいる世界の話を思い描いた時の情景のような感覚。控えめな彩度と高コントラストな暗部の密やかさがこの空気感を作っています。


様々に試した中で、私が一番好ましく思い使っていたのが「Classic Neg.」のフィルムシミュレーション。メリハリの効いた写りと印象深く目に焼き付いてくるような色味、そしてただ暗いだけではない、彩りとしての黒。写真の主役は「光」ですが、今回の撮影時はその光によってもたらされる「影」の懐に潜り込むことこそが写真の面白さのような気がしたのです。


「ETERNA」はシネマ撮影で使われていたフィルムの名称。その特徴はダイナミックレンジの豊かさで、ハイライト部もシャドウ部も尖ることなく、実に柔らかく見せてくれます。暗がりの階段に灯る電灯の淡い光が安らぎを与えてくれます。


シャドウを見せたい写真を撮ろうとしたとき硬くなってしまいがちな描写を柔和にしてくれたり、フィルムシミュレーションを交えた写真の優しい写りと風情ある描写などは間違いなく『Voigtlander HELIAR 40mm F2.8 VM』の魅力でしょう。それに加えて、初めて『X-Pro3』を知った時、背面液晶がわざと見れないように作ってあるなんてデジタルカメラの長所を活かせていないんじゃないか?と疑問に思いました。しかし、MFのレンズを携えて撮影を行ったことで全てのイメージが覆りました。被写体を見つめ、じっくりとピントを合わせてシャッターを切ったその一枚目の写真は、そのあと何枚似たような構図で撮ろうとも最初の感動を追い越すことはありません。写真を見返すことが出来ないのではなく、「見返す必要がない」とまで思わせるのです。マウントアダプターの世界に正解はきっとありません。しかし、自分の感性に「合っている」と感じることが出来た今回の組み合わせ。次はどんな写真と出逢うことが出来るでしょうか。
Photo by MAP CAMERA Staff