『LUMIX DC-S1R』でCarl Zeissレンズを撮る:CONTAX Planar T*50mm F1.4 MM
2021年02月16日
「50mm 単焦点」というレンズは、カメラを愛好していくうえで欠かすことのできない標準レンズと呼ばれるもの。アルトサクソフォン奏者がSELMER S90 180を選ぶように、トランペット奏者がvincent Bach 5Cや7Cを選ぶように、定番とされている物をじっくり味わうことでその物事の本質的魅力を見つけ、そこから自分のスタイルに合わせた機材を選んでいく基準にもなるモノです。
今回ご紹介するのはそんな50mmのなかでも「標準レンズの帝王」と呼ぶにふさわしい銘玉『CONTAX Planar T*50mm F1.4 MM』です。
「ヤシコン」という愛称は聞いた事がある方も多いはず。コンタックスの歴史は紐解いていくと壮大な文章になってしまいます。掻い摘んでいくと、元々ドイツの「ツァイス・イコン社」が製造していたレンジファインダー機のブランド、およびそのカメラのモデル名として付けられたのが「Contax」でした。その後、ツァイス・イコンがカメラ事業を撤退したことで長野県に居を構えていたカメラメーカー「ヤシカ」とカール・ツァイスはライセンス契約を結びます。両社の共同事業として「CONTAX」は復活しました。2つのコンタックスを区別するため、ヤシカが製造した方を「ヤシカ・コンタックス」と呼んでいる訳です。
2005年に事業終了を発表するまで、沢山の優れたカメラやレンズが生産されました。
最近ではミラーレス一眼の興隆により、マウントアダプターを使うことで最新のボディでこれらのレンズを愉しむことが出来るのですが、その中でも未だに高い人気を博すのがプラナーです。
その写りは年代によっても若干異なりますが、柔らかながら一本芯の通った描写、味のある開放から絞っていくほどに鋭く表情を変えていく様。
今回はボディに『Panasonic LUMIX DC-S1R』を使いたく、先日発売となり目を付けていた『RAYQUAL マウントアダプター ヤシカコンタックスレンズ/ライカSL・TLボディ用』を用意。
撮影前から楽しみで仕方のない組み合わせ、早速その実写をご覧ください。
少し足を延ばして、週末の公園へ赴きました。来た人を見守るように中央に鎮座する時計。普遍的な存在感に惹かれ、相対するような気持でじっくりフォーカスを合わせました。浮き出るような、何とも言えない立体感です。
公園の水上に浮かぶような東屋。風の強い一日でしたが、僅かに収まった瞬間を待って待って…湖面がやや落ち着いたところでシャッターを切りました。鏡のようにキリッと反射した姿が美しいのです。
『CONTAX Planar T*50mm F1.4 MM』を開放で使うには少し集中力がいります。掴みづらい訳ではありませんが、非常に薄いピント面です。この時ばかりは息をすることも忘れてしまいます。画の中央、枝の節にそっとピントを「置いてくる」ようなイメージでしょうか。とろけるようなボケを沢山出したくなり、少し遊び心を忍ばせました。
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絞りをF8に合わせます。心地良いクリック感は絞りの正確さにもつながります。並び立つ瓶の1個1個のラベルが読めるほど解像しています。ガラスと金属の質感の差が、モノクロにすることでリアリティを伴って伝わってきます。
線路脇の路地には影が落ち、狭く伸びていきます。そのまま視線を上げると、青空と夕日の燃える作業クレーンの色の融合が美しい。夕方のドラマチックな空気感をそのまま描き出すプラナーの魔力に惚れ惚れとする1枚です。
開放から1,2段絞ったところがそのレンズの実力を一番発揮できるところと聞きますが、F2.8の圧倒的立体感にはため息すら出てしまいます。浮かび上がるようなバイクのシルエット、ISO感度を500まで上げたので高感度ノイズが心配でしたが、全く問題なくディティールを確認することが出来ます。
これほどまでに「長く使いたい」と思わせるレンズに出会えたのはいつぶりでしょうか。伝統的なレンズ構成、奇をてらわないデザイン。発売当時、あらゆるレンズの基準となったのも頷ける素養の高さ。マニュアルフォーカスというと撮影ハードルが高く感じる事もあるかもしれません。しかし『LUMIX DC-S1R』という心強い相棒を得たことで、被写体を決め、画角を模索し、じっくりとピントを合わせて、シャッターを切る、というルーティーンが愛おしくなるのです。標準であるがゆえにその表現は撮影者によって千差万別。是非、アナタだけの一枚を目指してみては。
Photo by MAP CAMERA Staff