フォクトレンダーからアポクロマート設計の新レンズ『Voigtlander APO-LANTHAR 50mm F3.5 VM』が登場しました。開放F値をF3.5にしたことで、より小型化されたレンズはM型ライカ以外でもマウントアダプターを介して様々なミラーレスカメラで使いたくなるレンズです。しかも外観デザインとカラーがそれぞれ2種づつの計4種類がラインナップ。スペック的にもそれぞれ違いがあり、普段以上に目移りしてしまう商品です。先にKasyapa for LEICAで 「Type II」のPhoto Previewを紹介させていただきましたが、「Type I」をマウントアダプターを使用して「Nikon Z8」でも撮影してきましたので、その写りもご覧ください。
メーカーの商品説明欄に「Mマウントカメラ用センサーに最適化していることからマウントアダプターを使用して他のミラーレスカメラで使用すると本来の光学性能は発揮できない」という旨の記載があります。これまで多くのライカマウントのレンズを登場させてきたメーカーですが、私の記憶ではここまで明確なアナウンスがされたのは今回が初めてで、見た目で画質の低下が感じられたら…という不安が頭を過ぎりましたが、実際に描き出された画を見た瞬間にその不安は消え去ります。クラシカルなデザインからは想像もできない、開放からシャープで色のりの良い写りを見せてくれました。
流石は、軸上色収差をはじめとする各種の収差を徹底的に排除するとともに解像力やコントラスト再現性に関しても究極の性能を追求しているアポクロマート設計だけあります。
今回使用した「Type I マットブラックペイント」はリリースされた4種類の中で最も軽く、その重さは僅か150gです。この軽量さは大きな魅力で、持ち運びに大変便利です。
縮まない沈胴スタイルのレンズはとてもコンパクトでくびれの部分も細く作られていますが、ピントリングには指掛かりの良い波形の凹凸が施されるなど操作性にも優れていました。
港町の一角にある水族館の外壁に飾られていた蟹のオブジェ。夏休みシーズンということもあり、周囲は混雑していましたが、バッグからサッと取り出せるコンパクトさのおかげで、スムーズに撮影ができました。
そして肝心のピント合わせも、ニコン機のファインダーはとても見やすく、ファインダー像の拡大も自由自在。自身が未熟なのもありますが、ライカ機でピント合わせをするより何倍もスムーズです。
開放F値が抑えられたレンズですが、被写体までの距離次第では綺麗で大きなボケを楽しむことができます。前ボケ、後ボケともに自然で癖のないボケ味で、視線の誘導も自由自在といった感じです。
Type IIは35cm。Type Iでも45cmまでの近接撮影が可能です。そしてヘリコイド付きアダプターを使用すれば、さらに寄ることができます。和菓子の木型を見つけたので限界まで寄ってみました。感覚的にはレンズの前玉から15cm位でしょうか。細かい鱗の模様はもちろん、木目や質感までクッキリ。マクロレンズばりの近接能力に驚きます。レンズ本来の域を超えたピント合わせでもこの解像力ですから、本レンズの基本性能の高さが伺えます。
オールドレンズやクラシカルなレンズを使用すると、歴史ある被写体が撮りたくなってしまう筆者。今回は明治時代に建てられた皇室ゆかりの地を訪れました。
表面が波打ちした窓ガラス。建築当時のものを復元すべく、ドイツから手づくりのガラスを取り寄せているとのこと。そんな貴重なアイテムの質感を詳細に捉えることができました。公式YouTubeでの紹介にもあったとおり、艶やかな被写体の切り取りが本当に上手です。
これまで多くの古い邸宅を訪れてきましたが、それらと比べてとても質素な造りであることに驚きます。御紋入りの玉座などが残されていなければ宮廷の建物とは思えません。照明も古いものが残されており、日中でも室内は薄暗く感じます。
絞り開放でも表示されたシャッタースピードは1/10秒。 ISOを上げてシャッタースピードを確保すべきか悩む数値でしたが、ここではカメラの手ブレ補正機能を信じてそのままシャッターを切りました。握りやすいカメラグリップに加え、レンズの軽量さもあって、低速シャッターでも安定した撮影が可能です。結果、椅子の革の質感やテーブルの光沢など綺麗に再現してくれました。
歴史と格式の高さを感じさせる大きな松の木の細い葉、1本1本までしっかり捉えています。そして影になっている部分の木肌の細かな模様まで。カメラの性能の高さもありますが、その精細感をしっかり引き出しているレンズの性能も大したものです。これでいて本来の性能を引き出せていないと言うのですから、レンズのポテンシャルは相当のものです。
庭では多くの植物を見るとこができました。ファインダー越しで近接ギリギリの操作に夢中になっていると風で揺れた花と接触しそうになりました。本来なら保護フィルターを用意すべきなのですが、 コンパクトな Type I レンズのフィルター径は34mmと少し特殊サイズになっており、入手しづらいという難点が。レンズ保護という意味でも付属のフードは手放せません。
ピント面を詳細に捉えてくれるのでボケの大きさが余計に際立ちます。
吹寄せる強い風と薄く広がる雲。この後の天候が不安になったその時の情景をしっかり残してくれました。近接から遠景までシーンを選ばず、常に見たままの風景をそのまま切り取ってくれます。小さな外観からは想像もつかない頼もしさが詰まったレンズです。
コンパクトに収まった沈胴風デザインのレンズは、フルサイズミラーレス一眼カメラに装着するとよりコンパクトに見えます。しかしその中身は6群8枚のレンズ構成中その半数に異常部分分散ガラスを使用したという贅沢な作りになっています。
妥協のない光学性能は、まさに「APO-LANTHAR(アポランター)」の名に相応しい仕上がりです。拡大しても見出せない本当に僅かな揺らぎも許したくないというメーカーの拘りが冒頭の「本来の光学性能は発揮できない」に繋がるのではないかと想像させました。質感や操作感にも優れ所有する悦びを提供するレンズはカメラを選びません。ぜひお試しください。