

使用機材:SONY α7III + SHOTEN マウントアダプター ライカMレンズ/ソニーEボディ用 ヘリコイド付き LM-SE M II + Light lens lab M 50mm F2 周エルカン
ライカの長い歴史の中でも、軍用ライカ向けに少数だけ生産された希少なレンズ「50mm F2」ほど、愛好家の探究心を煽る存在はないかもしれません。その伝説的な光学設計を解き明かし、現代に復刻させたのが中国の投資家・周氏です。今回は周氏によるシリーズ2作目。前作「M 35mm F2 周八枚」と同様にその再現性の高さに唸ります。『Light lens lab M 50mm F2 周エルカン』は、愛好家からは「周エルカン」という愛称で呼ばれているのです。
周氏が心血を注いだこのレンズは、単なる外観の模倣に留まりません。4群4枚という極めてシンプルな構成が生む、中央の鋭い解像感と周辺のドラマチックな収差。オリジナルが数百万という高値で取引され、実用が困難な「幻」となった今、その写りの真髄を私たちの手元に手繰り寄せた功績は計り知れません。
今回はこの希少な復刻レンズを、あえてMマウントボディではなく、ソニー「α7III」に装着して持ち出しました。ヘリコイド付きマウントアダプターを介することで、本来の最短撮影距離という制約を飛び越え、軍用設計のレンズが持つさらなる「凄み」に迫れるのではないかと考えたからです。オールドレンズの設計思想と、現代のデジタルセンサーが共鳴して生まれる唯一無二の描写。その可能性を、今回撮影した作例とともに紐解いていきます。

使用機材:SONY α7III + SHOTEN マウントアダプター ライカMレンズ/ソニーEボディ用 ヘリコイド付き LM-SE M II + Light lens lab M 50mm F2 周エルカン
春節の活気に沸く横浜で見つけた、鮮やかなドラゴンの意匠。特筆すべきは、このレンズの核である4群4枚というストイックな光学構成です。全てのレンズが独立して光を導くこの設計は、現代の多枚数レンズにはない圧倒的なヌケの良さをもたらします。青空と赤という原色同士のぶつかり合いを、濁ることなく、かつての軍用レンズのような鋭さで定着させる。マウントアダプターを介してこの稀有な設計を現代に蘇らせるからこそ得られる、唯一無二の描写です。

使用機材:SONY α7III + SHOTEN マウントアダプター ライカMレンズ/ソニーEボディ用 ヘリコイド付き LM-SE M II + Light lens lab M 50mm F2 周エルカン
逆光気味に透けるお酒の瓶。透明なガラスを通り抜ける光の質感は、このレンズのヌケの良さを証明する絶好の被写体です。 「α7III」のセンサーが捉える豊かな階調は、瓶の厚みや液体の密度を克明に再現します。マウントアダプターという「遊び」を挟むことで、最新レンズのような均一すぎる描写ではなく、どこか湿度を感じさせる情緒的な表現に仕上がりました。

使用機材:SONY α7III + SHOTEN マウントアダプター ライカMレンズ/ソニーEボディ用 ヘリコイド付き LM-SE M II + Light lens lab M 50mm F2 周エルカン
レンガの赤茶、葉の緑、そしてプレートの白い文字。日常の穏やかな空気感をスナップしました。マニュアルフォーカスで、手前のレンガの質感とプレートの文字にじっくりとピントを追い込む作業。オートフォーカスに頼り切らない撮影スタイルは、こうした何気ない風景の中にある「ストーリー」に気づかせてくれます。アダプターのリングを回すその一瞬の「間」が、写真に深みを与えてくれるようです。

使用機材:SONY α7III + SHOTEN マウントアダプター ライカMレンズ/ソニーEボディ用 ヘリコイド付き LM-SE M II + Light lens lab M 50mm F2 周エルカン
かつてピアノを習っていた頃の記憶が蘇ります。初めてペダルに足が届いた時の高揚感を思い出し、鍵盤ではなくあえて足元を主役に据えました。 前ボケにした鍵盤の柔らかさと、ピントを合わせたペダルの金属光沢。この描き分けの妙こそが「周エルカン」の真骨頂です。ミラーレス一眼のピーキング機能を活用すれば、こうした変則的な構図でも意図した場所に確実に芯を置くことができます。

使用機材:SONY α7III + SHOTEN マウントアダプター ライカMレンズ/ソニーEボディ用 ヘリコイド付き LM-SE M II + Light lens lab M 50mm F2 周エルカン
旅情を誘う船首の造形。ここで威力を発揮したのが、ヘリコイド付きマウントアダプターです。 レンジファインダー用である本レンズの最短撮影距離は本来0.7m。しかし、アダプター側のヘリコイドを繰り出すことで、その限界を超えてさらに一歩、船のディテールへ踏み込むことができます。迫りくるような迫力は、アダプターという「拡張機能」があってこそ実現した一枚です。

使用機材:SONY α7III + SHOTEN マウントアダプター ライカMレンズ/ソニーEボディ用 ヘリコイド付き LM-SE M II + Light lens lab M 50mm F2 周エルカン
八角形のテーブルを囲む、静謐な時間。手前、中央、奥へと続くレイヤーが、写真に奥行きを生んでいます。こうした古い洋館の記録には、その時代の空気感を知る復刻レンズがよく似合います。最新レンズでは描きすぎてしまうかもしれない影の部分も、このレンズは適度な粘りを持って「静寂」として描き出してくれました。

使用機材:SONY α7III + SHOTEN マウントアダプター ライカMレンズ/ソニーEボディ用 ヘリコイド付き LM-SE M II + Light lens lab M 50mm F2 周エルカン
曇りガラス越しに降り注ぐ柔らかな光と、レトロな電灯の佇まい。レンズ内部の空気層が多い4群4枚という独特な構成は、こうした光源に対しても非常に素直で、かつ透明感のある反応を見せます。

使用機材:SONY α7III + SHOTEN マウントアダプター ライカMレンズ/ソニーEボディ用 ヘリコイド付き LM-SE M II + Light lens lab M 50mm F2 周エルカン
露出をアンダーに振り、床に落ちた色彩の映り込みを狙いました。 ステンドグラスの複雑な色合いを濁らせることなく定着させる力。そして闇の中に消えていく手すりのシルエット。マウントアダプターを介して、あえてデジタル一眼の露出補正と古い光学設計をぶつける。その結果得られたのは、まるで教会の祭壇を眺めているような、厳かな色彩でした。

使用機材:SONY α7III + SHOTEN マウントアダプター ライカMレンズ/ソニーEボディ用 ヘリコイド付き LM-SE M II + Light lens lab M 50mm F2 周エルカン
広大な階段を登る二人。斜め上からの構図で、空間の広がりと複雑な階段のテクスチャを意識しました。周辺に向かって緩やかに落ちていく光量が、二人へと自然に視線を誘導します。デジタル補正で消し去ることもできる「癖」を、そのまま活かす。これもまた、マウントアダプターを介して「味」を愉しむ人の共通の特権です。

使用機材:SONY α7III + SHOTEN マウントアダプター ライカMレンズ/ソニーEボディ用 ヘリコイド付き LM-SE M II + Light lens lab M 50mm F2 周エルカン
強烈な逆光下、人はシルエットとなり、世界は白く光り輝きます。 オールドレンズに近い設計のレンズにとって、こうした過酷な光線状態は大きな挑戦ですが、周エルカンは見事な耐性を見せました。海面の照り返しの眩しさはそのままに、ビル群のディテールも失わない。マウントアダプターを通じて『α7III』のダイナミックレンジの広さを改めて実感した瞬間でした。

使用機材:SONY α7III + SHOTEN マウントアダプター ライカMレンズ/ソニーEボディ用 ヘリコイド付き LM-SE M II + Light lens lab M 50mm F2 周エルカン
金属の天井に並ぶライトを、ぐっと絞り込んで捉えました。現れたのは、四つの鮮やかな光条——「黄色いウニ」です。絞り羽根の形状がダイレクトに反映されるこの表現は、最新の円形絞りではなかなか味わえないクラシックな美しさ。意図的に絞り込み、光をコントロールする楽しさを再確認させてくれる描写です。

使用機材:SONY α7III + SHOTEN マウントアダプター ライカMレンズ/ソニーEボディ用 ヘリコイド付き LM-SE M II + Light lens lab M 50mm F2 周エルカン
夜のイルミネーションを予感させる、LEDライトの玉ボケを手前に配します。ここでもヘリコイド付きマウントアダプターによる「近接」が活きています。被写体に寄ることで、背景や手前のボケはより大きく、円やかに溶けていきます。レンズ本来のスペックを超えた表現を、アダプターというパーツひとつで手に入れる。これこそが、ライカM用レンズをミラーレスで使う最大の愉悦ではないでしょうか。

歴史の波間に消えていった伝説や、数少ない古写真の中にだけ存在した「幻」に触れるとき、私たちはどこか遠い世界の話としてそれを受け止めてしまいがちです。しかし、こうして実際に手に取ることができる「形」として復刻されたレンズを前にすると、止まっていた時間が再び動き出すかのような感覚に包まれます。「周エルカン」を携えて歩く時間は、もはや過去を懐かしむためのものではありません。かつて軍用として極限まで削ぎ落とされた設計思想が、現代の「α7III」のセンサーを通じて、今この瞬間の景色を鮮烈に切り取っていく。そこには、知識として知っていた歴史を超えた、手触りのあるリアリティが宿っています。確かに、ここにあるのです。
鏡筒に刻まれた緻密なローレットや、指先に伝わるひんやりとした確かな重み。このレンズの外観に込められた徹底的なこだわりは、所有する悦びを通り越し、往年の名設計者が追い求めた理想の光をそのまま手渡されたような高揚感を与えてくれます。そしてシャッターを切れば、現代のレンズでは決して味わえない「あの時代」の空気が、写真の中に静かに満ちていくのを感じるはずです。マウントアダプターという架け橋によって、古い光学の知恵と現代のテクノロジーを繋ぎ合わせ、新しい景色を創造する。そんな贅沢な試みを、ぜひ「α7III」でも愉しんでみてください。ただ写すだけではない、写真という表現の奥深さを、このレンズが改めて教えてくれるはずです。
Photo by MAP CAMERA Staff




