数々の銘玉を生み出してきた「M42マウント」。構造やボディへの取付方法がシンプルという大きなメリットもあり、各国で採用される「ユニバーサルマウント」としての歴史があります。M42マウント対応のボディならばどのメーカーのレンズでも互換性がある、というのは様々なレンズマウントやそれに対応するマウントアダプターで溢れている現在において潔さ、もしくはある種の奔放さすらも感じられるほどです。
今回使用した『Meyer Optik Gorlitz Primoplan 75mm F1.9 II』は絞り開放で個性的なボケ味を楽しめる一品。冒頭のカットでも顕著に現れていますが、単に被写体を立体的に浮き上がらせるだけではなく大胆ながらに洗練されたボケ味が写真をスタイリッシュに彩ってくれます。このレンズを受け止めるボディには新しい時代を切り開き、写真と映像の可能性を広げ続ける『Leica SL2-S』を選びました。
かつて「ユニバーサルマウント」として名を馳せたM42マウントのレンズをマウントアダプターを介して使用する。何とも逆説的で面白いものです。
印象深いボケ味を堪能できるレンズですが、写し出される描写も卓越したものがあります。終焉としてのイメージが強いドライフラワーですが、上質なグラデーション、色乗り、艶から再び生命を帯びているかのようにも思えました。淡くほのかな光は繊細さを生み出すシチュエーションとして理想的です。
中望遠レンズの素敵なところの一つに、ファインダーを覗いた段階で目の前の光景がある程度整理されている点があります。75mmという焦点距離は切りとりたい被写体だけに集中できるイメージ。テンポよく撮影ができるのでシャッターを押す回数と歩く距離も必然的に増えていきます。
窓と言えば四角形をイメージしますが、丸形の窓も中々にお洒落に見えます。大正時代に建てられた洋館の一室なのですが和洋組み合わさったデザインの組み方は今見ても新鮮。何事にも固定観念があると「~であるべき」という考え方に終始してしまいがちですが、いつもとは違う見方をすることで凝り固まった考え方を崩してくれるようです。これはデザインだけではなく、ライフスタイルにも通じることなのかもしれません。
中庭でゆうゆうと泳いでいた鯉。レンズを向けると写真を撮る前に餌をくれと言わんばかりアピールをしてきます。落ち着きなく泳ぎ回るので水面や反射する太陽の光が頻繁に動き、写真に勢いを加えてくれました。
強い陽射しの中で明暗差がはっきりと出た写真はそれだけで劇的に見えるもの。それが神聖な場所ならばなおのことです。光と影は表裏一体、もしくは相反するものとは良く聞きますが、その性質に多くの人が魅かれてきたのは事実。シンプルだけど複雑、かつ奥深いものへ人々はこれからも魅了され続けるのだと思います。
『Meyer Optik Gorlitz Primoplan 75mm F1.9 II』と『Leica SL2-S』の組み合わせの堂々たる佇まいは最初に所有欲を満たします。レンズもボディも同じ国のメーカーということもあり相性が良いこともあるのかもしれませんが、扱いやすく、写し出す描写にはときおり甘美さすらも漂わせることがありました。太陽の刻々と変化する光に反応しその時々でベストな写真を写し出してくれる。今回の組み合わせはそのように感じました。それは機材の仕様書に並ぶ数字を飛び越えて、「写真を撮ることは楽しい」という根源的な気持ちを湧きたたせる程に強烈なもの。今回の撮影を通じてそのように思いました。