マップカメラ店長がカメラについてアレコレ語る『極私的カメラうんちく』

第5回:世界最小の一眼レフ

ペンタックスオート110(ワンテン)というカメラがある。

 発売から25年間に渡って世界最小の座を不動のものにしている超小型一眼レフである。単に小さいだけではなく、6本の交換レンズ群や各種アクセサリー、ワインダーといった本格的なシステム展開もされており、それでいながらまさに手のひらサイズ、現行の小型軽量フィルム一眼レフと比べても見た目半分以下の大きさである。例えるなら販売当時はスパイカメラとして海外の映画にも登場するほどだった。そして普段見慣れた35mm判一眼レフの形がそのまま相似形で小さくなった姿は思わず笑ってしまうほどユーモラスであり、逆に相似形で巨大化し通称「化けペン」の名で親しまれる同社の6×7判一眼レフと対称的な存在である。僅差の同列種が乱立し、ハナ差の世界最小が多い中、オート110は比較や説明の必要が無いほど判り易い世界最小の一例と言えるが、残念ながら二代目「オート110 Super」を最後に絶版となってしまった。

 もちろんオート110が小さく造れた理由のひとつは110という35㍉判に比較して1/4ほどしかない小さなフィルムサイズにある。しかしこれが単純な種明かしではない証拠として、構造的に複雑であるはずのレンズ交換式システム一眼レフでありながら、むしろ単純な形式で設計された同世代の110カメラよりも小さく作られていることが挙げられる。そこには単なるフィルムサイズによるアドバンテージを超えた、「小さくするため」の相当なアプローチがあったと見るべきである。

 まずシャッターの構造に注目したい。オート110はレンズ交換式一眼レフだから本来ならフォーカルプレンシャッターの採用が望ましい。しかしFPシャッターユニットを内蔵することはボディサイズを大型化し、内部構造を圧迫する原因となる。かといって交換レンズ側にシャッターを設ければ今度はレンズが大型/複雑化する。そこでオート110はミラーの直前にレンズシャッターを配置し、さらにフィルム面の遮光を確実に確保するためミラーを遮光幕として利用した。ミラーの遮光幕は中判カメラにもよく見られる構造だが、オート110は一眼レフに不可欠なミラーを遮光幕としても利用することにより超小型を実現している。

 また操作部品を出来るだけ省くためにプログラムAEを採用したが、ここにも小型化のアイデアが詰まっている。通常、レンズ交換式一眼レフがプログラムAEを実用化する上ではまずレンズとカメラボディの周到な連動機構が必要になる。TTL開放測光はレンズの開放F値を予めボディ側に伝達しておく仕組みが必要であり、プログラムAEのためにはボディ側から絞りを制御するための特別な仕組みが必要である。そのため35㍉判一眼レフには開放測光やプログラムAEが搭載されるごとに数々の連動ピンが増設され、最終的には自社製品同士の互換性にすら影響する結果となった。しかしオート110の場合は交換レンズ群の開放F値を規格設計段階で全てF2.8に統一し、さらに絞りの機能をボディに内蔵したレンズシャッターに持たせることで、当時最先端だったプログラムAEを可能にしながらも交換レンズとカメラボディの大幅な簡略化と小型化に成功している。

 超小型と並んでオート110もうひとつの特長はそのボディサイズに逆比例する大きなファインダー倍率である。一般にはファインダー倍率が高い方がピント合わせはやりやすい。しかし倍率を上げるとファインダー回りの部品やスペースが大きくなるため、AF化以降はカメラを小型化するため低めに設計されることが多くなった。

 110はフィルム面積が35㍉判の1/4ほどしかないため、理論上同じ見え方をするためには35㍉判に比較して相対的に2倍ほど高いファインダー倍率が求められる。ところがオート110の小さなファインダーをのぞくとそのフィルムサイズからは信じられないほど大きなファインダー映像が飛び込んでくる。開放F2.8の交換レンズとあいまってその見え味はMF35㍉判一眼レフと比較しても全く遜色無い。

 機能が合理的でシンプルであることは様々な利点をもたらす。そこへ至るまで設計者には「割り切り」と「欲張り」の高度なバランスが要求されるが、劇的な小型化を前提にするときバランス感覚とは決して中途半端な妥協点を探ることでは無い。オート110は比類の無い超小型化と豊富なシステム展開を見事に両立した一方で、露出制御は唯一プログラムAEのみ、また交換レンズの開放F値を全て2.8に設計しなければならない制約も背負った。しかし当時誰も予測しなかった超小型システム一眼レフという新たな需要をマーケットに提案しそして成功した意味でオート110の功績は大きく、だからこそファンもいまだに絶えることが無い。機能の数を減らしても卓越した独創性はそれ自体が十分な需要を生み出す力を持っている格好の証明である。

 オート110が生産中止になった最大の理由はフィルム規格の衰退であり、35mm判と比べてどうしても見劣りするプリント画質である。しかしこれがもしデジタルであれば110フィルムとほぼ同じ大きさを持つフォーサーズ4/3インチCCDは現在800万画素を達成している。画質に対する不安は全く無く、もしオート110に匹敵する超小型システムカメラがデジタルで蘇るとしたらこれほど楽しみなことは無い。妥協することなく必要な機能と小型化のバランスを正しく見極め、そこに卓越した独創性があれば現在の技術でも十分に実現可能だろうと思われる。そしてオート110の最小記録を塗り替えるカメラこそ間違いなくその後数十年語り継がれるものとなるだろう。

written by ストロベリー小野
この記事のカテゴリーは『極私的カメラうんちく』です | 2005年05月20日

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