初めてその情報を聞いた時には驚きました、”DP3 Merrill”。35mm換算で75mmの中望遠レンズの搭載で、どちらかと言えば広角を想像していた筆者としては驚く仕様。中望遠・単焦点オンリーのコンパクトデジタルと言う他に類を見ない1台の発表でした。 その想像を絶する描写と使いこなしの難しさを併せ持つ”Merrill”シリーズだけに、その使い勝手はどうなのか。一抹の不安を感じつつ撮影に挑んできました。
しかし、結論から言うとその心配はいらない。それどころかむしろ非常に使いやすい1台と言って良さそうです。75mmでF2.8の大口径、その最短撮影距離も22.6cmとマクロ域まで寄れ、被写体を注視する様な自然な圧縮感はフレーミングに確実に自由度を与えてくれます。レンズの描写も申し分無く、被写体の乾いた印象まで実によく写しとってくれています。
眼を開けていられないほどの逆光でしたが、フレアも出ずその描写は実に優秀。他カットでは日中開放でもどんどん使っていますが、周辺までしっかりシャープながらボケも素直。良いレンズです。暗部のディテールもしっかりと拾ってくれているのはアンダー目の露出でも心強いですね。
やや緑めいた海の水。波打ちの泡と、僅かに見える岸壁と、夕暮れの斜陽が美しい色彩を描いています。この解像感は、一度目にしてしまうと忘れられないFOVEONセンサーならではのものと言えるでしょう。
撮影レンズの焦点距離は印象として、広角であればあるほどダイナミックに熱っぽく、望遠域になるに従い静謐さと撮影者の世界観を投影しやすくなる様です。75mmの画角は技法的には”背景整理がしやすく被写体を強調しやすい”のですが、作者の思いを込めやすい絶妙の焦点距離とも言えるでしょう。
しかし、”DP Merrill”シリーズで撮影していると「こんなにも複雑な光や色がそこにあったのか!」と驚く事が少なくありません。使い込まれた工業機械の、その表面に散る光も実に美しいのです。”SIGMA DP3 Merrill”はじっくりと被写体と向き合う時間を与えてくれます。
前ボケも素直、せっかく明るい中望遠レンズを搭載したのですから、美しいボケも十分に楽しんで撮影したいものです。
マクロ、最短域での撮影です。しかしこの滑らかにトロリとした水面の表現と、深みのある色再現は文句のつけようがありません。水面に水の粒が浮かんで、その中に外の景色がまた描かれているのまで、ご覧頂けますでしょうか?3台目の”Merrill”として、SIGMAさんが中望遠マクロを選んだのも頷ける気がします。こちらのカットのみ、元画像の半分のサイズで掲載してあります。かなり重いですが、その緻密な描写をぜひご覧下さい。
スナップ撮影をしていると、寄って撮りたい時も遠くを撮りたいときもランダムに生じます。そんな時活用して頂きたいのは”AFリミットモード”。もちろんマニュアルでも撮影できますが、リミットモードでAFのレンジを決めるだけでピント精度とスピードは確実に早く・正確になります。動作のテンポが悪いと撮影のペースも乱れてしまいますが、今回の試写でも実に気持ちよく撮影に打ち込む事が出来ました。
それぞれの被写体が、それぞれの経てきた時間を語る様な、そんな静かな時間の流れまで描き出してくれる様です。
レンズの外観が少々大柄になっただけで、基本的なデザインは他の”DP Merrill”シリーズと変化はありません。当初の印象と異なり、かなり使いやすいボディに仕上がっている印象です。マクロで、ボケを生かして、少し長めの標準レンズといった使い方が出来るのがその使い良さのポイントでしょう。 人それぞれ好みの焦点距離というのは違いますが、望遠域、マクロ域が好みの方にはぜひともお勧めしたいボディです。
3つの焦点距離が揃った”DP Merrill”シリーズ。FOVEONセンサーの超絶の描写を備え、写真に向き合う。これほど贅沢なカメラはありません。
『SIGMA DP2 Merrill』のフォトプレビューはこちら>>
『SIGMA DP1 Merrill』のフォトプレビューはこちら>>
Photo by MAP CAMERA Staff