『sd Quattro H』を初めて試したのが、もう太陽がビルの陰に隠れて薄暗くなってきた時間帯。私が居た場所は完全な日陰、正面のビルにはまだ柔らかく光が当たっています。「どれ、試しに。」くらいの気持ちで撮影したのですが、撮れた写真に思わず一人興奮してしまいました。光の拾い方が他のカメラと全然違う、そして3D画像を見ているような錯覚すらおぼえる描写に「コレ・・・すげーな、なんだコレ。」と、よくわからない言葉を一人口ずさみました。
センサーの解像度ってなんぞやという話になると、専門的な知識がないと語るのが難しいですが、この『sd Quattro H』で言える事は、世の中に出回っているカメラのセンサーと構造自体がそもそも違うという事です。メーカーサイトの言葉をそのまま使わせてもらうと、一般的なベイヤー式イメージセンサーに比べ、Quattroセンサーは2倍の解像情報がある、つまり『sd Quattro H』のFoveonセンサーで解像情報を取得しているトップ層・2550万画素の2倍、5100画素相当と同じ解像感が得られるという事になります。それに加えて「垂直色分離方式」という1画素で一つの色を再現できることなども特徴に挙げられますが、まぁ、センサーの違いは今まで様々なところで語られている話だと思いますので、今日はこのくらいにしておきましょう。
感覚的な言い方になってしまいますが、単純に写真を見て、「なんか今までのカメラと写真が違う」と思うところに本当の『sd Quattro H』の魅力があるのではないでしょうか。仮に5000万画素のベイヤー機で同じように写真を撮っても、『sd Quattro H』と同じ印象は受けないと思います。例えるのなら、ベイヤー機が立体感なら、『sd Quattro H』は前に飛び出してくる感、という印象ですかね。そのくらい写真から違いを感じられるはずです。
色表現は昔のFoveon機と比べると遥かに進化しました。言い方を変えるとベイヤー機のように使いやすくなったと言えばいいですかね。過去の機種を愛するユーザーからすれば「大人になって丸くなった」という印象かもしれません。
自分で撮っておいてなんですが、Kasyapaらしいカットですね。 『sd Quattro H』で撮影していて時折感じるのが「なんかCGっぽい」という感想。これはなぜだろうと考えたのですが、私の出した答えは「目で見る以上に写りすぎる」という事だと思います。普段我々が見ている世界はもっと曖昧というか、視界の端から端までミリ単位で物は見えていません。『sd Quattro H』の写真は全面において超解像しているが故に、「目で見えている世界と違う」と脳が思ってしまうのではと考えます。
「なんでカラーで撮れるのに白黒?」と言われそうですが、私は『sd Quattro H』に搭載されているFoveonセンサーはモノクローム現像した時にもう一つの魅力が開花するカメラだと思っています。それはローパスレスに加え、カラーフィルターの色補完という事が行われない分、1画素単位で被写体そのもののディテールとトーンを忠実に表現してくれるからです。この事はモノクローム専用センサーとほぼ同じ理屈なのですが、さらにFoveonセンサーは色情報も持っていますから、現像ソフトで行うカラーフィルター効果を細かに表現できるのも大きな利点になります。
注目度の高いレンズ、Art 85mm F1.4で撮る機会があったので今回はモノクロームで仕上げてみます。レンズの焦点距離は画角で換算1.3倍、焦点距離だと約110mmと、中望遠の色がさらに濃くなるのですが、撮影してみると思わず唸ってしまうような画が次々に現れてきました。切れとボケ味というと、いつもと同じになってしまいますが、フォーカスを合わせた看板のなんとも言えぬグレートーンの表現にはため息ものです。
なぜモノクロームが良いといわれているのか、同じ写真をカラーとモノクロームで見比べて感じたのは、グレートーンで表現されるモノクロームのほうが光の強弱が繊細に表現されているからだと思いました。開放から僅かに絞っただけですが等倍で見ても目盛りの線がくっきりと写っていて思わず声が漏れました。
何気なく娘を撮った一枚なので、何とも言えない表情ですね。最近はカメラを向けられるのにすっかり慣れてきてしまったみたいです。
ただこの「何気なく」ってとても大事な感覚だと思っていて、シャッターを切りたくなるカメラになったのは素晴らしいなと思います。というのは、AFの使い易さ(速度は別として)、液晶モニターの見易さがmerrill世代に較べれば格段に良くなりました。これはシグマのカメラを使っていた方なら分かっていただけるはずです。
ドアのガラス一枚越しのガラスのコップ。室内の明かりは点いておらず窓から射し込む光だけの一枚です。
Foveonの優れた質感描写。個人的にはかなり惚れ惚れしてしまう写りです。
dp・sdシリーズを使用する大きな理由として「高解像力」という事があると思います。確かに解像力に関しては同クラスの他機種比べても別格と言えるほどシャープに表現してくれるカメラです。しかも今回の『SIGMA sd Quattro H』はシグマ史上最も大きいセンサーを搭載していますから、拡大してもザラつかないといいますか、余裕のある画づくりが感じられますね。フルサイズ機でも見た事のないような超解像力の画を生み出してくれます。
しかし、本機の真の魅力といいますか、シグマ機を使う本当の理由は、写真に「このカメラじゃないと絶対に撮れない」と思わせてくれる凄みがあるからではないかと私は考えます。 シグマユーザーがよく口にする「万能ではないけど、当たると凄いよ」という言葉に、描写性能、難しさ、そしてカメラとしての面白さの全てが詰まっている気がします。
まだ陽が昇りたての早朝の時間帯。射し込む陽と陰の強弱をしっかり写してくれました。『SIGMA sd Quattro H』は色再現のバランスがいいですね。今までの機種だと赤の発色が強めな印象がありましたが、そのまま撮って出しでも十分使える画を出してくれます。
織り機を接写したのですが、細かな糸の描写がスゴイですね。『SIGMA sd Quattro H』は撮った後で驚くと言いますか、想像を超えた写真を生み出してくれるカメラです。シャッタースピードが物語っていますが、かなり薄暗い場所で撮りました。Quattroはとてもグリップしやすいボディになったと感じています。
細かな木目の解像などはFoveonの得意分野です。どうしてもこういう被写体を見ると、撮りたい衝動に駆られてしまいます。
朝日が昇るのを境内に繋がれていたワンコと一緒に眺めました。たまに凄く早起きするのもいいですね。もっと絞ってもいいかもしれませんが、開放でもこの解像感を味わえるのはたまりません。
空が真っ暗なうちにたどり着いて、途方もなく歩いていたらまだ穴場だという富士山が見えるスポットを教えていただきました。 これだけ離れた場所からでもハッキリと写ってくれることに驚きです。しかし、この日持っていたレンズは35mmのみだったので運が良いのか悪いのか。次回は望遠レンズも持参してリベンジしたいと思います。
超絶的な解像性能を持つ『SIGMA sd Quattro H』。超高画素機ながら、過去のシグマ機にあった「現像用の生データを撮影する」みたいな気難しさは無くなり、操作と撮影もかなり快適になりました。また、画像データもDNG形式のRAWで保存できるのも嬉しい進化ですね。画像容量が100Mを超えるデータになってしまいますが、他のカメラと一緒の現像ソフトでファイル管理ができるのはとても楽です。
今までのFoveon機も「孤高の存在」と言える存在でしたが、『SIGMA sd Quattro H』は言うならば「孤高の頂」。
使いやすくなったとは言え、独特の癖は健在です。撮影時にはベイヤー機以上にハイライトや暗部の露出に気をつけなくてはならず、白トビと暗部のザラつきと戦いながら、光を読む力が試されるカメラです。そして、サクサクとお手軽に撮れるミラーレス機ではありません。撮影から現像まで含めて、他のカメラより時間がかかると思いますし、慣れも必要になると思います。
しかし、このカメラの特性がうまくハマった写真が撮れた時は、きっと凄すぎて言葉を失いますよ。なんというか、『SIGMA sd Quattro H』を使う醍醐味はその瞬間のためにあると私は思います。
あとは、使いこなすか否か。 言い方を変えると、この癖を愛せるか、愛せないかですかね。
『SIGMA sd Quattro H』は、「なんでも撮れるカメラ」ではなく、「最高の一枚」を撮るために生まれてきた一台だと思います。
Photo by MAP CAMERA Staff
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