写真を撮っていて思うのが、レンズを通して写る世界は目で見る世界とは少し違うということ。それは、現実よりもリアリティな印象を受ける世界であったり、非現実的な美しさを持つ世界であったり、選ぶレンズや撮り方、そして撮影者の想いなどによって様々に写真表現が変化しますが、その中でも強烈な歪みによって目で見える世界とはまったく違う表現が可能なフィッシュアイ(魚眼)レンズと呼ばれているジャンルがあります。
今回ご紹介するのは、そんなフィッシュアイレンズの最新モデル『Nikon AF-S Fisheye NIKKOR 8-15mm F3.5-4.5E ED』、ニコン初となるフィッシュアイズームレンズになります。
Nikonのフルサイズ対応フィッシュアイといえば『Ai AF Fisheye-Nikkor 16mm F2.8D』というレンズがあります。小ぶりで明るい単焦点フィッシュアイレンズとして人気がありますが、その登場は今から24年前となる1993年。素晴らしいレンズではありますがライバルにフィッシュアイズームレンズが存在する中、ニコンファンは新たなレンズの登場を求めていたのも事実でしょう。その思いに応えるべく、満を持して『Nikon AF-S Fisheye NIKKOR 8-15mm F3.5-4.5E ED』が発売したのですが、最新の光学設計で円周魚眼から対角線魚眼まで撮れるだけでなく、高い透過率と逆光耐性を持つナノクリスタルコーティングが施してある点にも注目です。
まず一枚目は橋の上から空を見上げてのカット。ワイド端となる8mmでは写真のような全周魚眼での撮影が可能です。円の周りをぐるりと高層ビルが写り込み、中央付近には強い日差しの太陽も入っています。昼間の屋外でフィッシュアイレンズを使用すると太陽の写り込みは避けられないのですが、中には激しくフレアが出るレンズもあります。その点でいうと『Nikon AF-S Fisheye NIKKOR 8-15mm F3.5-4.5E ED』は超が付くほど逆光耐性の強いレンズで、さすがニコンの“ナノクリ・レンズ”は違うなと感じた一枚です。
フルサイズフレームだと焦点距離8mmから15mmの間で全面に画を写しこめるのは14mmから。派手に周辺の光量が落ちていますが、フィッシュアイレンズならではの味とも言えます。そして驚くのは歪みの強いフィッシュアイとは思えないほどの高い解像力で、細かな木目までしっかりと写し出しているのがわかります。
使用機材:Nikon D750 + AF-S Fisheye NIKKOR 8-15mm F3.5-4.5E ED
被写体となるオブジェとその影を意識して撮影した一枚。フィッシュアイは縦構図で撮っても面白いレンズです。超広角レンズとも違うダイナミックな表現ができるのですが、うっかりすると自分の足先や腕も写り込んでしまうので撮影には注意が必要です。
焦点距離10mmだとこのように円周の天地が切れた画になります。うまく利用すれば他にない表現ができそうです。
まるで球体の中から世界を見ているような円周魚眼から、独特の歪曲と広さを持つ対角線魚眼まで撮影できる本レンズ。それは種類の違う2つのレンズを同時に楽しめるような感覚で、言葉を崩して言うなら「得した気分になれるレンズ」というのがピッタリです。途中の天地が切れる焦点距離はなかなか使い方が難しいですが、それも含め、本レンズの面白さだと感じます。
また、フィッシュアイレンズながらクリアで高解像力なのはさすがニッコールレンズです。通常フィッシュアイレンズだと、中央部の解像力はあっても周辺が歪曲と共に流れてしまう印象ですが、本レンズは周辺の端まで素晴らしい描写力なのがわかります。
使用機材:Nikon D750 + AF-S Fisheye NIKKOR 8-15mm F3.5-4.5E ED
木の幹と幹の間にカメラを入れ、ノーファインダーで撮影したカット。円周魚眼だと縦も横も変わらないのですが、この写真の決まり構図は縦位置でしたので90度回してみました。葉の一枚一枚までよく描写しているのがわかります。
本レンズの絵作りはコントラストが高めなのですが、シャドウの中もしっかりと描いている粘りのある描写。この場所のようにフィッシュアイレンズは周辺が囲まれているようなシーンで撮影すると、その空間の雰囲気がより強調されます。
港を太陽のハイライトや、空と海の境界線の位置などで、まるで金属の球体を撮影したような不思議な写真になりました。思わぬ効果が得られるのもフィッシュアイレンズならではです。
船の中から撮影した一枚。両側にドアがあるのですが、グニャリと大きく歪んでいます。普段見ている世界とは違う異空間のような写りです。
使用機材:Nikon D750 + AF-S Fisheye NIKKOR 8-15mm F3.5-4.5E ED
船の機関室を縦構図で撮影したカット。こういった剥き出しのパイプや計器類は男心をくすぐる格好良さがありますね。少し暗い場所だったのでF4.5開放での撮影だったのですが、改めて本レンズの解像力に驚きました。入り組むパイプや床面の凹凸など細かな所まで写し出しています。
全周魚眼でも高い解像力です。筆者自身、数メーカーのフィッシュアイレンズを試してきたのですが、ここまで写るレンズは初めての経験でした。さすがニコン100周年の年に登場したレンズなだけはあります。
『Nikon AF-S Fisheye NIKKOR 8-15mm F3.5-4.5E ED』は“魚眼レンズ=面白レンズ”ということではなく、ニコンらしい真面目で堅実なレンズ作りを感じた1本です。金ラインと<N>のロゴは伊達ではないと感じた 完成度の高いフィッシュアイレンズでした。
Photo by MAP CAMERA Staff