330:『Carl Zeiss Planar T* 50mm F1.4 ZF.2』
2016年01月06日
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毎回新商品のレビューを皆さまへご紹介するKasyapaですが、今回は少し体裁を変えてこの1本をご紹介したいと思います。『Carl Zeiss Planar (プラナー) 50mm F1.4』、カメラレンズの世界へ足を踏み入れた者ならば誰しもが知る伝説的な標準レンズです。
プラナーの誕生は今より約120年前、天才数学者パウル・ルドルフにより発明された対称型のダブルガウスタイプレンズです。いまでこそプラナーという名はカメラ好きなら誰しもが知るくらい有名レンズですが、戦前・戦後ツァイスの看板レンズといえばテッサーとゾナーがカメラレンズの主役でした。
プラナーの名が知れ渡ったのはコーティング技術が発達し、フランジバックの長い一眼レフがカメラの主流となってからのことです。カメラでいうとコンタレックス、ハッセルブラッド、ローライフレックス用の標準レンズとして有名でしたが、多くの方がその描写に魅せられたのがヤシカ・コンタックス用のレンズとして登場したプラナー50mmの登場でしょう。高精細でこってりとした色乗り、そしてシルクのように滑らかなボケ味は世界中のカメラファンを虜にしました。
そして今回ご紹介する『Carl Zeiss Planar (プラナー) 50mm F1.4』、同じツァイスレンズでもヤシカ・コンタックス時代とは別の流れで誕生したプラナーです。どちらも日本のメーカーによって作られたツァイスレンズなのですが、ヤシカ・コンタックス用が富岡光学の流れを汲む京セラオプテック製に対し、今回のプラナーはコシナによって設計・製造・発売されているもの。そのレンズ意匠はコンタレックス用に似たピントリングまでも総金属で出来た高品質なもので、描写力を含め『ツァイスのプラナー』という伝統の重さを感じることができます。
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コシナより『Carl Zeiss Planar (プラナー) 50mm F1.4』が登場した時は「他のマウントでツァイスレンズを使うことが出来るなんて!」と感動したことを覚えています。現在はニコンの電子接点付きF マウントである『ZF.2』とキヤノンEFの『ZE』のみのラインナップ。高性能なAF全盛期の現代でありながらマニュアルフォーカスを採用しているレンズなのですが、ピントの山がとてもつかみやすいのに加え、フォーカスリングの絶妙なトルク感は「もっと写真を撮りたい」と思わせるとても気持ちのいい作りになっています。
写り味は開放から高コントラストで美しい発色です。色付いた紅葉の赤色を写し出してくれました。
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F1.4ながらフォーカス部の解像力はかなりの物。拾い上げた葉の葉脈まではっきりと描写しています。また、近接撮影だとふわりとした収差が被写体に乗るのも本レンズの魅力の一つ。カリカリと線描写だけで画を作るレンズとは一味違う美しさです。
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息子と公園へ出かけた時の一枚。マニュアルフォーカスレンズだと動き回る子供を撮影するのに難儀しますが、気に入った描写のレンズで思い出の写真を残すのはとても大事なことだと思います。
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続いてはF8まで絞った描写。プラナーは絞るごとにシャープネス・周辺減光・ボケ味が大きく変化していくレンズなので、仕上がりのイメージに合わせて絞りをコントロールして撮影する楽しみがあります。
絞り:F1.4/ シャッタースピード:1/320秒 / ISO:100/ 使用機材:Nikon Df + Carl Zeiss Planar T* 50mm F1.4 ZF.2
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世界中にあるダブルガウスタイプの標準レンズはプラナーの設計思想をベースに考えられていると言っても過言ではありません。大口径化も容易でフランジバックも長くとれるプラナーは一眼レフの時代にうまく適応し、世紀を越え、フィルムからデジタルへと写真表現が変わった今も銘玉として語り継がれています。近年は光学技術の発達によりデジタル機と相性のいい高性能なレトロフォーカスタイプ(ディスタゴンなど)の大口径レンズが出てきましたが、数値や解像度という言葉だけでは比べられない『レンズの味』というものが本レンズには色濃くあります。
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プラナーはモノクロームでも素晴らしい表現を見せてくれるレンズです。建物の影になっているレンガもよく見てみると緻密に描写し、それぞれのもつ色のトーンを表現しているのがわかります。
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絞り開放での近接時に見せる柔らかく甘い収差は花などの撮影時にぴったりとはまり幻想的なイメージを表現してくれます。
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絞り値F4だとクリアでシャープな描写力を見せてくれます。被写体の存在感を出す独特の立体感はさすがプラナーと言っていいでしょう。
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アンダー気味な表現もとてもいいですね。グラスに当たるハイライトにフワッと収差が乗り、シャドウ部はコクのある黒色ながら潰れている様子はありません。以前カメラマンをしていた叔父が「黒い服を撮るとツァイスレンズは他のレンズと全然違う。一見黒く見える所もしっかり持ち上がるんだ」と言っていた話を思い出しました。まぁ、この時に叔父が言っていたのはハッセルブラッドのツァイスレンズだったのですが、同じ銘を持つプラナーとしてその描写力は確かなものです。
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『Carl Zeiss (カールツァイス) Planar T* 50mm F1.4 ZF.2』は名実ともに標準レンズの頂点に立つレンズと言っても過言ではない描写性能と写り味を持つ1本でした。近年は絞り開放から驚くほどシャープに写るレンズも多数登場し、おそらく今回紹介したプラナーよりも高性能なレンズが存在するでしょう。しかし写真の良し悪しは決して数値や解像度とイコールではないのがレンズの面白いところで、撮影者の作風にプラナーの描写がフィットすれば他のレンズでは表現できない世界を表現できるはずです。ツァイスからも新たな一眼レフ用レンズシリーズとして『Milvusシリーズ』が発表されました。多くのツァイスレンズが刷新される中、この50mmプラナーはクラシックラインとして販売が継続予定です。ぜひ一度カメラ史に名を残すレンズの描写を味わっていただきたいと感じた1本でした。
Photo by MAP CAMERA Staff