Carl ZeissOtus 100mm F1.4 ZF.2 / ZE
世界最高性能を謳う「Carl Zeiss Otus」シリーズに望遠域をカバーする『Otus 100mm F1.4』が登場しました。同じクラスのレンズの中でも最高のクオリティを誇るという本レンズ。これまでに発売されたOtusシリーズを振り返ってみても、性能の高さは容易に想像がつき、期待は高まる一方です。
いざ手元に届き、撮影に出掛けようと準備をしていると、ある問題が発生しました。想像より重い、大きい…。
Otusシリーズのコンセプトは一切の妥協をしないこと。すなわち小型軽量化のために性能を犠牲にすることはないのです。機材の重さが苦になり始め、所有機材を少しづつミラーレスにシフトしている筆者にとってこの重さは難敵です。少しでも軽くしようと思い、Zシリーズに「マウントアダプターFTZ」を介して装着したものの、グリップから手首への負荷が大きく感じられます。ここはウエイトバランス重視で一眼レフの出番ということになりました。
水辺に咲く菖蒲も長い焦点距離のおかげで、容易に引き寄せることができます。
薄いピント面をマニュアル操作で絞り込んでいくと、光学ファインダー越しでもキレと抜けの良さが実感できます。緻密な操作が要求されるものの大きなゴム製のピントリングは程よいトルクで操作しやすく、ライブビューを併用すれば特段難しい印象もありません。AFでは味わえない、ピントを操作する楽しさを思い出させてくれます。質感描写も素晴らしく、薄いながらに張りのある花びらの様子をしっかり捉えています。
室内照明の無い古民家。F1.4の大口径レンズはファインダー内も明るく、スムーズな操作を可能にします。
襖、畳の縁などの直線部も歪みなく捉えており、見た景色をそのままに描いてくれます。ハイライトの境界部分にも擬色の発生もなく、光のトーンを上品に再現しています。
マニュアルで追うのは難しい蝶を駄目元で撮影したカット。厳密に見たらピントは甘めでも、大きく綺麗な前後のボケが被写体を浮き立たせてくれます。
それにしても本当に綺麗なボケです。見れば見るほど画の中に吸い込まれていような不思議な感覚になります。ボケの綺麗なレンズは多くありますが、ここまで凄いと思わせるレンズも久しぶり。世界最高と呼ばれる所以を感じます。
公園で日向ぼっこをしていた猫にカメラを向けると突然、細い木製の手すりの上に飛び乗り爪を研ぎ始めました。断りもなくカメラを向けたことに怒ったのか臨戦態勢をアピール。細い足場で踏ん張る後ろ足、背中から腰にかけての筋肉の張りなどがしっかり感じられます。まるで戦い方を考えているかのような表情がなんとも言えません。動物の横顔でもこれだけ伝わるのですから、ポートレート撮影ならもっと感動的な画になることでしょう。
レンズの描写力が圧倒的すぎる
続いてはボディをCanon EOS 5D Mark IVへスイッチ。ショーウィンドウに飾られたグラスの美しさに目を惹かれ思わずシャッターを切った一枚から。いつもは撮影前から完成形が見えている(どのように撮れるか想像できている)のですが、このカットを液晶で確認した時、思わずため息が出ました。これは凄い、想像以上のレンズだ、と。ピント面の解像力さやボケの深さなどではなく、画作りの力が強すぎる。『Carl Zeiss Otus 100mm F1.4 ZE』はコンシューマーが購入できる最高峰のレンズだと実感しました。
高価で描写が良いと言われているレンズは何が違うのか、と友人から聞かれることがあるのですが、そのような時「普通じゃない写りをする」と私はいつも答えています。普段目にする何気ない景色や物も、そのようなレンズで撮ればたちまち作品に変える力、惹きつける力を持っている。本レンズからもその力を十分感じます。
木々に囲まれた素敵な雰囲気のレストラン。拡大すると少し手ブレを思わせる写りですが、想像以上に撮れた一枚だったので掲載させていただきました。木々の隙間を狙ってシャッターを切ったのですが、そのボケ具合がなんとも妖艶で美しいです。
最後は毛繕いをする白鳥のカット。シャッターを切る1秒前にクチバシに含んだ水滴を飛ばしたため、周りの水面に無数の波紋が立っています。反射する光のアクセントも相まって、いい一枚が撮れました。
改めてZeissの凄みを思い知った。
ここまで描写の力を感じるレンズはなかなか無いと思えるほど、改めてZeissレンズの凄みを感じた1本でした。極薄なピント面をマニュアルフォーカスでコントロールし、撮れる画は想像を超えるほど極上品。これほど撮影冥利に尽きるレンズは他に無いかもしれません。様々なレンズを撮影する機会がありますが、その中でも難易度の高いレンズだとも言えました。しかしその分、簡単に写真を撮らせてくれない面白さや喜びを感じられるレンズです。
今やカメラの主流はミラーレスへ移り変わろうとしている時代、一眼レフのメリットとは?と問われた時、光学ファインダーや豊富な純正レンズの他に「Carl Zeiss Otusが使用できる」と言っても、言い過ぎでは無いと思います。Carl Zeissが世界最高性能を目指して開発したOtusシリーズ、カメラや写真を愛する方に一度は使用していただきたい魅力が本レンズにはありました。
Photo by MAP CAMERA Staff