Rマウントの発表と同時に発表された『Canon RF28-70mm F2L USM』、全域にてF2通しというカメラ史上に類を見ないスペックで発表されたこのレンズは、新世代の幕開けにふさわしいシンボル的な存在となりました。筆者も発表当時には随分と驚かされたものです。技術の粋(すい)を凝縮させて作り上げたガラスの塊のようなレンズ。新世代である『EOS R5』『EOS R6』の発表に重なる感じになりましたが、まずは先にこの次世代を担うレンズの写りをご覧ください。
しっとりと雨が降った日。開店前の店内の照明のガラスに反射した、曇天の鈍い光が印象的でカメラを向けました。シンとしたあの時あの場所の雰囲気さえ切り取ったような一枚です。撮影後に改めて写真を見たとき、意識していなかった細部の美しさに気付かされます。妥協が一切ない、とても真摯で実直な性格をしたレンズだと思いました。
一本のレンズを使い続けているうちに「ハマる」瞬間というのがあるのですが、今回の撮影ではまず最初にこのカットでハマりました。ボケのなだらかさには美しさすら感じます。別アングルでも撮ったものも良い写りで、どちらを載せようか最後まで迷いに迷い、こちらにしました。
広角28mmで画面いっぱいに雨の降るなか撮影いたしました。28mmの画角があれば街角の花を地上の楽園にすることが出来ます。画面いっぱいに被写体を詰め込むのが好きで、そんな被写体を見つけては撮っていますが開放絞りでここまで生々しい描写を見たのはこれが初めてかもしれません。まさに「魅せられた」一枚です。
撮影の移動中に限って晴れ間が覗き、撮影の為の体力が削られていったので小休憩を。注文を受けたその場で挽く豆の香り、その瞬間だけはマスクを外し、幸せに浸ります。実は撮った後に気づいたのですが、背景のボケが周辺に至るまで綺麗な丸ボケを形成しています。開放絞りでやや周辺減光こそありますが、諸収差に関してはとても高いレベルで抑えられています。
前ボケと重なったピント面でも、拡大してみるとしっかりと解像されています。ピントの芯は確かに存在するのに柔らかい画作り。「味」という描写表現については本来はネガティブな部分を昇華させて言う場合があるのですが、このレンズにおいてはそういった要素が全くありません。ただただ、良い写りです。
室内など低照度の環境下での撮影において、F2とF2.8の絞り値の違いは時に大きく影響します。ちなみにレンズ自体の重量を加味し、シャッタースピードに幾分の余裕を持たせながら撮っています。はしゃぎながら見る子供、おとぎの世界でも見ているかのように見つめる子供。ガラスの厚さで滲んだ光もひっくるめて、幻想的な写りが気に入りました。
かなり強めの逆光。足元の影のシルエットがただ黒く塗りつぶされるのではなく透明感があって素晴らしい写りです。AFの合焦速度も瞬間を切り取るには十分な早さで、AFの動作音は撮影者本人でも聞こえないくらい静かです。
開放絞りで撮影することがこのレンズの個性、使うまではそう思っていました。しかし、使い続けるうちにわかったことは、このレンズは決してそんな一芸だけのレンズではないという事です。引き締めた画にも「らしさ」を感じます。「F2通しの標準ズームレンズ」というスペックだけで語るようなレンズではないと思い知りました。
ユニークでUnique。
『EOS R』というCanonの未来への可能性。次世代機でも十分に通用するであろうこのレンズを、ミラーレスの幕開けに用意してきたメーカーの覚悟と意地を感じます。写りは最高峰、標準ズームレンズとしては巨大で重く(約1.4kg)手ぶれ補正機構は無し。一度使ってみたらその重さもスタビライザー代わりになる、とポジティブに変換してしまう魅力があります。今構築しているレンズシステムから一つ抜け出したい、そんなことを考えていた方にぜひ使っていただきたい一本です。
Photo by MAP CAMERA Staff