木下光学研究所がまたしても面白いレンズを作りました。その名も『KISTAR 40mm F2.4』。最新の光学技術を用いたレンズが次々と登場するこの時代に「ミラーレスの平たいボディーに扁平レンズを組み合わせたら楽しそう」という思いで作った「開放は柔らかく、絞るとシャープ」をコンセプトにしたパンケーキレンズです。 40mmのパンケーキレンズと聞けば、開放からシャープでスナップに使いやすいレンズという印象ですが、このレンズはちょっと違います。そしてその秘密は絞り開放値「F2.4」にあります。
レンズ構成は3群4枚のテッサータイプ。F2.4の開放値ではあえてオールドレンズテイストの甘い開放描写を実現させました。もうシンプルすぎるレンズ構成の時点でそそられてしまってますが「古き良き」を地で行くスタイル。たまらないものがあります。すでに冒頭の写真から全開でお送りしていますが、今レンズの写り、是非ご覧ください。
信号が青になった瞬間に撮った1枚。写真の中に自分の好みが反映されると一目で気に入ってしまいます。アウトフォーカスのこの滲みのクセが好きな方なら絶対に気に入るレンズではないでしょうか。ピントがズレてもそれも一興、のような感覚でシャッターを切れる気楽さも魅力の一つです。
「開放は柔らかく、絞るとシャープ」というコンセプトそのままにF4に絞ると中央部の解像がキュッと引き締まります。個人的にはF2.4からF4の二段活用で十分ではないかなと思いました。F2.4からF2.8へのクリック感は弱く、F2.8からF4へのクリック感は手応えがあります。これだけ覚えてしまえばあとは開放絞りとF4の描写を瞬時に楽しむだけです。
廊下の向こう側のハイライトが良い感じになるのでは、と撮ってみたところイメージ通りの美しい滲みのある写りに大満足です。シャープで整った写りではなく、「滲みの美学」というのか「写らないからこその美学」を狙う。まさにオールドレンズで撮っているかのような感覚になって楽しくなってきてしまいます。
先述の通り、開放絞りと絞ったパターンで撮っていたのでどちらを載せようか迷った末、収差により輪郭をはみ出し滲むネオンが印象的だった開放絞りをセレクトしました。拡大して見てみると細い鉄線もしっかり解像できているので、あくまでコンセプトとしてこういう味付けにしているというところに面白さを感じます。
柔らかい描写が好きではあるものの、個人的にはこういう錆び感のある被写体はキレよく写したい人間です。まさしくこのギャップがこのレンズの醍醐味の一つ。ガリっとシャープに締まる画。周辺部の甘さこそありますが、中心部の解像のキレ味は眠気を吹っ飛ばす写り。先ほどの壁一面のカップとは違い周辺部の収差が目立ちますが、撮影環境や被写体との距離によって変わってくるのかもしれません。
輪郭の細い被写体は開放絞り最短撮影距離で撮るとフワフワと融けていくのですが、こういう写りもまた美しいものです。最短撮影距離は40cm。というのが公式のスペックなのですが、実際には遊びがややあってもう少し寄れます。とはいえそこまで寄るとピント面は極めて薄くなるので使うかどうかは使い手次第。このカットはその最短距離を使って撮った1枚です。
重量は約160g。久しぶりにこんなに軽い装備で撮影に出かけたのですが、カメラの重みを感じることなく1日が終わりそうです。勿論ピントは真面目に合わせますが肩肘張らずに撮影できる素晴らしさを実感しました。歩きながら「あ、良いかも」と思った瞬間を40mmの画角は余韻たっぷりに写し出します。撮りたいと思ったらシャッターを切る。このテンポ感の良さがマニュアルレンズの良いところだなと思います。
夕暮れ時のシチュエーション、滲んで融ける逆光はまさにオールドレンズテイスト。レンズ構成のシンプルさ故なのか、ゴーストに関してうまく処理が出来ているのか、今回このレンズでゴーストを確認することがあまりありませんでした。筆者は滲みやフレアは大好きなのですが、ゴーストに関しては極力抑えたい派なので絶妙なバランスでとても好きな写りです。
この写真がどこか分かった方は結構な新宿通です。フォーカスリングを最短まで回すとこんな風に簡単に玉ボケ写真が撮れるので1枚ご紹介させていただきました。レンズ構成がシンプルだからなのか、玉ボケも輪郭が濃くシャボン玉のようなボケ玉になっています。
令和のオールドレンズ
木下光学研究所は平成の時代にもコンタックス・ヤシカマウントを発売し話題となりました。過去のレンズの写りが好きだった筆者としては今回の一風変わったレンズもとても面白かったです。開放絞りではあえてオールドレンズのようなテイストにした40mm。今使っているメインのレンズがあっても「今日はこのレンズで撮りたい」気分に必ずさせてくれるレンズだと思います。お手元に一本、バックのポケットに忍ばせてみてはいかがでしょうか。
Photo by MAP CAMERA Staff