木下光学研究所から登場した『KISTAR 40mm F2.4』。前回は、「ソニーE用/フルサイズ対応」をご紹介しましたが今回は「フジフィルムX用」のレビューです。KISTAR流「パンケーキレンズ」として最新の光学技術で設計された非常にコンパクトなこのレンズ。あまりにも柔らかい開放から、絞るごとにシャープに鋭く描写が変わるため同じ被写体でもついつい絞りを変えながら何枚も撮りたくなってしまいます。オールドレンズのような「味わい」を前面に押し出している撮影が愉しいレンズです。
使用したボディはAPS-Cサイズセンサー搭載の「FUJIFILM X-T4」、フルサイズ35mm換算で焦点距離は60mm相当。標準と中望遠の間くらいの絶妙な単焦点レンズとして使います。フジフイルム独自の「フィルムシミュレーション」との相乗効果で、手軽だけど他とは一線を画す一枚を狙うべく撮影して参りました。作例をご覧下さい。
スナップ撮影の時は小さな動きにも敏感です。カマキリが颯爽と歩いている所にレンズを向けると、なんとピタッと止まってコチラにカメラ目線を送ってくれているのです。しばらくポージングを崩さず待っていてくれたので、じっくりとフォーカスを合わせることが出来ました。羽の模様の造形まで美しく捉えられています。
開放を思い描く通りに操るには、何枚か撮影していく中で一番美味しいところを理解する必要があるでしょう。それがハマった時の表現力は素晴らしいものがあります。路傍の花、身を寄せて咲く場所に大胆に切り込み、大きく前ボケを入れながら一輪にピントを合わせました。「ETERNA」のフィルムシミュレーションで作ったソフトフォーカスレンズのような描写がクセになってしまいます。
開放の甘さはご覧のとおりですが、F8まで絞るとキリッと解像します。この写真を撮影した5分後に雨が降ってきてしまい、撮影時も曇天でややロケーションには恵まれませんでした。しかし、その曇りがちな雰囲気を荘厳さに置き換えることで、空気感として落とし込むことが出来ました。シャドウ部も良く粘っています。
陽光を浴びる陶器の美しさに目を奪われて近づいた時、ガラスにリフレクションしていることに気付きました。身軽に撮影を楽しむ一方で、ふと注視した時に思わぬ発見をすることもスナップ撮影の醍醐味と言えるでしょう。身をかがめ、じっくりとフォーカスリングのトルクを確かめながらシャッターを切る事はMFのレンズを使う上での愉悦です。
昔に使われていたレジスターのカラフルなボタンをより強調できるよう、「Velvia」のフィルムシミュレーションを用いてビビッドなイメージで撮影してみました。少し錆びの出ている筐体から黄色、赤、緑のボタンのカラーが浮かび上がっているようです。
撮影の最中、撮りこぼしたものがないか何の気なしに振り向いた時に、眼に飛び込んできた光の淡さが妙に心に染みてきました。フィルムカメラのファインダーで覗いた時のような感傷をどうしても収めたいと思い「クラシックネガ」のフィルムシミュレーションを用いて撮影。木々からの木漏れ日が暑かった季節を思い出させます。
光源の滲みもまた楽しいものです。あまり街灯の無い暗がりの道を歩いていると、道を曲がった先にぼんやりと光っている物があることに気付きました。夜の闇の中、少し心もとない気持ちで見つけた公衆電話ボックス明かりの温かさ。何気ない一枚ですが、包むような光がその時の筆者の心情をそのまま表してくれているようです。
温故知新のパンケーキ
今回の記事で掲載させていただいた写真はほぼ「JPEG撮って出し」のままです。それほどに、様々なフィルムシミュレーションを用いて描く『KISTAR 40mm F2.4』の画が好きになってしまいました。ファインダーを覗きながら、目の前に繰り広げられるレンズを通して輝く世界をどう切り撮るのか。悩みながら、考えながらシャッターを切った一枚は期待を裏切りません。最新のレンズでは取り除かれてしまう収差を絶妙にコントロールし、オールドレンズのフィーリングを閉じ込めたパンケーキレンズ。スナップ撮影の新しい可能性を撮影者に提案してくれた木下光学研究所の心意気を嬉しく思います。是非、お試しいただきたいレンズです。
Photo by MAP CAMERA Staff