『Pentax MX-1』初めてその名を聞いた時、あるいはその左肩に刻印されたロゴを見た時に、ときめいた方も多いのではないだろうか。そこにあるのは35mm判一眼レフの銘機『Pentax MX』への大いなるオマージュである。基本性能をギュッと詰め込みコンパクト、それでいて堅牢な『Pentax MX』は頼れるボディとして多くの写真家に愛され、そして個人的にも使用していた思い出深い1台でもある。
『MX-1』もその流れを汲むのか、ボディはしっかりとコンパクトに仕上がっている。外装ラバーの指がかりが良いので撮り回しは良好だ。露出補正のダイヤルが独立しているのも実に使いやすい『MX-1』の大きなポイントだろう。ジョグダイアルは背面に1つだが難しい操作もなく、使い勝手良く考えられている。そして気になるのはその描写だが…どうだろう。開放だ、輝度差もとても強い。雨で霞んだその中である。それでいてここまで描写するのは、正直予想外だったと言っていい。ごく周辺に流れが見える程度で、この大口径ズームにして非常に優秀な描写である。真鍮外装の採用等の面が強調されがちだが、この描写力は侮れない。
色合いはニュートラルであればしっとりと落ち着いている。描写も広角域から望遠域まで一通り試したが、どの域でも素晴しい仕事をしてくれる。このレンズ、銘玉だろう。
今回、試写をして一番に感じた事は”撮れていない”カットがほぼゼロだった事だ。写真としての面白さはさておき、手ぶれや露出等で使えないカットというのはほぼ無し。大口径レンズとISOオートの調整、そして手ぶれ補正の三つ巴は想像以上に強力で、このボディの使い勝手の良さに大きく貢献している。こうした細かい点が、常用するコンパクト機の使い勝手を大きく左右するポイントである。
高感度耐性もなかなかのもの、ISO1600でもここまで描写する。また大口径レンズのお陰で中距離でもボケが大きく、被写体を浮かび上がらせる様な撮影が可能である。
曇天だが、1/80秒のシャッターでも手ぶれ補正がしっかりと効いてくれるのには助かる。少々絞り込んでレンズの解像感を見たカットだが、風雨にさらされて枯れた木質の表面もしっかりと描写してくれた。
上2枚は近接してのカットだが、近接領域でもピントはしっかりと捉えてくれる。描写も四隅まで安定しており、金属や水滴の細かい質感も良く描いてくれている。
シャッタータイムラグの無さは特筆に値する。ここぞ!と思うタイミングにしっかりとついてきてくれるのだから、この感じはスナップ等にも大いに重宝するだろう。
グラスの水滴も、光も、描き分けは本当に優秀だ。
真鍮外装のしっかりとした硬性感は撮影していても心強いものだ。その他のパーツも金属部品を惜しみなく使い質感の高い仕上げである。ブラックペイントの塗りも良く、以前使用していた『Pentax MX』同様、使い込む事でペイントが剥離していくと、これは格好の良いものだろうとついつい想像してしまった。
見た当初はどうしても外観に目がいってしまったが、実際に使用するとその描写力も含めた完成度に驚かされるのは間違いない。細かい使用感まで考えられた1台であると感じて頂けるだろう。”道具感を大切にした1台”と聞いたが、まさにしかり。ぜひ手に取って、その描写力と質感の高さを味わってもらいたいと思う。
Photo by MAP CAMERA Staff