2022年にリコーイメージング/PENTAXから発表された「フィルムカメラプロジェクト」、その中で最も驚いたのは新しいフィルムカメラの開発検討でした。この段階では詳細などは発表されていませんでしたが、フィルムカメラという現代において珍しい機種ともあれば、その発表すら愛おしく、筆者はたいへん心が躍りました。
そして2024年7月、遂に発売されました。
技術者の世代交代が進む中、フィルムカメラの設計を行うということは困難を極めたに違いありませんが、たくさんの思いを背負って生まれたあたらしいフィルムカメラです。今回はそんなフィルムの未来を切り開く一台、『PENTAX 17』の魅力をご紹介したいと思います。
『PENTAX 17』はハーフサイズフォーマットのフィルムカメラ。35mm判フィルム1コマの約半分を使用して撮影するのがこのフォーマットです。36枚撮りのフィルムなら72枚、24枚撮りのフィルムなら48枚など、2倍の枚数が撮影できます。
ハーフサイズのカメラは過去に様々なものが発売されており、OLYMPUS PENシリーズの18×24mmサイズやRICOH オートハーフの17×24mmサイズがありましたが、今回は「17」の名前にある通り「17×24mm」が採用されています。PENTAX 67などを思い出すような懐かしくも新しいネーミングだと感じます。
ハーフサイズフォーマットはフィルムや現像代が高騰している昨今においてはうれしいポイントです。また、カメラを構えた時に自然と縦構図になるため、これからカメラを始める方でもスマートフォンに近い感覚で撮影することができます。
ピント合わせは手動選択式のゾーンフォーカスで行います。レンズに記載された6つのゾーンから選択し撮影することができます。(遠距離:5.1m~無限遠 / 中距離:2.1~5.3m / 近距離:1.4~2.2m / 至近距離:1.0~1.4m / テーブルフォト:0.47~0.54m / マクロ0.24~0.26m)細かなピント合わせはできませんが被写体との距離感さえわかれば軽快に写真を撮ることができます。難しいのは近接撮影ですが、レンズから被写体に向けて真っすぐ引いた線と付属のハンドストラップをその方向に伸ばした際に交わるところが最短撮影距離の約25cmになっているというのを説明書で読んだ際には感動しました。
難しいことは考えずに目の前のものに向き合って撮影するというのはシンプルで楽しく、使えば使うほど被写体との距離感がつかめるようになります。ファインダーの中は現在選択されているゾーンフォーカスのマークが見られるようになっており、近接撮影選択時にはシャッターボタンを半押しにするとファインダー横の青色のランプが点滅して知らせてくれます。起こりそうな設定ミスをあらかじめ予防してくれるという点が嬉しいポイントです。
1コマ分で2枚撮影できるため写真を組み合わせて楽しむこともできます。撮影した写真の構図を覚えておきながら次に撮影する写真の事を考えて撮るというのもハーフならではの楽しみ方です。
左の写真を撮り終えたところ、ちょうどフィルムがなくなったため、別のフィルムに交換しました。左はKodak GOLD 200、右はFUJIFILM 400です。Kodak GOLD 200は温かみがあり、FUJIFILM 400は少し寒色系が強く出るフィルムです。現代のデジタル基準でいうなれば、センサーを交換しているような感覚に近く、様々なものの中から自分好みの色を描き出してくれるものを見つけるのもフィルム撮影の醍醐味です。
百日紅の花が咲いていました。華やかな色の街路樹でこの花を見ると夏が来たと感じます。花言葉は雄弁、愛嬌であると言われていますが、このカメラにぴったりだと思っています。
縦に配置されたアルバダ式のファインダーを始めとしてPENTAX auto 110を参考にした巻き上げレバーやコンパクトフィルムカメラ、ESPIOの光学設計を参考にした 3群3枚のトリプレットレンズ、今までのカメラが融合したような愛嬌ある特徴的な外観と、今あえてフィルムカメラを作るそのダイナミックさは、まさにそれを体現しています。
フィルム1コマを半分にして使用しているため、暗部はざらつきが目立つこともありますが、PENTAXが誇るHDコーティングは逆光にも強く非常にシャープな描写を愉しむことができます。
使用機材:PENTAX 17 + FUJIFILM 400
フィルムならではの透き通るような透明感あふれる描写が綺麗です。撮影した写真を眺めていると解像感とは別に心を揺さぶられるようなものを感じます。
スキャンしたデータを画面で楽しむのも良いですが、せっかくならば写真プリントもおすすめしたいです。一枚一枚めくりながら情景を思いだすひとときは素敵なものになるでしょう。
展望台に登ると他に高い建物がないか探してしまいます。今回は東京タワーを見つけました。
建物の上の方ばかりフィーチャーされがちな東京タワーですが筆者はその足元が好きです。アイコニックな姿を支えるその土台は着工からわずか1年半で完成したとは思えないほど緻密でがっしりしています。
雨の夜、傘を通して一枚。デジタルとは違った光源から暗部への階調がビニール傘を通すことでより柔らかくなりました。
それは、日々を記録する相棒
日常がすごいスピードで過ぎ去ってゆく現代、本来は平等に時間が流れているはずなのに気付けば一日が終わってしまう、そんなときはフィルム写真に記録を残すと良いかもしれません。特別なこともそうでないことも、目に留まったものを記録する。それはいつかきっと見返したときにやさしい気持ちにさせてくれるはずです。まさに日記帳のようなカメラです。
Photo by MAP CAMERA Staff