SIGMA Art 85mm F1.4 DG HSM
ニコンマウントで撮るシグマArtレンズシリーズ、第6弾は『SIGMA Art 85mm F1.4 DG HSM』です。
社内でシグマレンズのニコン版Kasyapaを作成すると決まった時、普段ポートレートを撮ることのない筆者にとって、このレンズが一番の難題でした。究極のポートレートレンズとして名を馳せているのは知っていましたが、縁の無い被写体なだけに、これまでほぼ無縁の85mm。ましてや中望遠域は高性能なズームレンズも多く、普段の撮影では利便性の高いズームレンズを多用する有り様。そんな食わず嫌い化していた85mmとはどんな味なのか?興味半分、不安半分で撮影に出掛けてきました。
私の不安を煽るかの様に今秋の空はスッキリしません。雨を避け水族館に逃げ込むと、ダイバーによる餌やりが行われていました。 薄暗い館内に加え、ガラス越しというカメラ泣かせのシチュエーションでも、速いAFが泳ぐ姿を捉え続けてくれます。薄いピント面の大口径レンズなだけに、ピント合わせに難儀するのかと思いきや、素早いピント合わせには本当に驚きました。そしてそれ以上に驚いたのが、薄暗い館内だということを忘れさせる明るいファインダー像です。普段はF2.8のズームレンズで覗いている景色がより明るいF1.4になったことで、視界がさらに明るく開けます。明るいレンズに総じて言えることですが、視界に入る風景が明るく綺麗だと、撮影が本当に楽しくなります。
ボケの大きな優しい描写のレンズと思っていたら大きな間違いでした。5000万画素以上の超高画素カメラに対応するという高い解像力は、羽毛が弾いた水滴の1滴までもしっかり捉えています。
最短撮影距離は85cm。マクロレンズの様にもう一歩詰め寄ることはできませんが、シャープさとボケの美しさを併せ持つ高い描写力で被写体の質感を上品に描きます。
普段のズームレンズと同じ感覚で街中を切り取ると、より大きくなったボケが奥行きをさらに広げ、とても立体的な画になりました。
神社脇にあった石の彫刻。連日の雨に濡れ、少し水分を含んだようなウェットな質感までしっかり捉えています。
水に浮かべられたダリアも、先の石像同様にしっとりとした質感を綺麗に再現しています。「SIGMA Art 50mm F1.4 DG HSM」を使用した時にも感じた、ニコンのデジタルカメラらしい派手さを抑えた忠実な質感描写が見てとれます。焦点距離が異なっても、同じArtシリーズとしての拘りが感じられました。
夕方4時にもなると周囲は暗くなり、夏の頃と比べ撮影できる時間がかなり短くなった様に感じられます。普段なら早々に引き上げる頃合いですが、クリアで明るいレンズはもう少し撮りたいという気持ちを叶えてくれます。高感度に頼らず、夕暮れの様子を自然に撮れるのは大きな魅力です。室内の明かりを窓の格子越しに見ても、色収差はまったく感じられません。建物の外壁一面を隅々までシャープに捉えています。
閉園ギリギリに駆け込んだ動物園。動物も1日の勤めを終えてお疲れの様子。茂みの中でじっとしているリスを見つけ、そっと近寄ってみました。葉の隙間から僅かに覗かせる顔を一瞬で捉えるAFは流石です。前を遮る葉が大きくボケ、小さなリスがしっかりと主役になりました。すぐに逃げられるよう注意を払っている気配が伝わってきます。
一方、こちらは目立つ場所でのんびりお食事タイム。警戒心なく美味しそうに食べています。さすがポートレートの王道レンズは小さな動物でも、感情のようなものをしっかり捉えてくれました。
評判の高いポートレートレンズ。今回はポートレート無しの撮影でしたが、レンズの性能の高さを十分感じることができました。85mm F1.4としては破格の12群14枚からなるレンズは1130gと、かなりの大きさですが、その重さに匹敵する素晴らしい解像力が確認できました。気軽に持ち出せない分、スナップには少々不向きかもしれませんが、本レンズでないと撮れない画があるのも確かです。ポートレートはもちろん、あらゆるジャンルでの活躍が見込めますので、ぜひトライしてみてください。
Photo by MAP CAMERA Staff
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