以前、当サイトにてキヤノンの『RF85mm F1.2L USM』をご紹介しましたが、今回は『RF85mm F1.2L USM DS』をご紹介します。名前が酷似しているこれらの2つのレンズ。大きな違いは名前の最後の「DS」にあります。これは「Defocus Smoothing」の略で、キヤノン独自の「DSコーティング」により、ボケが滑らかに表現されることを意味します。「DSコーティング」はレンズの中心部から周辺にいくにつれ光の透過率を下げる加工のことで、筆者はカラーコンタクトレンズを連想しました。「DSコーティング」のおかげでボケのフチが滑らかになり、より美しいボケ味が得られるのです。開放値F1.2のL玉というだけでも珠玉の存在であるのに、さらに「DSコーティング」付きとなると、一体どのような描写になるのでしょう。期待に胸を膨らませて撮影に出ました。
横浜の赤レンガ倉庫前の広場を撮影。奥にある大さん橋にピントを合わせて開放値F1.2で撮影すると手前がよくボケて、どこかミニチュアのような雰囲気の写真になりました。普段はないベンチが設置されていたおかげもあり、奥行きがよく表現されています。
蔦が絡まる古いショップ。蔦の先端は隣の窓へと伸びていきます。このように切り取ると電灯に照らされた夜の写真のようにも見え、昼の1時16分なのか夜の1時16分なのか、時間の感覚がわからなくなります。実際のところはというと、どちらも間違い。この時計は止まっているのです。
エキナセア・プルプレアが咲いていました。開放値F1.2で花の中心部分に焦点を合わせると、その一部にしかピントが合いません。すぐ後ろにある花も大きくボケています。「DSコーティング」のおかげで、後方にある花の花びらのエッジが柔らかく表現されているのをご確認いただけるかと思います。
陽がだんだんと落ちてきて、オフィスの灯りが点き始めた中を歩いていると、船着き場にたどり着きました。待ち合いの椅子の上には赤いリボンがかかっていて、まるでプレゼントのよう。船には夜景が綺麗な時間に乗ることにして、もうしばらく周辺を散策します。
噴水の水が踊るように跳ねます。水にピントを合わせてその一瞬を捉えました。前後がとても自然かつ大きくボケて、花の色も相まって美しく切り取ることができました。
ラグジュアリーなショーウインドーに立派なシャンデリアが飾られています。手前にあるガラスにピントを合わせると、シャンデリアの光が丸くボケました。よくあるクッキリした丸ボケとは異なり、フチにいくにつれグラデーションがかかります。当レンズならではの風合いのあるボケは大変魅力的。これこそが「DSコーティング」のなせる業であり、このために当レンズがほしくなります。
先ほどのリボンの船着場から乗船し、海から夜景を眺めます。コスモクロック21や赤レンガ倉庫などの横浜らしい夜景も撮りましたが、今回はこちらの写真を掲載することにしました。ちょっぴりファンシーな船の待合所と、その奥にあるのは温かい光を放つマンション。そして目で見たときはもっと暗く感じたのですが、高感度撮影のおかげで空のグラデーションも綺麗です。美しいだけでなくどこか温もりのある写真だと感じます。
さらに上の、極上のボケ味
夜景写真、風景写真、ポートレート。この極上のレンズが活きる場面は数多くあり、想像するだけでもワクワクします。開放からピント面はしっかりと精細に描写し、アウトフォーカス部分は滑らかに写しとってくれます。点光源は、他のレンズのような平面的で輪郭のクッキリした玉ボケではなく、グラデーションによる風合いのある美しい玉ボケになり、当レンズならではの表現にうっとりするはずです。
当レンズの一番の特色である「DSコーティング」に注目してきましたが、大前提としてLレンズですから、操作性や堅牢性、色収差補正などのレベルの高さは言わずもがなです。
明るいレンズ特有の大きなボケがあることと、そのボケ方がこの上なく自然であること。これら2点を両立させる、奇跡のレンズです。ぜひお試しください。
Photo by MAP CAMERA Staff