「あの三姉妹が美しくなって帰ってきた。」春一番と共にやってきたこのセンセーショナルな事件は、きっとペンタキシアンの心を揺さぶる事でしょう。 今回は、『PENTAX HD FA Limited Series』と題しまして 「PENTAX HD FA 31mm F1.8 Limited / HD FA 43mm F1.9 Limited / HD FA 77mm F1.8 Limited」の3本のレンズをご紹介します。
今なお語り継がれる先代「FA Limited」シリーズは、その気品溢れる美しさが人気の理由でした。高い質感の鏡筒はアルミ削り出しにより成形されたパーツを丁寧に組み上げたもの。そこに、七宝焼きのフィンガーポイントを添えることで遊び心をプラスしています。レンズとしては軽量な部類に数えられるかと思いますが、ビルドクオリティの高さゆえに非常にしっかりとしている印象を受けます。
では、写りは?それぞれの個性は各パートで述べさせていただくとして、先代からパワーアップしているのが「HDコーティング」の採用。おかげで、撮影条件に関わらず今までよりクリアで抜けの良い描写を得ることが出来ます。さらに円形絞りの採用により開放付近まで絞り込んでも、自然で美しいボケが得られるように。これらの事は、既存モデルの表現力を愉しまれていた方には吉報と言えるでしょう。甘美なるリミテッドの世界、実写レビューでご覧ください。
PENTAX HD FA 31mm F1.8 Limited
『HD FA 31mm F1.8 Limited』は近接性能も非常に素晴らしいと気付けた一枚です。ピントが一番来ているのは撮影している筆者の手。皺の一本一本まで細かく見て取ることが出来ます。浅い被写界深度の中で花弁部分はややボケてしまっておりますが、写真として全体を捉えた時の何とも言えない濃厚な雰囲気が非常に気に入っています。
交通量の多い交差点を見つけると、癖のようにレーザービームを撮影してしまいます。先代の31mmでも夜景を撮影したことがあるのですがその時のことを思い出し今回も取り入れました。解像性能が高く止まっている部分は非常にシャープ、光線のカタチも流麗に伸びています。
PENTAX HD FA 43mm F1.9 Limited
海沿いに掛かる橋。やはり、潮風の影響は少なからずあるようです。私は「錆び」がめっぽう好きで見かけるとつい反射的に撮ってしまいます。開放ですが金属部分の質感描写も良く、そして後で見返して気付いたのは背景ボケの滑らかさ。自然なボケ味が奥行きの演出に一役買っています。
大きな建造物の中に入った時、その迫力に胸打たれながら見上げることがあります。そして、その感情をそのまま切り撮ってくれるのが43mmという画角の魅了です。標準と呼ばれる50mmよりわずかに広いこのレンズはまさに自分のもう一つの「目」。スナップ撮影にも非常にオススメしたい一本です。
せっかく海に訪れたので、と思い沢山の波打ち際の表情を収めていましたが、海の向こうにビル群の見えるこの夕景のカットが「東京らしくていいな」と思い採用しました。2枚目の写真でも言及しましたが、人の視野角に近いという事はとても素敵な事です。その日見た景色への感動を、写真を見返すことで飾らずありのまま、また思い出すことが出来るからです。
PENTAX HD FA 77mm F1.8 Limited
珍しく早く目が覚めた朝。だんだんと暖かくなってきたその陽気に誘われて、眠気覚ましの散歩と洒落込みました。少し早咲きの桜が青空の中に映えています。『HD FA 77mm F1.8 Limited』は公式で「“白いワイシャツの貝ボタンの輝き”を描き出す」と表現されています。ピントの合っている桜の花弁を見てみると、厚みの違いや日の当たり具合で僅かずつ違う色のニュアンスを、漏らすことなく撮り収めてくれています。
海辺にたたずみ、一身にその波濤を受けています。流されまいという強い意志を感じます。しかし最初からここにいたのか、はたまたどこかから揺らり揺られてやってきたのか。その答えは分かりませんが、波音を耳にしながらそんな些末な思案に明け暮れるこの時間も、大切にしなければいけないなと写真が教えてくれました。
中望遠としては最近増えてきている「65mm」と、大定番である「85mm」のちょうど中間にあたる焦点距離と言えるでしょう。やや余裕をもって、85mmより少し引いた目線で画角を構築する。海辺で歩いている人たちがとても眩しく見え、この感情を表したく露出をかなりハイキーに寄せ、物語の1コマを見ているかのような雰囲気を凝縮することが出来ました。
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美を追求した愛すべき傑作
FA LimitedがFA Limitedである理由。それは、このいびつにも受け取れる焦点距離にあります。既存の規格に当てはめるのではなく、「最も理想の写りが得られる光学設計をした結果、自然と導かれる焦点距離を採用しよう」という発想があったそうです。加えて、当時では珍しかった素材の質感を活かした気品ある鏡筒のデザインにしたことでレンズを手にしたユーザーに「単なる道具ではなく、創作活動を共にする相棒」として大切にされました。常に使っていて心地よいカメラを造り続けてきたペンタックスの宿願が、時を経てさらに美しく復活したのです。レビュー記事としては本末転倒になってしまいますが、やはり一度実際に手に取って頂くと一番魅力が伝わるのかなと思います。いたずらな三姉妹に、魅了されてみては。
Photo by MAP CAMERA Staff