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写真とは、光の痕跡を記録する営みであり、世界に対する己の「眼」を問い直す行為です。本日2025年10月31日に、Zマウントのラインアップに加わった『Nikon NIKKOR Z DX MC 35mm F1.7』は、DXフォーマットの新たな標準レンズとして登場しました。しかし、単なる新製品として語るには、その存在はあまりにも軽やかで、深遠な力を秘めています。焦点距離35mm(35mm判換算52.5mm相当)という普遍的な画角を持ちながら、F1.7という明るさと、最短撮影距離0.16mというマイクロレンズの性能を兼ね備えます。この融合こそが、撮る人の創作における新たな可能性を示唆しているのです。
日常を切り取る標準レンズの役割と、細部に宿る非日常をクローズアップするマイクロレンズの役割。この二面性が、重さわずか約220gの軽快な鏡胴の中に収められています。私はこのレンズを手に、見慣れたフィールドを歩きました。軽快なボディは負担を忘れさせ、視線は自由になります。そして、ふとした瞬間に被写体へぐっと踏み込む。その瞬間、世界はマクロの世界へと移行し、日常の断片が、初めて出会う抽象的な光の芸術へと変貌しました。この「DX新標準マイクロ」は、日常に追われると忘れがちな「光に対する純粋な眼差し」を取り戻すための、静かなる触媒であると感じています。相性抜群の「Nikon Z50II」と組み合わせて撮影してきましたので、フォトプレビューをどうぞご覧ください。
使用機材:Nikon Z50II + NIKKOR Z DX MC 35mm F1.7
 
明るいF値と内蔵フラッシュの組み合わせによる、清潔な静物表現。被写体はふんわりと優しい光に包まれ、花びらの先の小さな紫の点も愛らしく際立ちました。軽快なレンズだからこそ試せる、光の使い方の柔軟性が表れています。
 
 

使用機材:Nikon Z50II + NIKKOR Z DX MC 35mm F1.7
 
マイクロレンズの視点が捉えた、秋の詩情。黒い網目に溜まった雨水の表面張力の凹凸は、肉眼では見過ごしがちな「形」です。そこに落ちた金木犀のオレンジ色が、モノクロームの世界に一筋の色彩と香りを与えています。水とともに手前の花に焦点を合わせることで、金木犀の持つ微かな質感と香気が、画面から立ち上ってくるような印象的なクローズアップ作品となりました。
 
 

使用機材:Nikon Z50II + NIKKOR Z DX MC 35mm F1.7
 
標準レンズの遠近感と、ガラスへのクリアな映り込み。校舎を見上げた構図は、標準画角ながらもダイナミックな広がりを感じさせます。左側の生い茂る枝を効果的に取り入れることで、画面に奥行きが生まれました。窓ガラスに映り込む青空と雲は、まるで空の続きのようにクリアに描写され、建築物と自然の対比が美しい作品です。
 
 

使用機材:Nikon Z50II + NIKKOR Z DX MC 35mm F1.7
 
露出アンダー表現の中に光る、金属の質感描写。校舎内の階段で、窓の外光を逆手に取り露出を抑えることで、シルバーの道案内と手すりを浮かび上がらせています。反射する光の線が、露出アンダーの世界における強いアクセントとなり、視線を奥へと誘います。明るさの中の細部ではなく、闇の中の質感を捉える、硬質な眼差しが感じられる一枚です。
 
 

使用機材:Nikon Z50II + NIKKOR Z DX MC 35mm F1.7
 
整然とした構成の中に宿る、静かな美しさ。目の高さを階段に合わせて捉えることで、角に貼られた金属プレートが等間隔の横線となり、画面に律動を与えています。アンダー気味のトーンの中に鈍い金色が際立ち、同じく等間隔に並ぶ手前の黄色い点字ブロックが正しいリズムとして配置されています。標準画角で日常を幾何学的に切り取る、構造美に焦点を当てた作品です。
 
 

使用機材:Nikon Z50II + NIKKOR Z DX MC 35mm F1.7
 
標準画角が捉えた、空間の奥行きと温もり。奥へ伸びる廊下を、ロッカー側からの光と、教室の木の扉の暖色で満たしています。F2.8の適度な絞りが、手前のロッカーの影と奥の光のバランスを取り、静寂な空間に暖かさを残しています。人の生活の気配を感じさせながらも、誰もいない静かな時の流れを表現しています。
 
 

使用機材:Nikon Z50II + NIKKOR Z DX MC 35mm F1.7
 
光の反射を主題とした、抽象的な色彩表現。教室の中で露出をアンダーにすることで、床や机、椅子の座面にわずかに反射する光を強調しました。色彩が失われモノクロームのように見えますが、その僅かに残るカラーが、教室という「あの日の空間」の記憶を呼び起こします。光の反射そのものを被写体と捉えるのも面白いものです。
 
 

使用機材:Nikon Z50II + NIKKOR Z DX MC 35mm F1.7
 
映り込みが多層的な世界を構築する。ガラスに白文字で書かれた「D」と、そこに映り込む青空、ビル、そして室内の天井。手前の質感と奥の風景が重ね合わされることで、現実と虚像が交錯するような不思議な奥行きを生み出しています。クリアな解像力が、ガラスのテカリや天井の質感も緻密に捉えています。
 
 

使用機材:Nikon Z50II + NIKKOR Z DX MC 35mm F1.7
 
マイクロ機能が引き出した、ぬくもりのあるディテール。カラフルな紙テープの積み重ねをクローズアップすることで、その色と形が抽象化されています。手で切られた斜めの切り口や、わずかな紙の繊維の乱れが、この作品の主題です。それは、誰かの作業の痕跡であり、人のぬくもりを静かに語りかけてくるような、親密な描写です。
 
 

使用機材:Nikon Z50II + NIKKOR Z DX MC 35mm F1.7
 
開放F1.7が実現する、精緻なピントととろけるボケ味。ピント面のトゲのような表面のディテールは精細そのもの。一方、奥の丸い実たちは、絞り開放のF1.7によって優しく、文字通りとろけるようなボケとなり、主題を幻想的に引き立てています。マイクロレンズの厳しさと、明るい標準レンズの柔和さが見事に共存していて、まさにこのレンズの特長を表すような表現です。
 
 

使用機材:Nikon Z50II + NIKKOR Z DX MC 35mm F1.7
 
開放F値1.7が描き出す、時を超えた光沢と空間。かつて活躍した電車のつり革の円を通して、古い木の床と天井の光沢を捉えた写真です。この時間帯ならではの光で木肌のテカリが強調され、時間の経過がもたらす風合いが濃密に表現されています。電車の内部という閉じた空間に、標準画角が心地よい遠近感を与えています。
 
 

使用機材:Nikon Z50II + NIKKOR Z DX MC 35mm F1.7
 
標準レンズのクリアな風景描写と光条の美しさ。展望台からの夕景をF8まで絞り、太陽が雲の隙間から顔を出した瞬間の光条を捉えました。光条といい雲のディテールといい、このレンズの光学性能の高さを証明しています。「Z50II」のシーンモードには「夕焼け」があり、ダイヤルを回して選択するだけで、このようにオレンジ色を印象的なトーンで描くことができます。標準レンズとして、風景に対してもその描写力を惜しみなく発揮できることがわかります。
 
 

DX新標準マイクロという “眼”
『Nikon NIKKOR Z DX MC 35mm F1.7』の登場は、DXフォーマットユーザーに向けた単なる数字上のスペックアップではありません。このレンズが提供するのは、撮影者が世界と対峙する際の「心地よさ」と「深い気づき」です。標準レンズの自然な画角は感性に優しく寄り添い、軽快な重量は、カメラを構えることへの敷居を下げます。
このレンズが真価を発揮するのは、何気ない瞬間に被写体へ0.16mまで寄ることができるという、マイクロ機能が呼び起こす創作衝動です。標準レンズとしての「日常」の描写から、一気にマイクロレンズとしての「非日常」の細部へと切り替わるシームレスな体験は、「見慣れたものの中に隠された美」を発見する喜びを与えてくれます。細部のテクスチャ、光の筋、影の濃淡。それらは開放F値1.7の明るさと相まって、豊かなボケ味を伴い浮かび上がります。
この小さな鏡胴が、私たちの視覚、そして創造的な眼差しを新たな「標準」へと引き上げます。まさにこの「DX新標準マイクロ」こそが、ZシステムのDX機ユーザー全てに捧げられる、内省的で普遍的な「眼」となるでしょう。ぜひ日常を共にしてほしいレンズです。
Photo by MAP CAMERA Staff
 
   
             
                









 
   
   
   
   
   
   
   
  