
1020:見たまま、感じたままに描写する『 Carl Zeiss Otus ML 85mm F1.4 Z-mount 』
2025年09月19日

カールツァイスより発売される『 Carl Zeiss Otus ML 85mm F1.4 Z-mount 』のフォトプレビューをご紹介いたします。ドイツ カールツァイス社と株式会社コシナとの共同開発による新たな『Otus ML(オータスエムエル)』。「Otus 85mm F1.4」と比較すると重量としては約100gほど軽量化、フィルター径が86mmから77mmに小さくなりました。そしてレンズ構成が11群15枚となり「Apo Planar」から「Apo Sonnar」銘になりました。ヘリコイド機構をベースにした滑らかな金属製のフォーカスリング、どのような握り方をしても操作できるように凹凸のないストレートなデザイン。手作業で色を入れた黄色の目盛、動画撮影時のスムーズな露出のトランジションが可能になる絞りのデクリック機能も採用されています。対応マウントは同じくニコンZ・キヤノンRF・ソニーEマウントの3種。電子接点付きで、各種補正機能にも対応します。今回は、ニコンZマウント「Nikon Z8」と合わせて撮影を行いました。新生Otusの描写力、ぜひご覧ください。
花びらの上にてんとう虫が休んでいたので撮影しました。非常にシャープで立体感のある写りなのですが、実はこのカット最短撮影距離での撮影です。近接撮影時でもこのピント面の解像力、豊かなボケ味、鮮やかな色彩再現性。まさに「Otus」の名にふさわしい、最高峰の写りです。

手前側にコスモスを配置して、七色のベンチにピントを合わせます。ザクっと手前にコスモスを入れたのですが、前ボケも柔らかく奥行きを演出してくれています。だんだんと雲が多くなり、光がフラットになる光線状況の中でも、ピント面のシャープさは健在でベンチの輪郭をくっきりと捉えてくれました。

コスモス畑に咲いている一輪にフォーカスしました。背景が柔らかく大きくボケることで、すらりと伸びた茎と花が、見事な立体感で浮かび上がります。逆光に透ける花びらの薄さや、表面の細かな皺まで、忠実に再現してくれました。

ザラザラとした凹凸のある壁と滑らかな金属とガラスの壁面。質感の全く異なる二つの被写体を撮影してみました。どちらの質感描写もシッカリとしていて、レンズの描写性能の高さが分かります。

色とりどりのホールドが散りばめられた、クライミングウォール。絞り込んで撮影してみると、画面中央から四隅に至るまで、均一でシャープな描写を見せてくれました。それぞれのホールドに落ちる影のつき方も自然で、強い日差しの下でも立体感が失われていません。

夏の木漏れ日が、美しい光のまだら模様を描く森の中の小道。道の中ほどにピントを置くと、手前の草むらが柔らかくぼけ、背景を適度に圧縮し、主役(ピント面)を浮かび上がらせてくれました。この何とも言えない立体感。まさに中望遠レンズならでは、という写りでたまりません。

手前の柵とベンチの前ボケ、背景の木々があるなかで中景にいる人物にピントを合わせた1枚。このシチュエーションでも奥行きを感じることの出来るのも中望遠レンズならではです。

絞りを少し絞り込んで撮影すると、ピントを合わせた幹のディテールが、驚くほど精細に浮かび上がりました。幹の表面のザラザラとした質感を見事に再現してくれています。

窓ガラス越しに、趣のある工房の中を撮影しました。手前の窓枠やガラスへの映り込みが大きく前ボケとなりましたが、気になるような硬さは一切ありません。ピントを合わせた棚の上の小物たちも非常にシャープな描写です。

ガラスに付いた水滴の解像感。鮮やかなフレームの赤色の発色の良さ。ガラスの向こう側にある電話機の柔らかなボケ。主題を変えて撮影しても、画として成立させられるのはレンズの高い描写性能があってこそ。

突然の夕立。空が再び表情を変え始めたのを確認して、遠くを一望できるスポットへ向かってみました。厚い雲の切れ間から、遠くの山々へと光の筋が落ちていく風景。全体的にコントラストが非常に低い、難しいシーンでしたが、このレンズはその光の機微を見事に捉えてくれました。

日が沈み、夕立が過ぎ去ったあとの淡く美しいマジックアワー。実はこの時、すぐ隣の空では雷鳴が響くほどの暗い雲が広がっていました。その切れ間に見えたほんの一瞬の穏やかな空です。紫がかったピンクや淡いオレンジといった、非常に繊細な色合い。先ほどと同じように、こうした微妙なトーンを忠実に再現するのは非常に難しいと思うのですが、筆者が見たまま、そして感じたままを、そのまま写し取ってくれました。

植物を濡らす、無数の水滴。その一粒一粒がまるで宝石のように煌めいています。ピントを合わせた中央の草花を主役に、その手前と背景の植物が、前ボケ・後ろボケとして柔らかくボケてくれました。

『 Carl Zeiss Otus ML 85mm F1.4 』の真価は芸術的なポートレート撮影において発揮されるものだと思いますが、鮮明なディテールを際立たせ、被写体の魅力を余すことなく描き出すこのレンズは、中望遠を愛する写真家にとって間違いのない1本だと思います。
見たまま、感じたままに描写する
『 Carl Zeiss Otus ML 50mm F1.4 E-mount 』から再び始まった「Otus」の物語。前回「Otus ML 50mm F1.4」を撮影した際には好条件に恵まれたのとは対照的に、今回の撮影は悪条件での撮影でした。ただ、その条件が新生「Otus」の真価の証明になりました。どんなシチュエーションだろうと、撮影者がその時見たまま、感じたことをそのまま描写することが出来る『 Carl Zeiss Otus ML 85mm F1.4 』。ぜひ一度、手に取ってこの世界を体験してみてください。
Photo by MAP CAMERA Staff