726:手にする喜び、広い世界への旅路。『PENTAX HD D FA 21mm F2.4 ED DC WR Limited』
2021年10月22日
「銘玉」という存在。魔性の描写で魅せるもの、佇まいの美しさに心とらわれるもの、ほんのわずかにしか生を受けなかったもの。さまざまな理由で、時を超えてなお愛されているレンズをそう呼んでいます。ペンタックスがその誕生から、長きに渡ってユーザーに寄り添うべく開発した「Limited シリーズ」は、まさに銘玉と呼ぶにふさわしいレンズでしょう。
今回は発表と同時に大きな話題となった『PENTAX HD D FA 21mm F2.4 ED DC WR Limited』をご紹介します。公式ページには「“海辺の貝殻とはじける白波、そして水平線までの自然なボケ味”を描き出す」というキャッチコピーが。質感の違う被写体でもそれぞれの魅力を描き分け、奥行きを写し出してくれるということでしょうか。そしてその描写に併せて超広角に位置する21mmという画角も初めてのこと。手にした瞬間、美しい外観に撮影前から多幸感が押し寄せてきます。「撮ればより好きになるんだろうな」と溢れる気持ちを制御しつつ撮影に行ってきました。その写真を是非ご覧ください。
さぁ、撮影に向かって!と踏み出そうとした一歩目。階段にかかった影に、柵の丸模様が連なっている様子がなんとも可愛らしく、条件反射のように気付いたらシャッターを切っていました。朝晩は寒いのに日中は強烈な日光に苛まれる日々が続いていますが、くっきりとした影の面白さが見れると秋の到来を感じます。優しいトーンの描写にも満足。今日一日の撮影が良いものになる予感がします。
山深い土地で生まれ育った私にとって、空を覆い隠すようなうっそうとした森林の中は非常に癒されるスポットです。濃い緑とわずかに覗く青とのバランス。また、その広がりや葉っぱを精細に描写できるかを見ることが出来るので、超広角レンズの素養を測るのにうってつけの構図ともいえます。もちろん本レンズには納得です。
赤い被写体を見つけるとなんとしても写真に収めたくなってしまいます。赤にもいろいろあって、優しい赤、硬い赤、目の覚めるような赤とどれをとってもワクワクするものですが、今回見つけたのは「濃厚な赤」といったところでしょうか。色自体の濃さというよりも、強い日差しを受けてパキッとした風合いになっているところから濃い印象を受けます。番傘の中に潜り込み、画面めいっぱいに赤を入れていきます。遠景でなくとも、広がりを感じる画になってくれました。
木工技術の凄さに圧倒され、しばらく見入ってしまいました。狛犬の表情も全く同じではなく、個性があるように感じます。細かい線や滑らかな曲線、職人の手が織りなす造形美にただただ見惚れるばかりです。このカットもそうですが、21mmという焦点距離は縦構図がハマるとかなりバチッと来ます。高さや迫力など、写真に説得力をプラスしてくれるのです。
すっかり縦構図が気に入ってしまいました。大きな橋の支柱を見上げながら、空とのコントラストを楽しんでいます。この日は雲のカタチも実にユニークで、どうにか橋と雲のコラボレーションを成立させたく様々なカットを試しました。超広角だから出すことが出来る見事なパースペクティブ。きっと、このレンズを持って出かけた際には目線を上にあげることが多くなることでしょう。
『PENTAX HD D FA 21mm F2.4 ED DC WR Limited』を使っていると、なんでもないような一枚が撮りたくなります。そして、撮っているときはほとんど無心なのに見返した写真はとても抒情的。その時に目で見て感じていた言語化できない気持ちの動きを、画として切り取ってくれたような感覚です。景色に感動した時、それが何故もたらされたのか分からなくても。このレンズが一緒なら、また思い出させてくれるのです。
手にする喜び、広い世界への旅路。
遂に登場したD FAのLimitedレンズ。その記念すべき一本目に、21mmという決して万能とは言えない画角を選ぶところに、メーカーのこだわりを感じます。フルサイズ用21mmという新境地にペンタックスユーザーを導くことで、一眼レフにこだわり続けたこの旅路は次のフェーズを迎えようとしています。人間の視界より多くの情報を画面に収められるのですから、その入れ込み方によっては目で見るよりも感動的な画を生み出すことが出来るのではないでしょうか。今回は日中のカットをたくさん見て頂きましたが、星景写真にもぜひお試しください。
今までのLimitedシリーズ同様独特の描写が味わえますが、一度好きになってしまったのなら逃れるすべはありません。ぜひ、沢山の方に虜になっていただきたい逸品です。
Photo by MAP CAMERA Staff