762: Zだから感じる魅力『Voigtlander APO-LANTHAR 50mm F2 Aspherical (Z-Mount)』
2022年05月13日
軸上色収差をはじめとする各種の収差を徹底的に排除した高性能なレンズにのみ与えられる名称「APO-LANTHAR(アポランター)」。元はノクトン、ウルトロン、アンギュロン、クセノンなど数々の銘玉を世に生み出した天才・トロニエ博士が設計し、1951年に大判用として登場したレンズです。それから約70年。その意思を引き継いだコシナが創業60周年とフォクトレンダー復活20周年を記念し、究極の性能を追求して開発されたのが今回ご紹介する『Voigtlander APO-LANTHAR 50mm F2 Aspherical』になります。
今までソニーEマウント用、ライカ互換のVMマウント用と発売されてきましたが、本レンズは新たに登場したニコンZマウント用です。ベースは同じながらもミラーレスマウントの中で最もフランジバックの短いZマウントのために専用チューニングされ、フォクトレンダー史上最高の光学性能を余すことなく発揮するレンズになっています。兎にも角にもまずはその写りからご覧ください。
まずは街を歩きながらスナップ撮影。レンズの中には金属・ガラスなど硬質な被写体を得意とし、少し怪しげで魅力的な描写を持つ個体が存在します。それは解像性能だけではなく、ボケ味やシャドウ部(黒)の締まり、反射する微妙な光の拾い方など様々な要素が重なって生まれるものですが、この『Voigtlander APO-LANTHAR 50mm F2 Aspherical』も間違えなくその部類に入るレンズだと言えます。被写体の素材感が伝わるピント面のシャープさ、艶やかに反射する映り込みの光など、本レンズの実力がうかがえる一枚です。
通りを歩いていると店の入り口に繋がれているワンちゃんと目が合いました。もふもふとした可愛らしい姿を前に思わずシャッターを切ってしまった一枚。写真を確認すると毛並みの立体感に思わず「おおっ!」と声が出てしまいました。絞り開放から非常に解像力の高い本レンズ。絞り込んでいけば全域で解像感のある写真が楽しめますが、『Voigtlander APO-LANTHAR 50mm F2 Aspherical』らしい個性が発揮される“美味しい描写”をするのは、やはり絞り開放かなと感じます。超解像力の中央部をより引き立てる周辺光量落ち、ジワリと滲むような背景のボケ味など、純正NIKKORレンズには無い魅力と言えるでしょう。
息子の手から逃げるてんとう虫。このあと指先から羽を広げ風に乗って飛び立って行きました。本レンズはマニュアルフォーカスのため、とっさのシビアなピント合わせには慣れや運が必要かもしれません。しかし、だからこそ撮れる一枚があると思うのです。AFを合わせることに意識を奪われシャッターを切れなかったり、ピントが外れている写真は「失敗写真」になってしまったり。でも写真ってそんなに完璧を求める事が全てではないと個人的に思っています。自分のタイミングでシャッターを切り、その瞬間を写真に残す。それを叶えてくれるマニュアルフォーカスレンズが私は好きです。
シャッターを切った後「いい写真が撮れたな」と思った一枚。『Voigtlander APO-LANTHAR 50mm F2 Aspherical』は解像感も、光の捉え方も、周辺光量落ちも、全てが絶妙に調和されているように感じます。
最短撮影距離0.45mで撮影したアオスジアゲハ。地面から吸水する時に動かなくなる生態は知っていたものの、カメラ片手に地面に這いつくばり、いつ飛び立つか分からない状況下でスリリングな撮影でした。順光で撮った写真もあったのですが、逆光で輝く羽が美しいこちらのカットをセレクト。近接撮影時のピントの薄さはかなりのものですが、フローティング機構が採用されているので解像感の低下は全く感じられません。全ての距離で絞り開放が使える安心感が本レンズにはあります。
ボディとレンズの重量バランスは完璧。大きめのピントリングは力の微調整がしやすく、ピント面をミリ単位で合わせることが可能です。
Zだから感じる、APO-LANTHARの魅力
アポランターの証である赤・緑・青のラインが誇らしげにデザインされた『Voigtlander APO-LANTHAR 50mm F2 Aspherical』。撮影を終えた率直な感想は「Zとの相性は最高」という事です。マニュアルフォーカスレンズでピント合わせの肝となるファインダーが本当に素晴らしく、その場の空気すら感じるようなEVFの見え方に、さすがニコンと唸ってしまいました。そしてマウントアダプター好きの間で話題となったセンサー保護ガラスの薄さも寄与してのことか、クリアで先鋭な描写を余す事なく楽しむことができるのです。
現在NIKKOR Z レンズの50mmが3本ラインアップされている中へフォクトレンダーが新たな50mmを投入してきた訳ですが、ここまで明確にキャラクターが違うレンズとなるとZマウントユーザとしては悩ましいところでしょう。オートフォーカスが絶対条件なら純正レンズになりますが、レンズを楽しむ、撮影を楽しむという観点で見ると『Voigtlander APO-LANTHAR 50mm F2 Aspherical』は何者にも代えがたい魅力があります。絞りを決め、ピントリングを回し、ファインダーの中で像を結ぶ。ニコンZだからこそ、その写真を撮る一連の動作を五感で楽しみ、撮影することが出来ると思うのです。ぜひあなたのフォトライフにこの素晴らしい一本を。
Photo by MAP CAMERA Staff