856:現代に甦ったオールドレンズ『Voigtlander NOKTON 55mm F1.2 SL II S』
2023年05月20日
「35mm判一眼レフ、創成期へのオマージュ」。そのキャッチコピーの通り、1960年代に登場したF1.2クラスの大口径標準レンズを現代の技術でブラッシュアップ。現代ではもはや使うのが当たり前になってきた非球面レンズを使わず、6群7枚の全てをクラシカルな球面レンズで構成したのが本レンズ『Voigtlander NOKTON 55mm F1.2 SL II S』です。総金属製ヘリコイドユニットと、高品質グリスの採用により、滑らかな操作感覚のフォーカシングを実現。微妙なピント調整を可能にしています。マウントはニコンAi-S互換でCPU内蔵に加え、Aiカプラーも搭載。今回はFマウント、Zマウントで使いことを想定して2台のボディで撮影いたしました。ぜひご覧ください。
このカットは開放絞りなのですが、これだけカッチリ写ってくれるとは思わずに驚きました。それにくわえて手前の照明の「らしさ」を思わせる滲みやボケ感に、予想外に鮮やかになった格子窓の青色。色んな要素が揃っていてお気に入りの一枚です。
開放絞りとF8で撮り比べしてみましたが、F8ではフリンジも改善され周辺の減光もほぼ感じることがない均一な明るさになりました。F4あたりから画面全体で高いシャープネスを発揮するので写真表現の使い分けを楽しめます。
最短撮影距離ではどんなボケ方をするのか見てみました。薄くともしっかりピント面を判別できる解像力があります。ガラスに反射した光やボケ感も良い感じではないでしょうか。
背景に玉ボケが発生するような状況でF2だと絞り羽根の形状もあまり気にならず中央あたりの玉ボケが丸型で綺麗です。さらにピント面の滲みが消え、より立体的で臨場感のある画になりました。F2.8、F4と絞るとさらに解像感が増しますが、絞り羽根の形状がはっきりと見えてくるのでF2くらいに抑えるのがおすすめです。ちなみに隅っこのほうに虹の輪のフレアがちらっと見えていますが、入射角度によって盛大に発生する場合があります。角度によっては何重にもあらわれることも。使い方次第では面白い表現ができそうです。
レンズフードは別売で『LH-55s』がありますが、今回はフード無しで撮影しています。虹の輪ではなくフレアゴーストがどのように出るのかも見てみました。出方には気をつけてはいますが、この陽射しで嫌な感じに出てこないのは非常に好感が持てます。虹の輪とフレアゴーストと光への感受性が豊かなレンズなのでぜひ色んな撮り方で試行錯誤してみてください。
現代に甦ったオールドレンズ
『Nikon D850』のファインダーでピント合わせをするのがすごく楽しい時間でした。ただ開放絞りF1.2を捉えるのは最初は大変かもしれません。だからこそピントの狙いが当たった時は快感です。『Z7II』でピント拡大をして緻密に合わせるのは便利で今となっては欠かせない機能なのですが、光学ファインダーを覗いているからこそ撮りたくなる光があるといいましょうか。この楽しさはどれだけ経っても変わらないような気がします。こういうレンズを手にすると開放絞りに誘惑されてしまうのですが、絞りの違いで表現を変えたくもなるレンズでした。使い方、楽しみ方はそれぞれ。自分が最も楽しめるやり方でぜひこのレンズを味わってみてください。
Photo by MAP CAMERA Staff