1933年に発売されたLeitz初の大口径ハイスピードレンズ、それが今回使用した”Summar 50mm/f2.0″だ。長く愛用され、生産本数も多い本レンズ、コンディション次第では手頃な価格と相まってまず初めに手にする方も多いのではないだろうか。かくいう筆者も初めて購入した思い出深いLEICAレンズである。ただ”ボケ玉”や”クセ玉”としても名高い本レンズ、前玉に使われているガラスが柔らかく、傷のついているものが大半だ。再研磨も多いが、これによってピントが甘くなっている個体も多い。見かける頻度に比して、これだ!という1本にはなかなか巡り会えないレンズとも言えるだろう。
ただその芳醇なトーンと柔らかく繊細な描写は個人的にも大いに好んでいるレンズ、その”ボケ玉”などという悪名はぜひともそそぎ、”Summar 50mm/f2.0″の魅力の片鱗でも、感じて頂ければ幸いだ。
“Summar 50mm/f2.0″の最短撮影距離は1mであるが、中間リングを使用して近接撮影に使用してみた。つるりとした陶器の肌も、陰影の柔らかなトーンも、実に美しい。モノクロームとの相性は抜群と言えそうだ。
光線状況によっては周辺減光も見られるが、これはレンズのクセを見越して使えば立体感の演出などにツカエル特徴でもある。今のカタログスペックの様に優秀でない分、均一なレンズではなし得ないブレークスルーを持っているのもオールドレンズの魅力であろう。
個人的には、屋外では少し絞ったF4.5辺りがクセと甘さとの良い塩梅と思う。今回はフードが無かったが、順光で光線状況により少し絞るなど、手をかければ想像以上に答えてくれるレンズだ。前ボケの解像線を残しつつフレアがかったボケなどは絶品である。オールドレンズだからといって常にボケボケなのでは困るが、そうではない芯のある描写は撮影していても楽しいものである。
花弁の柔らかさ、陰影の豊富さ、開放では大暴れすることもある本レンズだが、こうした”ハマッた”描写を見ると手放せない。原寸画像では葉の表面の細かな毛まで描き出しているのだから恐れ入る。
しっかりと絞り込んで、遠景を撮ってみた。風が強く天気の変わりやすい一日だったが、夕方に兆した晴れ間を1枚。雲の陰影等、コントラストは低いながら実に味わい深い描写をする。”ボケ玉”の汚名返上の1カットだろう。
後ろボケはクセが強いが、前ボケは美しい。逆光でもここまで耐えれば優秀だ。
描写に派手さのあるレンズでは、決して無い。ただその芳醇なトーンと静かな描写は得難い個性を感じさせる1本である。今回はなかなか良いコンディションのレンズを”LEICA M Monochrom”と使用するという得難い機会だったが、改めて見てもこの相性は良いものであった。個体差の激しい本レンズ、しかし”ボケ玉”と一蹴してしまうにはあまりにも惜しいレンズでもある。その実力を、少しでも感じて頂ければ幸いだ。
Photo by MAP CAMERA Staff