2013年のフォトキナでデビューを飾って以来、“究極のレンズ”として人々から羨望の眼差しを受け続けてきた『Leica (ライカ) アポズミクロン M50mm F2.0 ASPH.』。赤、青、紫、三波長の焦点位置を揃え、色収差を徹底的に抑えたアポクロマート設計を採用。更にはフローティング機構の内蔵により、全域において他の現行レンズを寄せ付けない解像力を発揮。レンズ設計の限界に挑戦したかのような本レンズは、その生産の難しさにより供給が安定せず、長らく入手困難な状態が続いてきました。
そして、2015年現在。オーダーから1年待ちが当たり前だった時代は終わりを告げ、新品商品の流通も一先ずは滞りない状態となりました。それに伴い中古市場における相場も緩やかに下降し、やっと「夢」のレンズではなく、なんとか手が届く「高嶺の花」とも言える本来の姿を取り戻した感があります。そうなると気になるのは、幻想を抜きにして語られる実際の評価。初代「M Monochrom」と同時にリリースされた為、モノクローム撮影における評価ばかりが様々な媒体で取り上げられてきましたが、今回は敢えてLeica M(Typ240)を用い、カラーでの作例を皆様にお届けしましょう。
まずはMTFにおいて非常に優れた特性を示す、開放絞りの描写からご覧戴きましょう。ガラス越しでありながら、被写体表面の微妙なディテールを余すところ無く写しています。品の良い光の拾い方と相まって、積み上げられたトングが貴金属の類に見えてくるから不思議なものです。
澄んだ描写、というのが第一印象。但し、それは変に脚色が加えられていないニュートラルな発色に基づくものです。それでいて、リリースノートで「画面全域においてコントラストは50%を超える」と謳われているように、被写体そのものの色を忠実に再現しつつも、克明に描き分けているのも好印象。この作例では絞り値からは想像出来ない程、周辺部の描写が落ち着きを維持している点に驚かされます。ライカMマウントレンズの中において「卓越したレンズ」と推されるのにも頷ける仕上がりを感じます。
ヴィンテージレンズであれば収差に振り回される筈の絞り開放。流石に本モデルは技術の粋を集めた光学技術の結晶。前ボケは非常に上手く纏まっており、このような低光量下はもちろん、様々な撮影環境において非常に安定した結果を残してくれるでしょう。
1979年に発売された第三世代、そして1994年の第四世代『ズミクロン 50mm/f2.0』は4群6枚の球面レンズのみで構成され、長らく標準レンズの座に君臨してきました。本モデル『アポズミクロン M50mm F2.0 ASPH.』は同じガウスタイプを基本としつつ、5群8枚構成へと大幅に設計を変更。8枚のうち3枚に異常分散レンズ、2枚に高屈折特性を持つレンズを贅沢に使用しています。非球面レンズは絞り羽根の直後に配置。その価格や設計思想から、純粋に後継モデルと表現する事は難しいですが、まったく新しい「揺るぎ無い指標」となり得るでしょう。
等倍で見ると、触れそうな程自然な輪郭線。アポクロマート設計により輪郭部の色収差が抑えられている証拠です。カラー撮影に望んで初めて、このレンズの真髄を覗き見る事が出来た気がします。
明暗差の激しい作例においても、シャドーからハイライトまでしっかりと描き出しています。高コントラストの設計でありながら、一般的なレンズが陥りがちな、単なる硬い描写には見えないのが不思議です。
解像力の高さ、そして前後ボケの美しさ。これ以上求めようが無い完璧な描写です。F2という開放絞り値から、F1.4やそれ以上の大口径レンズに慣れた方は少々物足りない描写を想像するかもしれませんが、本レンズで撮影に臨めば、収差がもたらす味やボケの大きさだけがライカレンズの魅力ではないという事に気付かされるかもしれません。
ここまでストレートに、そして忠実に。自らの眼前に広がる風景を完璧に写し取れるスペックを持つレンズは今まで存在しませんでした。「究極」を手にした時、どのような写真を撮れば良いのか。高価なレンズなだけに、誰しもがそうした想いを胸に抱くと思います。
しかしご安心下さい。気負う事無く使い込めば、きっと各々の期待に応えてくれるはずです。今回の『アポズミクロン M50mm F2.0 ASPH.』の撮影では、それだけの「懐の深さ」を感じる事が出来ました。
フォーカシングは好みに応じ、ピントノブと周囲のリングを使い分ける事が可能。フローティングエレメントを搭載している為、ピントリングの動作は少々重めの個体が多いようですが、ここまでの解像力を有するレンズですので、ピント位置の微調整には好都合という印象です。外装は精密な造りで、回転繰り出し式の内蔵フードは比較的厚く、過酷な環境での使用を想定しても問題の無い造りです。
ライツ時代に開発された特殊硝材を使用し、決して妥協する事無く製造された『アポズミクロン M50mm F2.0 ASPH.』
その描写力に再び脚光を浴びる日は、案外近いかもしれません。
Photo by MAP CAMERA Staff