前回に引き続き、ライカカメラ社の光学設計部門マネージャであるピーター・カルベ(Peter Karbe)⽒のプレゼンテーションをお届けいたします。
高い信頼性を追求
続いては、製品クオリティの信頼性という観点から魅⼒をお話しします。高性能なレンズをつくるためには、光学設計において様々な工夫が可能ですが、一方で安定した一定品質の製品を供給するためには、また別の取組が必要です。今回のLマウントプライムレンズシリーズでは、そういった意味でも新しい取組をしています。
⾮常に⾼い光学性能を実現するには、⼯場で製造する際に「公差」という、基準値と誤差をいかに抑え込むかが重要です。公差は当然発生することを踏まえてその影響を考慮して設計を⾏う。という伝統的な考えがあります。 さらに現在のレンズ設計はコンピュータ制御となりました。プロトタイプもコンピュータを⽤いて思案が出来るため、製造に移る前に様々なシミュレーションを⾏い、安定的に⽣産できるようにしています。 |
LマウントレンズはAF駆動。従来のレンジファインダー⽤Mレンズとの⼤きく異なる点だ。
また、製造ラインにおいてはコンピュータでそれぞれの部品をパーツ(群)に分けて管理し、期待した通りの性能が出ているか計測を⾏います。LマウントレンズはAF駆動の為に電気部品を多く使⽤していますので、Mシステムのレンズのように職⼈のクラフトマンシップで組み上げ、その後調整するということは困難です。そこで、パーツごとに⼀つ⼀つ性能が出ているかをしっかり確認し、性能が出ているパーツ・群のみを次の⼯程に進めるという新たな取組をしています。 |
ライカ製品の製造を⾏う、光学製品の聖地、ドイツ・ヘッセン州ウェッツラーの⼯場の様⼦ライカ伝統のクラフトマンシップと最新技術の融合が⾼い性能の製品を⽣み出してきた。
この管理のために、⼯場には新しい計測器を導⼊しました。パーツ群それぞれにQRコードを付けてユニーク管理し、スキャンしてトレースできるようにしています。これにより、⼯程を安定させるほか、組み立てを行うスタッフがその情報を元に次に何をすればよいのか、的確な指⽰も出せる様になっています。 |
複雑な部品構成はQRコードによって管理される。製品の精度と安定的な供給との両⽴を実現するための取組だ。
現在、発売済みも含めて7本のLマウントプライムレンズをラインアップしていますが、「プラットフォーム・コンセプト」により、出来る限り部品とレンズ構成を共通化することで、製品管理・安定性の向上と、コスト⾯の抑制に気を配っています。 |
発表済みの「Lマウントプライムレンズシリーズ」の全ラインナップ。外装の形状・サイズ感が⾮常に近いことが⾒て取れる
中望遠域の75mmと90mm、を<Platform 1>、今年登場の標準レンズ35mmと50mmを<Platform 2>、そして今後発売予定の広⾓⽤の21mm、24mm、28mmの3本を<Platform 3>と3つのグループに分け、それぞれで部品やレンズ構成を近いものにしています。
外装パーツなど、全焦点域でまったく同じパーツを使用しているものもあります。通常は35mmレンズは小さく作ることができ、そこから望遠や広角になると⼤型化してゆくのが⼀般的ですが、Lマウントプライムレンズは全て同じサイズです。オートフォーカス化して機械部品が増えている中でも、コンパクト性能も実現できたのではないかと考えています。 |
各レンズ毎の構成を⽰す図。望遠・標準・広⾓それぞれのプラットフォームで、共通・類似部品が多いことに驚かされる
こちらのグラフは、設計時の理論上の性能と実際の量産時の性能を比較したものです。⾚い線が設計上の性能、⻘いグラフが量産品の性能を⽰しており、双⽅が⾮常に近いところに位置しています。一般的には設計値と量産時の性能にはより大きな差が生じるものなのですが、ライカは作り易い設計をすることでバラつきの少ない設計値に近い性能を持った商品を製造できるのです。「ライカのレンズは当たり外れがとても少ない」ということを⽬標にしています。 |
設計時の理論上の性能と、量産品の性能とを⽐較した図。安定的に⾼品位な製品を供給できることは、メーカー・フォトグラファー双⽅に有益だ
ライカが“⾼性能・⾼解像なレンズ”を作る理由
いったい何の為に⾼解像⼒をもつレンズを作るのかというと、解像度が⾼い写真を撮影できることで、写真を後からトリミングしてもつかうことが出来るようになり、レンズ交換や構図にこだわらずに目の前の被写体に集中して決定的瞬間を逃すことなく切り撮ることができるようになるからです。 |
⾼解像度のセンサーとそれに対応したレンズ、双⽅の進歩が写真により多くの情報と感動を与えてくれる
技術者の観点からみた「優れた写真」というのは、寄れば寄るほど、どんどん情報が増えてゆくような写真だと考えます。これはピンが来た部分と、ボケ部分の描写がクリアで、 偽⾊なども無いものです。 |
ライカの写真への想いには、オスカー・バルナック⽒が試作した「ウル ライカ」に始まるカメラの⼩型化や、スナップ写真への強いこだわりが今もなお⽣きている。決定的瞬間を逃さないその思想は、数多くの歴史的なモーメンツを世に伝えてきた
Lマウントプライムレンズシリーズは今後の⾼画素化にもしっかり対応していますし、製造においても安定供給が実現できる製品群です。このレンズによって、フォトグラファーには撮影における⾃由度や、撮影の瞬間に集中出来る環境をもたらすことが出来るでしょう。 |
ピーター・カルベ⽒の製品への追及はこれからも続いてゆく
絞り:F5.6/ シャッタースピード:1/200秒 / ISO:400 / 使⽤機材:LEICA SL(Typ601) + アポ・ズミクロン SL90mm F2.0 ASPH.驚くほど⾼い性能をもつLマウントプライムレンズシリーズ。これから登場する広⾓側の3種も⾮常に楽しみだ。