帝国光学 Zunow 50mm F1.1 後期 (Leica L39)
2021年02月20日
以前Kasyapa for Leicaで『Zunow 5cm F1.1 前期』をご紹介いたしましたが、今回はそのズノーレンズの後期型。大概のオールドレンズは途中でコーティングや何かしらの仕様変更が行われていたりするものですが、この『Zunow 50mm F1.1 後期』は“ピンポン球”と呼ばれていた凸レンズを含む後群構成を全面的に再設計し、後玉が凹レンズに変更されたモデルになります。使い勝手の理由から凸レンズから凹レンズへ変更されたと言われていますが、果たして描写はどのように変わったのか。ご覧いただけたらと思います。
ガラス奥、雰囲気の良い店内でお茶をする貴婦人の後ろ姿がまるで何かの物語の一節を見ているかのような光景に見えて撮影しました。ピントがやや甘いことが逆に功を奏してまるで絵画のような写りと柔らかく滲む色がとても印象的な1枚です。
全ての要素が中央の被写体を演出する見事な脇役となり、渦を巻くように流れる収差さえ演出のように思えてしまいます。真逆光のシチュエーションに対し中央の被写体である葉っぱのピントのキレ。前回マップカメラを訪れたズノーを少しだけ撮らせてもらったのですがその時も周辺はかなり暴れながらも中央部の解像に関してはオールドレンズとは思えない解像のキレを見せてくれました。年代や造りに少しの違いがあれど、この特性は変わらないようです。まるで夢の世界に入り込んだかのような幻想的で素晴らしい写りを見せてくれました。
レンズ内で跳ね返った光がこれでもかというくらい反射していますがむしろこれは招き入れた結果です。ここまでくると像の結びに影響が出てしまうと思うのですが看板の文字などはぼやけることもなく、むしろクッキリ写っています。
ガラス1枚隔てた店内の様子。ガラスの映り込みや店内に射し込む光による淡いコントラストがとても美しく見えました。光が何かの影響をうけるようなシチュエーションを見るとこのレンズはどのような反応をするのか見てみたくて撮ってしまいます。
レンジファインダーで撮る写真家たちの世界には度々ストリートでの何気ない瞬間を捉えた1枚というのを見かけます。日々撮り続け、培かった経験と直感により生まれたそれらの傑作写真にいつも憧れを抱いていました。この1枚はそんなスナップの世界に片足だけでも入れたのかなと思い嬉しくなった1枚です。
開放絞りで撮るのがこのレンズの楽しみ方と思っているのですが、試しにF4まで絞って撮影してみたところ同じレンズとは思えないほど見違える描写になりました。あの甘い柔らかそうな雰囲気が一変、切れ味の鋭いシャープな写りです。ここまでギャップのある写りは今までの記憶を振り返ってみても、なかなか無いかもしれません。基本となる光学性能が優れているからこそ、開放絞りの柔らかさの中でもピントの芯はシャープだったのだなと納得できました。
絞っても前ボケのクセはそこまで変わらず邪魔になる感じもありません。実際このレンズを手にする目的は開放描写を楽しむ為というのがほとんどかと思いますが、ぜひ絞った時のこの描写も覚えておいていただけると幸いです。
最後にもう一度夜の開放絞りのカットを。前記事でご紹介したズノー前期はボケの形に一癖あったのですが、今回のレンズは白い光が青白く滲むというものです。この特性を活かすというのはなかなか難しいかもしれませんが、希少レンズの個性として可愛がっていただければと思います。
夢現(ゆめうつつ)
絞りを変えることでこんなにも見える世界が変わるレンズというのは現代においてはまさにプレミアムな存在です。このレンズで開放絞りで撮っていた時間はつねにフワフワしたような気持ちで、自然と光が溢れる場所や優しい世界を探し続けていたように思います。勿論ただ日常をこのレンズで切り取るだけでも光の美しさに惚れ惚れする日々を過ごせることでしょう。
オールドレンズの中でも希少な存在の『Zunow 50mm F1.1 後期』。前期型で見た白昼夢のような描写から私はまだ目覚めていないようです。心に残る1本でした。
Photo by MAP CAMERA Staff