薄くヴェールをまとった様なフレアと繊細な描写ライン、そして前後の大きなボケがオールドの大口径レンズならでは。どこか記憶の中の様な柔らかいトーンがこのレンズの持ち味の様だ。
“Summarex 8.5cm/f1.5″は古今のライカレンズの中でも90mm近い望遠域では最大口径を誇るレンズ。戦前から戦中にかけて極少数のロットが造られ、戦後に今回使用したクロームメッキのモデルとなり1960年までの17年製造されたという。戦中は偵察用途としても使用されたという本レンズだが、その優しい描写はこの時代だからこそじっくり楽しみたい美しいものだ。
淡い滲みと、繊細な解像線。少し絞るとフレアが減って解像線が出てくるが、夕日の滲むこうした時間帯の光は、開放でしっとり撮るのが良いだろう。それでも元画像では文字まで読める解像力。当時のLeitzの技術水準の高さがうかがえる。
M型ボディに装着しても、そのマッシブな外観は大いに迫力がある。ヘリコイドのなめらかな感触、絞りの精緻な操作感など、モノとしての存在感は素晴しいものだ。 モノクロームとも実に相性が良く、グレートーンの綺麗さは特筆に値する。若干の滲みがグレーのヴェールを作り、なめらかなグラデーションを実現している様だ。なるべく高解像力のフィルムと取り合わせたいレンズである。
うーん、麗しい描写である。さすが大口径望遠レンズ、ピント面は圧縮した様に素晴しく薄い。ポートレートなどでもその描写は大いに活躍してくれるだろう。
色再現も素直で優しい風合いだ。昨今のマルチコートレンズの濃厚な発色を見慣れていると、逆に新鮮ですらある。
少々暗い中でも、この開放値であればシャッタースピードを稼ぐ事が出来る。撮影できるシチュエーションが広がるのは、何よりも心強いものだ。
<< 専用のフード、フードキャップが揃ってこれでフルセットになる。製造から70年近い年月が経過しているため、セットで存在しているのも貴重だ。専用のORQPOフードは逆さにしてコンパクトに収納も可能。フィルターを装着する場合は分厚いフィルターの場合、LEICA純正品でも干渉してしまいフードが装着できない場合がある。Summarex専用の薄枠フィルターが市販されていたのでそれを使用したい。
バリエーションとしては戦前に極少数のブラックペイントモデルが存在している。ブラックペイントはフード、キャップともにブラックペイント、フードには固定の為のネジが装着されているのが特徴だ。シルバークロームでは画像の前期型の他、赤外線撮影指標のRマークが刻印された後期型、フードバヨネットが通常と異なる最後期型が少数存在している。
総生産数が4342本と極めて限られたレンズであり、どのバリエーションであっても目にする機会は少ないが、そのコストを度外視した豪華な造りと繊細で柔らかい描写は一度は使ってみたい!と思わせる魅力にあふれるレンズである。
Photo by MAP CAMERA Staff