Leicaはその堅牢さや携帯性の良さ、何よりその性能から軍用のカメラとして使われてきた長い歴史が有る。第2次大戦のザール・ライカやグレーペイント仕上げのIIIck等は有名だが、M型の時代になっても『M3 Olive』など数種類の軍用ライカが存在する。今回使用したのはその中でも特に有名な通称『KE-7A』、M4ブラッククロームボディをベースに造られた軍用ライカ専用に生産されたレンズ『ELCAN 50mm F2』になる。詳しいヒストリーは『History of LEICA』コンテンツをご覧頂きたいが、エルンスト・ライツ・カナダの頭文字をとって『ELCAN(エルカン)』とした本レンズは今や希少な1本である。その描写をお愉しみ頂ければ幸いだ。
デジタルのボディではホワイトバランスが自動的に補正されてしまうが、どちらかというと黄色みの強めな発色をするレンズだ。しかしレンズの構成枚数を落とし、生産コストを下げたという噂から想像していた以上に良い描写をする。コントラストやヌケも良く、スッキリとした描写が魅力的なレンズだ。
ボケは輪郭が少し強めだが、被写体の浮き上がりはとても良い。まろやかさがある描写だ。生まれてきた出自が出自なだけに、こうした被写体など想定すらされていなかったレンズだろう。あくまで用に徹した厳しさはその簡素な鏡筒の仕上げからも察せるが、そんなレンズであっても実に美しい描写をするのだ。今の時代に生き、スナップ撮影をしてこのレンズの描写の美しさを語れる。良い時代に生きているとしみじみ感じる瞬間だ。
少し絞れば、その描写は峻厳なものとなる。直線的で理知的な、このレンズの旨とする描写はここにあったのかもしれないと思わせる描写だ。
少し太めな線と、ヤニっぽい発色が時折覗く。ぐぐっと被写体の存在感を引き出す様な描写である。
しかし逆光耐性は本当に強いレンズだ。『KE-7A』には専用の深いラッパ型フードが付属していたが、それを装着すれば色々な光線状態でもしっかりと撮影する事が出来るだろう。そうした点も、このレンズの設計意図の1つかもしれない。
かなりハイキーに飛ばしても、美しい色合いに捉えてくれる。ピントの立ち上がりも良い。廉価版という印象が強いレンズだったが、全くそんな事は無い、ポテンシャルの高いレンズだという事が分かる。
コントラストで描き出すレンズであれば、こうした陰影描写も優れている。夕方の日差しを静かに描いてくれた。
軍用という特殊用途で生産された希少レンズ
小さなレンズである。携帯性にも留意したせいか、50mmレンズにしてはとてもコンパクトな設計で、取り回しが良い。刻印はあくまでシンプルに、被写界深度表なども素っ気ないほどの刻印となっている。通常のライカレンズとはひと味違った”厳しさ”を感じさせるレンズだが、その中に秘めた描写力はあなどれないものだ。単体で販売される事は少なく、『KE-7A』とのセットで見かける事が多いレンズだが、それでもとても稀少なものである。ライカの歴史を語る、貴重な1本だ。
Photo by MAP CAMERA Staff